そしてソラトは…いつものこと
再会しましたよー
再会をしたのはそれから五分も係らなかった。ブルースが上空を翔んでいるチトセから飛び降りるとひどい泣き顔のまま俺の元へ落ちてくる。
「んなぁッ…バカ…!落ちてくるやつが居るかッ!」
「主殿!主殿ぉー!うっ……うぅッ…無事で良かったでござりゅ~…!」
「大丈夫だから落ち着けって…!俺も魔力が枯渇してて今にも倒れそうなんだ。それより他の皆の顔を見させてくれ!」
俺の上に落ちてきたブルースに押し倒されたままスライム状態で落ちてきたブルースが泣きじゃくりながら人の姿に戻り俺にしがみつく。だが幼女姿のままだ、溜め込んだ魔力を解放したからだろうか。
「し、失礼したでござる。主殿、怪我をされてるではありませぬか!治療しても?」
「いや、後にして来れ。皆来た!」
上を指差す俺の指先に釣られたブルースも上空を見上げる。丁度上空を旋回しながら高度を下げ降りてくるチトセが見えた。
「お兄ちゃ…ソラトさん!カミツレちゃんやティアちゃんが居ますよ!あ、隊長…」
着地したチトセを見ながらすぐ後ろにいたモネの声音が萎んでいく。セレナに負い目を感じてるのだろうな。俺はモネの頭に手を置くと安心させる様に優しい声を出す。
「モネ、セレナには俺から説明する。だから安心しろ。まずは無事を知らせないとな。」
「うん。」
「ううっ…気持ち悪い…あ、ソラト!やっぱり生きてた!オレ信じてた!」
「あぁ、ただいま。」
飛行に慣れていないのか気持ち悪そうにしているカミツレがやや落ち込みながらゆっくり向かってくる。
「…ソラト探したのよ。十日もかかったんだから。」
「サンキューな、ティア。」
十日も経っていたのか…迷惑掛けっぱなしだな。物静かにほほを膨らまして怒りを燃やすティアの頭に軽く手を置き乱暴に撫でると次に向かってくる従魔に視線を向ける。
「全く…わらわの手を煩わせるとは良い度胸じゃ!対価はスイーツ三日分を所望するのじゃ!」
「あぁ、悪かったってチトセ。いや、グラネリア。好きなだけ食べさせてやるからさ」
「なっ…!ふ、ふん!良き心掛けじゃ。ならばぬしが後悔するまで食べ尽くしてくれようぞ!」
彼女なりに心配してくれたのだろう。そっぽを向きながらも強かに対価を要求する辺り可愛らしい。グラネリア…そう彼女の真名を呼んだ瞬間、驚いた顔をしていた。
「セレナ…」
「ソラト…ソラト!ずっと…ずっと心配してたんだ…!私は…ずっとソラトに会いたかった…!」
いつもは気丈に振る舞っている女騎士隊長が子供の様に泣きじゃくっている。俺に抱き着くとその視線はずっと俺の目を見ている。俺も目頭が熱くなるがここで泣いたら男じゃない。どんと構えよう。
「あぁ。だけどこうやって深層まで来てくれただろ?それだけで嬉しいよ!ごめんな、恋人になった翌日に行方不明になるなんて…ダメな彼氏でごめん。」
「そんな事ない。私の部下…妹の様に思ってるモネを追い掛けてくれたんだ。ソラトに非はない。モネ…心配してたんだからな?皆待ってるぞ、早く帰ろう?」
「隊長…ごめんなさい…!」
モネの心情は複雑だろう。沢山の葛藤や思いが巡り回ってるはずだ。俺はモネの背中を押しウインクを飛ばしてやる。モネは今はただ、姉代わりのセレナの胸元へと頭を埋め子供のように泣き叫んだ。こっちは大丈夫だろう。あとで俺からフォロー入れとけば元の関係に戻ることは可能だ。
「ソラトー!そいつ、誰ー?」
カミツレが俺の後ろに居るプルに気付いたようだ。紹介してやらないとな。
「あぁ、彼女はプルネリア、真祖吸血鬼姫だ。俺の新しい従魔でもある。プル、俺の従魔のカミツレ、ティア、チトセ、そしてブルースだ。仲良くしてやってくれ。」
プルはその端正な顔立ちを微笑みで崩して元気に自己紹介を始めた。
「プルネリアなの!ソラトのお嫁さんなの!宜しくなの!」
「ぶふぉっ…!」
思わずプルの発言に俺は吹き出してしまった。なんでお嫁さん?
