魔王の手料理
ついに百話目です!皆様のお陰でここまでやってこれました!ありがとうございます!!
ヴァネッサ、アンナを連れシャニアと待ち合わせしている大通りの広場へ向かう。
ヴァネッサのところの魔物、魔族を連れ一度戻ったダンジョン内ではやはり乱痴気騒ぎが行われていた。
昼前だというのに釣った、もしくは何かしらの方法で手に入れた大量の魚介類を前に大食い勝負をしていたり、ジン主導のもと行われていた酒盛りでは何人かが目を回して倒れていたり、セレナとモネ、あとチトセがブルースがいつの間にか用意していたであろう前世の水着に近いものを着ていたり。
ここでチトセの着ていた水着だけがサイズが全く合わずズレ落ちていたことを言及するのは野暮だろうか。
見た目も中身も実年齢に付随せず幼女なのだから仕方ないだろう。
千才を超えるのに起伏の乏しい体を見て龍って成長が遅いのかなと思ったがそんな事はなかった。もう一人のシノンはナイスバディーだからだ。
そのシノンがチトセに無理矢理水着を着せられていたのだが容姿や体型が良いためか視線を集めていた。当人は恥ずかしがりすぐに鎧に着替えていたが。
話を戻す。
シャニアは約束の時間に遅れて現れた。
白いワンピースにストールを羽織り、高いヒールを履いて随分とめかし込んで来たようだ。
砂浜じゃ歩きにくいだろうに。
顔も化粧をしっかりしており道行く人の視線を釘付けにしている。
「ソラトさん、お待たせしてすみません」
「いや、俺も用事が有って今来たところだ。早速行こうか?」
「あの…質問なんですけど、、、何故此処にヴァネッサさんとアンナちゃんが居るんでしょうか?」
「ん?俺が誘ったからな。シャニアもほかに声を掛けてくれば良かったのに」
「誘った?他に声を掛ける?あれ…?」
「ソラト。たぶん二人の考えが食い違ってると思うわ。何て言ってシャニアを誘ったの?」
「ん?この後時間があれば飯でもどうかって誘っただけだが」
「ソラト、それじゃ勘違いするのも仕方ないわ。何処で食べるのか、他にも人が居るのかってことを伝え忘れてるんじゃない?」
ヴァネッサは溜め息を吐くと俺にそう伝えてきた。あれ…これ完全にミスったぞ、俺。完全に主目的を伝え忘れてた。
いきなり現れて飯に誘ったあげく、相手はかなりの気合いの入れよう…
これじゃあからさまに口説いてる様なもんじゃないか!
「ウウンッ…シャニア、そのなんだ…すまん。俺のミスだ、事情を説明するとだなーー」
俺は咳払いをし、謝罪をしてシャニアに事情を説明した。ダンジョン内で遊ぶにはもってこいの場所を見つけ配下達に羽目を外して貰うために画策したこと。料理はバーベキューで海に砂浜だということ。危険はないことを事細かに丁寧に話した。
「はぁ…そうですよね、ソラトさんが私なんかをデートに誘う訳ないですよね…はぁ…」
かなり落ち込んでいる。が、俺はシャニアの肩を掴みこう言った。
「そんな事ないぞ?シャニアは大切な友達だし、いつも世話になってるからな。寧ろ機会があればきちんとした場所に招待したいくらいだ。今回は急遽決まったから声を掛けてみたんだが…うおっ!!ーー」
するとシャニアが俺の腕を掴み、先程まで落ち込んでいたのが嘘かの様に目をぎらつかせ野獣の眼光で俺を射抜く。
「本当ですか?!期待しちゃいますよ?」
「お、おう」
なんか凄まじく怖かったのでなんとなくで返事してしまったが良いだろう。ヴァネッサと隣り合い、やりました!とか良かったわね!とか話してるけど、見なかった事にして俺はアンナの頭を撫で続けていた。
「はぅ~…」という声が手の下から聞こえるが気のせいだろう。
俺は近場にあったクレープ屋でアンナとヴァネッサとシャニアの分を購入し、市場で肉や野菜などを購入しダンジョン88階層へと戻った。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
アンナ達を連れ、88階層に戻るとそこは混沌と化していた。
まず砂浜に林と小屋が出来ていた。小屋はハーフドワーフのホーリー、林はシノンの仕業だな。騎士飛竜から樹龍へと進化したシノンなら砂浜を林に変えるくらい訳ない。
片手間でこなせるだろう。そのシノンはユリアと共に木陰で読書をしておりその麗しい美貌も相まって一枚の絵画でも見ている様だ。俺に気付き傅こうとしたが手で制し止めさせた。
ユリアはお昼寝中だ。
次に目についたのはそこら中で俺の配下、エルフ、ヴァネッサの所の魔物も問わずほぼ全員が酔いつぶれていた。無事なのは子供を含め二十人ほど。
その場でまだ飲んでるのはセレナとモネ、そして以外にもアリシアだった。
