27.急報
真治は三時ごろ、再び浦さん雑貨へ向かった。
浦さん雑貨にはジョンがいた。
ジョンに「学校に行きたくても行けない子どもたちに対し、申し訳ないと思わないのか」と言われ、真治は苦い顔でその言葉を受け止める。
一方孝四郎は、真治の顔を見て、「私が何か話す必要はないようですね」と微笑んだ。
「ありがとうございます。孝四郎さんのおかげですよ」
「いえいえ、私は何もしてませんよ」
それから真治は、時間までジョンと一緒にキャッチの仕事をしていた。この仕事にも慣れたもので、誰に話しかければいいか、わかってきたため、雑貨を買ってくれそうなお客さん以外はスルーしていた。
不意に、ジョンがきょろきょろと辺りを警戒するように見回し始めた。
「どうしたんですか?」
「今日は、あいつ、現れねぇのかな、と思って」
「あいつ?」
「最近、この辺をうろついているやばい奴だよ。細身で顔が丸くて、目がギョロギョロしている奴」
「ふぅん。どんな風にやばいんですか?」
「奴の俺を見る目がやばいんだよ。餌を前にした犬みてぇな目で俺を見てくるんだ」
「……狙われてるんですか?」
「かもな。だからやばいんだよ。俺にそっちの気はねぇのに」
「大変ですね」
「くそぉ、今日は現れるんじゃねぇぞ……」
真治は少しだけ興味があった。ジョンを狙う人物は、一体どんな人間か。しかし店じまいまで、その人物が現れることはなかった。ホッとするジョンとは対照的に、真治は少し残念がった。
閉店作業を手伝ってから、近くの中華料理店へ行った。
「ここの餃子がうめぇんだよ」
とジョンは語る。
実際に餃子を食べ、真治はジョンの言葉に頷く。確かにうまい餃子だった。その後も、ジョンおススメの料理が運ばれてきて、真治は食べた。どれもおいしかった。
「うまいですね、この店」
「だろ? 俺のおススメだよ。安くてうまい」
ご飯を食べながら、上機嫌のジョンとの会話に夢中になっていると、孝四郎にコンコンと机を叩かれた。
「真治君。電話鳴ってますよ」
「あ、本当だ。ありがとうございます」
机の上に置いていたスマホに菜穂から着信があった。
「むっ、女か」
「まぁ、はい」
「俺と女、どっちが大事なんだよ」
「女ですかね」
真治は冗談っぽく言って、スマホを持ち、席を離れた。店を出て、入口の扉付近で、電話に出る。
「もしもし」
「もしもし、真治! 助け、て……」
ひっ迫した声音に、遠のく声。ゆるみきっていた真治の顔つきが鋭いものに変わる。
「おい、菜穂!」
「きゃー!」
と悲鳴が聞こえ、真治はスマホを離し、顔をしかめる。
「どうした、何があった!?」
しかし潰れるような音があって、通話は途切れた。
まずい、このままでは、菜穂が。
真治は店の扉を開け、大声で叫んだ。
「すみません、浦さん! 急用で帰ります!」
返事を待たずに扉を閉め、真治は駆け出した。
どこに行けばいいかわからない。しかし、止まっているわけにはいかない。真治はスマホの発信ボタンを押す。が、通じない。
「くそっ!」
どうする? どこに?
弥恵の姿が思い浮かんだ。弥恵に電話して、居場所を! だが、連絡先を知らない。グループからって、そんなことしている暇はねぇ!
一分一秒が惜しい。真治は【気配感知魔法】を発動し、菜穂の気配を探した。現在の有効範囲はおよそ2 km。しかし2 kmと言っても、遠くになるほど精度が下がっている。
この辺にはいない。では、どこに!?
真治は空を見上げた。群青色の空。空を飛び回れば、地上を走り回るより、早く、効率的に見つけられる。真治は視線を地上に戻す。周りには人の姿がそれなりにあって、自分が忽然と消えたら、何かしらの騒ぎになるかもしれない。
しかし真治は躊躇わなかった。足に魔力を溜め、【跳躍魔法】を発動した。一瞬で天高く跳び上がった真治の姿を誰が認識しただろうか。そんなことに真治は興味ない。真治は【飛空魔法】を発動し、滑空する。さらに【気配感知魔法】も忘れない。
真治はやみくもに飛ぶつもりはなかった。菜穂のいる場所の予想はある。その予想の場所を目指し、真治は急いだ。
――このとき、真治の姿を目視できた者はいなかっただろう。真治の速度は、人間の目では追えぬほどに速かったのだから。




