愛するべき馬鹿者たち
おはようございます。
周囲を見渡すとセレナが一人心配そうに俺を見つめている。
いや、本当はもっと早くから気が付いていたのだが、どうにもセレナが興奮してたみたいで起きるに起きれなかった。
セレナが立ち上がり、セレナの匂いで充たされた天幕内を換気し、一息吐いたところを狙った。
これ以上言及すると彼女の威信に関わるので俺からは何も言わない。
「おはよう、セレナ!」
「やっと…やっと、起きた。心配したんだからな…!」
「重々承知しております…。ごめんなさい。」
俺は頭を下げる。セレナはビックリしているがこれだけでは謝り足りないのでもう一度頭を下げた。
「分かった…分かったから、顔を上げてくれ。」
「あぁ。」
「一つ聞きたい事がある。」
「モネの事か?」
俺は心当たりがあった。事情は知ってるし、俺の事でモネとセレナに揉めてほしくないからな。説明責任はあるはずだ。
「まず俺達が落とし穴に落ちた所から話す。目覚めたらーー」
順番に説明していく。落ちたら催婬の魔法が部屋中に充たされていたこと。モネが俺の事を好いていたこと。不特定の条件が絡み合い俺はモネを抱いた。しかし、それはモネに同情してやったのではなく気持ちの整理をして自ら進んでやったことである。手を出したのもそれ一回だけである。
セレナに裁量権を任せることは既に決めていた。
セレナは黙って俺の話を聞いていた。
「すまん…セレナが居るのに過ちを重ねてしまった。モネは心細かったんだ。ほうっておけば何をしでかしていたのかも想像がつかん…だが、やってしまったことは取り返しが着かない。後はセレナにどうするか任せる。俺に出来るならば一生涯償おう。」
「ソラト…そんなに思い詰めないでくれ。モネもソラトも悪くない。第一、モネの気持ちに気付きながらも最初に我を通したのは私だ。責任は私にもある。」
「セレナ…!」
セレナは力なく笑うと安心させるためか自分にも責はあると言った。俺は自然と涙が伝うのに気付いた。
「ソラト、一人で背負いこむな。ソラトの悲しみも苦悩も二人で分かち合おう。いや、モネも入れて三人だな!」
泣き始めた俺を強く抱き締めるとセレナはそう言った。俺が惚れた笑顔をして。
「だが…私も魔が差したのだろうか…先程から身体が疼いて仕方ない…モネだけではずるい…!ソラト…抱いてくれないか…?」
セレナの美しい顔がすぐ目の前にある。唇を重ねるとセレナを押し倒し二人で愛し合った。
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三時間後天幕を出ると目の前に広がる光景に俺は驚いた四十を超す天幕が広がり冒険者であろう人達が各々の時間を過ごしていた。料理をするもの、武器を磨くもの、気の合う仲間と談笑するもの、酒を飲んでるもの、沢山だ。
前方から俺に近付いてくる人が二人見える。あれは…ガイのおっさんとカインさんか。
「よう、坊主!元気そうだな!救出に来てやったってのに良い身分だねぇ、こん畜生!かわいい彼女とねんごろたぁ良い度胸じゃねえか!ええッ?」
うっ…何故バレた?…俺は途端に顔が赤くなるのを意識した。
「まぁまぁ、落ち着けってカイン。よぉ、ソラト!無事でなによりだ」
ガイのおっさんのフォローによって場は和やかになった。サンキュー、おっさん!
「カインさん、ガイのおっさん、ご無沙汰してます。この度は御迷惑をお掛けーー」
「おっと、それ以上は言っちゃいけねえよ、坊主。俺たちゃ冒険者だ!ブルースの嬢ちゃんから依頼を受けただけだ。報酬は一人金貨二十枚。それも八十人分だ。生死は問わず見つけ出せってな。更に自分で倒した魔物の素材は貰って良いって言う太っ腹ぶりだ。中々ねえ依頼だぜ?なぁ、ガイ。」
「俺のことは相変わらずおっさん呼ばわりかよ…チクショウ…!だがあまり例がない依頼だな。貴族でもここまで金をばらまくような依頼は出さない。」
ブルース、一体どこにそんな金を溜め込んでいたんだ?いや、もしかすると今まで稼いできた金貨の半分はもしもの為にプールしておいたのかもしれない。
あのブルースの事だ。スライム自体睡眠も不要だし、夜は寝ずにダンジョンへ入っていたのかもしれない。
「そうなんですか…依頼を受けた冒険者を集めて戴けませんか?俺から皆にお礼と状況説明をしたいと思います。」
「分かった、直ぐに手配しよう。」
おっさんが頷く。
「おい、野郎ども!集合だ!直ぐに全員集まれ!」
本当に直ぐだった。カインさんが大声をあげると冒険者がなんだなんだと集まってくる。冒険者80名とギルド職員5名、それに俺の従魔5人にセレナ隊10名を入れると丁度100名だ。
これだけの人間が俺とモネを救出に来てくれたのは感動の一言だった。
「あー、静かに!無事依頼は達成されたので当事者から挨拶が有るようだ。見知った顔も居ると思うがこいつが今回の依頼目標のソラト・ユウキだ!ソラト、一言頼む。」
おっさんが纏めてくれて話しやすい状況になった。俺が一歩前に出ると自然と話をうけいれる体勢になった。一つ咳払いをして口を開く。
「皆様、初めましての方は初めまして。見知った顔の方はお久しぶりです。この度はこんな騒動に巻き込んで申し訳ない。俺は銀級のソラト・ユウキです。今回は危険を省みずこんな深層まで来ていただき、ありがとうございましたァッ!87階層に落ちたときは死ぬかと思ったよ…あはは」
「おいおい、まじかよ?87階層って未だに辿り着いたやつが居ねえんだろ?」
「俺が聞いた話じゃ最高で72階層だって話だぜ?それも五十年前の話だ。嘘じゃねえのか?」
「いや、俺はあいつのこと知ってるけど、嘘を吐くような奴じゃねえよ。」
「ってことは本当かよ!やるじゃんあいつ!」
なんかあちこちでこんな話が聞こえてくる。
「おう、お前ら静まれ!そういうことだ!此処に居る奴等全員束になっても勝てねえってこった!間違っても変な気起こすんじゃねえぞ?良いなァ?」
「「「おう!」」」
カインさんの一喝で冒険者共は静まり返った。やはりベテランの言葉は重みが違う。
「はは…まぁ、そういうことで報酬の方は地上に戻ったらきちんと支払うので安心してください。その後酒場を取るので好きなだけ飲むといい!酒は好きかー?」
「「「おう!」」」
「美味い飯は好きかー?」
「「「おう!」」」
「帰るまでが依頼だ!全員生きて帰るぞ!」
「「「おう!」」」
なんだこいつら自分から振っといてなんだけどノリが良すぎる。まぁ殆ど脳筋の方々だからな。
こんな感じで冒険者達に受け入れられた俺は共に50階層まで移動を開始した。
俺の後ろに控えていた従魔たちのうち、ティアが「馬鹿みたい」と嘆いていたが俺もそう思う。だけどその馬鹿が嫌いじゃない。寧ろ好きだとすら感じている。
俺の救出に来てくれた彼等彼女等を無下に扱うことが出来ないのだ。
俺も出来るならこんな愛されるべき馬鹿だと思われたい。
地上へと戻ったのはそれから四日後の事だった。誰一人欠けることなく無事にクロッセアの地に辿り着いたのだ。
次回で三章まとめです。
次々回、新章突入です!