「あー!ソラトー!やっひょもろっれひはのはー(やっともどってきたのか)」
「遅いでしゅよー」
訂正しよう、たった今セレナとモネが倒れその場に立つのは一部を除きアリシアだけとなった。
「うふふ、ソラトさんお帰りなさい」
「あ、あぁ…今戻った。とりあえず皆を起こしてやってくれないか?飯にしよう」
「分かりました」
アリシアは微笑みそう返すと範囲状態回復魔法を発動した。苦しそうに眠っていたもの達も頭を振り立ち上がり、俺に声を掛けてくるくらいには回復している。
少し離れたところではブルースとカミツレ、ティアが子供達の面倒を見ていた。尚正確には面倒を見ているのはティアのみで、他は自由なものだ
ブルースは海に向かって光剣を振るい海を割って遊んでいた。
カミツレも居り、負けないぞ!とブルースをライバル視しながら風の刃で遠くの島にある樹木を伐り倒していた。
エルフやコボルト、魔物の幼い者たちに混じったチトセとプルネリアがそれを見て「「「おー!!」」」と拍手しながら面白そうに見ている。
ティアと目が合う。苦笑していたが、俺は親指を立て頑張れと視線で応援しここは問題ないと判断するとバーベキューの支度を手伝うことにした。
シャニアやアンナは客人なので何もしなくても良いと言ったのにも関わらず、精力的に働いてくれている。
シャニアなんかは白いワンピースを着ているにも関わらず平気そうな様子だ。
俺はシャニアに声を掛け清潔な外套を手渡すとかなり喜んでいた。
二メートルほどのまな板…木板に野菜と肉を並べる。
野菜や肉を手頃な大きさで切り、切り終わったものから鉄串に交互に差していくとそれを皿に乗せブルースに回収してもらう。
1000本近くを用意するのに子供達や暇そうにしている者を使い三時間はかかったがこのペースだとかなりの量を作れるだろう。
ブルースが分身し、焼いては空間魔法でしまい、また焼いてはしまいとしているため熱々を提供出来る。
俺はその間に魚を捌き皿に盛る。
刺身だ。
何故かマグロがあったのでサク切りして薄く切ってみた。ブルースの仕業だろう。
「ソラト、何してるんだ?」
後ろから酔いから覚め回復したセレナが声を掛けてくる。慎ましい胸だが、しなやかな肢体にくびれが扇情的だ。
「ん?俺の故郷の料理だよ、食ってみるか?」
俺はマグロの赤身…刺身をセレナに差し出す。肝心の醤油だが市場で普通に売っていた。
そのうち安定し、気が向けば勇者に接触して食わせてやろうか。俺はふとそんな事を思った。
「ムッ…!これは美味い!」
セレナの輝かしい笑顔が広がった。俺はふざけたように手を胸に当てる
「それはようございました。女王様のお口にあった様で何よりです」
「フフ…これからも美味しい料理を沢山教えてくれ。女王の命令だ」
「畏まりました」
「「フフッ…あはははは」」
おかしくなりどちらからともなく二人で大笑いした。
「それでは今日の夕食を楽しみにしていよう。また後でな」
そう言ってセレナは微笑むと小屋の方へ歩き始めた。
ちなみに味噌もある。クレープなんかがあるくらいだ、日本人が転移していたなら作っているはず。他にもドーナツや変わり種で大福なんかもあった。
俺は過去の同郷の者に感謝した。
ブルースの補助もあり初めてにしては上手くいったと思う。
次はマグロのカマ焼き。頭に塩を振りかけじっくり焼いただけの簡素なものだが御馳走である。
味覚がないのが残念だ。
匂いにつられたジン達コボルトが味見と称し二割ほど食べていたが皆美味しい美味しいと食べていた。
次はスープ。アサリやシジミも大量にあったので別々の寸胴に入れ砂抜きしてから煮込み、塩と昆布も入れ出汁を取る。
そこにキャベツや玉ねぎ、ニンジンを皮ごとぶちこみ、じゃがいもは皮と芽を取り丸々入れた。
こっちはエルフが集まり味見を行い、後から湯を足したのはご愛敬である。
俺はそれを横目で見ながら麺を打つ。ラーメンだ。前世で一度ラーメン屋巡りをしていたのだが、好きが高じて遂にはアルバイトも始めた。
その店は麺からスープまで全て手作りで麺がなくなったら店を閉めるというこだわりの強い店だった。
頑固だが優しい店主に麺作りを教わったが及第点を貰えるくらいには麺打ちが出来る。
塩そばが有名な店で具には味玉、剥き海老、もやし、チャーシューだったか。それを再現出来るところだけしてみた。
これは数が少ないから何かゲームをして勝った数名にやることにしよう。
どうせだから限定十食にしよう。そう結論付けると俺は料理に集中した。
久々のメシテロです
(四部ぶり…ぼろぼろに捌いた魚をメシテロと言える如月は勇者だと思う)




