正義と悪は惹かれ合う
俺がエルフの里に到着すると夜になっており既に騒動は終わっていた。
結構な強行軍だったが魔物も現れず、唯一の問題といえば、道中セレナのアピールがしつこいくらいだったがアンリエッタさんが助けてくれた為か、比較的快適で安全な旅路だった。
里に案内してくれたエルフの兄妹は里長と長老を呼んでくると言い残し去っていった。広場まで向かうと早速とばかりにブルースが此方にやってきた。魔族を引き摺って…
「主殿、お着きしたのでござるな!此度の騒動の主犯を引っ捕らえたでござる!」
「あぁ、待たせて悪いな。それがそうか…?」
「そうでござる!途中、妙な事を言っていたのでござるが大して驚異にはなり得なかったでござる。拙者に掛かればこの程度朝飯前ですな」
そりゃ、チートスライムのブルースさんに掛かれば余裕でしょうね…(冷汗
魔族の顔を見てみる、紫色の肌に角、尻尾を生やし黒髪だ。黒髪?この世界の人で黒髪は見たことがないな…それに顔にも見覚えが…気のせいだろうか。
「なぁ、セレナ。セレナの国に黒髪の人っているのか?」
「そうだな…ソラト殿くらいしか見たことがないな。王族やそれに準ずる貴族などにはたまに黒い髪で産まれるらしいが私は会ったことがない、何でも建国の王が異界の勇者だったとか昔学んだな。」
「そっか、ありがと。」
俺は一つ確信を得て魔族に話し掛ける。
「なぁ、あんた日本人か?」
日本語で俺は語りかけた、どうやら当りな様で魔族は反応し俺に返してくる。
「あ、あぁ!そうなんだ!俺も日本人だよ!とりあえず縄を解いてくれないか?同郷のよしみだろ?頼むよ」
「それは構わんが何故こんな騒動を起こした?理由を聞かせてくれ」
俺は魔族を睨み付けながらそう問うた。魔族は縄に縛られている為、芋虫のように地に這いつくばりグルグル巻きで滑稽な姿を晒す。そして男は話し始めた。
正直この男の言ってることが理解出来なかった。しかもこいつは俺を殺した張本人だった。転生してまで他人を虐げる理由なんてないのに。
俺はこいつを殺す事に決めた。このまま生かしておいては更なる犠牲者を増やすだけだ。
「ブルース、やれ!」
「承知!」
ブルースに命令を下す。記憶を共有している彼女は皆に通訳しながら日本語を理解しており、この男の出鱈目な戯言を聞きイラッとしていたのだろう。ライトソードを既に精製していた。
「な、なんでだよ!俺は何も悪くねえ!どうして殺されなきゃいけねえんだ!おかしいだろ?!」
全くこの男は…同じ日本人として恥ずかしい。ブルースに手で合図し制止する。一言言ってやらないと腹の虫が収まらない
「おかしいのはお前の頭だ、おっさん。罪もない人を殺して開き直ってるあんたのその態度が許せねえ。あの世で後悔しろアホが!」
「……クッ、クソッたれがぁ!!なめてんじゃねえぞクソガキがぁ!!こんなとこで死んでたまるか!」
おっさんの目が光る。何をした?周囲を警戒していたセレナの部隊の半数近くの五人が魔族を守るように俺の前に立ちはだかる。
「お前たち!何のつもりだ、そこをどけ!」
「「・・・」」
セレナの怒号が響くが彼女達は全く反応しない。どういうことだ?
「恐らく魅了系のスキルでござろう。拙者の分身が相対したクレセントベアの様子もおかしかったのでござる。」
「チッ、バレちまったか。まぁいい、やれ!」
操られたのは五人、一人は奴を縛っているロープを切り、四人の女騎士が目の前に立ちはだかる。クソッ、流石に操られてる人を傷付ける事は出来ない。本当にイラつかせるやつだ…!
あれ、俺ってこんな怒りっぽかったっけ?まぁいい、今は集中しよう。
「ブルース、カミツレ!セレナ達と足止めを頼む!俺は奴を殺す!」
「ははっ、ガキが舐めるなよ!今は逃げの一手しかねえ!」
「逃がすか!」
俺はアイシクル・ブロウを展開し加速する。一発ぶん殴ってやらねえと気がすまねえ…!即座に奴の目の前に辿り着くと俺は全力の一撃を降り下ろす!俺の拳は奴の左肩へ直撃したが、見る見る内に肉が盛り上がり皮が再生し、再生していく。まだだ!顔面目掛けてもう一度拳を振るう鼻に直撃し、顔面が爆ぜる。血の噴水を上がり地面に赤の水溜まりを精製する。だが未だ油断大敵だ!
「これで…!終わりだぁ!!」
心臓目掛けもう一度拳を振り抜く。肉片が飛び散り内臓が破裂し辺りに飛び散った。これで終わッたのか?
「ブルース、そっちはどうだ!」
「主殿が顔面を殴った後、突然気絶したでござる!もう安心していいかと!」
「よし!この場から森目掛けて水を放出してくれ!血の匂いでクラクラする…」
「承知!」
正直立っているのがやっとだが、もう少しだけ踏ん張ろう。同郷の人間を殺したという罪悪感と魔力の使いすぎで頭がフラつく。いやもう奴は魔族だし、関係ないエルフを無慈悲に殺したんだ。そう、これは同郷の出身だからこその制裁だ。許してはおけない事をしたんだ。
ブルースの一声でエルフ達が人払いをし、セレナさんとアンリエッタさんの土魔法で民家を避ける様、水路を作る。俺はカミツレに肩を借り何とか立っていた。
「すまない、カミツレ。少しだけ寄りかからせてくれ」
「ん。気にするなソラト。オレは何にもしてないから肩貸すくらいなら別に構わない。少し休むか?」
「いや、まだ立ってるよ。全部終わるまでは見届けないと…ウッ…」
ぐらりと身体が倒れそうになる。カミツレがサッと俺を支えて事なきを得たが下手したら頭から倒れてそのまま気絶していたであろう。そうこうしてるうちにブルース達が肉片や血を洗い流し終わった様だ。
「主殿、終わったでござるよ。お休みなさって下され」
「あぁ、説明は任せた。すまない、だらしない主で…」
「そんな事ないでござるよ!主殿の雄姿、この目にしかと焼き付けたでござる。カッコよかったでござるよ!」
ハハ、カッコよかった…か。嬉しい事を言ってくれるな、ブルース。
「ありがとう…すまない、頼んだ…ぞ」
俺はそのままブルースに寄り掛かる様に眠りに着いた。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
静かな森の中、カサカサと蠢く音が響く。その音を響かせた張本人はエルフの里から音を立てぬようゆっくりと遠くへ走り去っていった。
「あのクソガキが…いつか、いつか殺してやる…!まずは力を蓄えねえと…複製を使ってなかったらヤバかったな…ムカつくぜ…」
闇に紛れ、こそこそと大きな巨体を揺らしながら男はやがて大きな縦穴に開いた洞窟を見つける。男は迷うことなくその洞窟に入り、力を蓄えることを始めた。次に青年と男が会うのは一年後…運命の歯車は回り始めた。
今話で一章が終了です。
次回は間話を入れて次々回から二章となります。
構成としては十章ほど、二百話位で完結をめざしています。まだ未定ですが…拙い作品ですがどうかお付きあい下さい。