「そっかー!よろしくなー!」
そして動じないカミツレ。ティアはぶつぶつと何かを呟いてる。チトセは何故か頬を染めながらも目を白黒させるという離れ業を披露していた。
「プル…!お嫁さんってどういうことだ?結婚した覚えはないぞ?」
「ソラトひどいの…!プルの寝顔を見たの。プルに血を吸わせたの。プルの血も飲んだの。そしたら結婚なの!」
ん?どういうことだ?寝顔は…確かに出発する前に見たな。俺の血を飲みたいと言ったプルに血を与えた。
というか移動中の夜には俺の血を求めてきたし。
倒れた時にプルの血を飲んだのも確かに後から聞かされたが…あ、ヴァンパイアなりの婚姻の儀的なあれか。
「たし…かに、思い当たる部分はあるが…」
「主殿、一体どういう事でござるか?」
ブルースがずずいと歩を俺の方へ進めてくる。やべ…青い悪魔が目覚めやがった…!
パスを通して従魔たちの感情が流れてくる。喜び、悲しみ、焦燥、不安、ブルースのは怒りと困惑か。ここはガツンと言って主の威厳を見せてやらなくちゃいけない場面だな。
俺は手を下に伸ばしゆっくりと身体を折る。そして頭を地面に擦り付ける。
食らえ!必殺の…!
「誠に申し訳ありませんでしたぁーー!」
土下座…!決まったぜ。
「別に主殿の好きな様にすれば良いでござる。拙者はそれを止める術を知らぬのでござるから。ただ心配を掛けたのだから皆の者にはきちんと謝礼と報酬を支払うでござるよ?拙者はなでなで三時間で良いでござる!」
「ははぁ…!」
俺はブルースにすっかり平伏した。だが彼女は慈母の微笑みを称えながら俺の逃げ道を作ってくれた。
ブルースまじブルースだよ…!
「おーい!ソラトー!」
「ソラトさん!ブルースちゃーん!」
後ろから俺を呼ぶ声が聞こえる。一人はユリアンのものだ。
もう一つは女性の声…?はて、俺に女性の知り合いなんてギルド受付嬢のシャニアさん以外に居たっけか?
近付いてくる人影を見ていると答えはすぐに分かった。
でも彼女が何故ここに?
「アリシアさん!なんで居るんですか?」
エルフの里長であるアリシアさんだった。確かに一緒にクロッセアへと持ち掛けたけどあの白井とか言うおっさんに滅茶苦茶にされた里の復興で忙しいと断られた。そのうちまた里には遊びに行くつもりだったけど…
「お久しぶりですソラトさん。緋龍祭があると聞いてクロッセアに来たと思えばダンジョン内で行方不明者が出たと聞いて調べたらソラトさんの事ではないですか。ですので里を救ってくれた英雄の探索に微力ながらご助力をと。これでも魔法の腕には自信があるんですよ?」
などと言いながら力瘤を作るように白磁の腕をたくしあげてウインクを飛ばしてきた。その腕には筋肉なんか付いてなかった。
うっ、美しい…!しばらく見惚れてしまった。
ってそんなことやってる場合じゃないな。
「たはは、そうでしたか。いや、御迷惑をお掛けしました。」
「そんなことないですよ。私が自分の意思で望んだことですからお気になさらないでください。じゃあ私は後程。」
後ろをちらりと見て俺の事を待ち望んでいたのか、ユリアンが一歩前に出る。
「ソラト、僕が助けに来てあげたぞ!有り難く思い給え!」
偉そうな話し方だが悪い気はしない。俺のこの世界での一番の親友だからな。
「あぁ、ありがとうユリアン!お前が来てくれて嬉しいよ。」
「ふ…ふん!あっちにベースキャンプを設置している。今、カインさんとガイさんが冒険者を纏めているから早く行って安心させて来ると良い。」
「ああ、そうするよ。……おっと」
何故か顔を赤らめたユリアンを不思議に思いながらもベースキャンプの方へ向かおうと返事をして歩き出そうとした瞬間、倒れそうになる。
やべっ、立ち眩みだ…慌ててブルースとユリアンに支えられながらも何とか持ち直す。
「主殿、そろそろ治療をするでござるよ?」
「頼む。モネ、ソファーを出してくれるか?」
「はい!」
短いやり取りをしてその場にモネがマジックバッグから出してくれたソファーに座った俺はブルースに治癒魔法を掛けられるが、癒されるのは傷のみで一向に立ち上がれなかった。
「ソラト、魔力不足なの。プルの魔力をあげるの!」
するとブルースの横から様子を伺っていたプルがそう言って俺の上に馬乗りになる。ブルースが光剣を取り出すと腰溜めに構えるが俺はそれを手で制してプルに頷く。
「口を開けてなの。終わったら気を失うけど起きれば全快してるはずなの。」
などとプルの指示にしたがっていると段々プルの整った顔が近付いてくる。え?ちょ、まさか…!
「ん…ぢゅる…んん…」
キスしてきやがった。しかもディープなやつだ。
抵抗しようと身を捩るが力が入らない。五分ほどその状態が続きやっと解放された。
役得と納得するか責められるかは起きてから考えよう。
おやすみなさい。
ソラトが倒れるのはいつものことです。
べ、別にタイトルが思い付かなかった訳じゃないんだからねッ!
勘違いしないでよね!
すみません…




