第3試合 2人にだけ
退院した翌日、俺は学校に顔を出した。
授業に出るためじゃない。天堂と、小田切先生に会うためだった。
放課後、体育館の裏で待っていると、天堂が真っ先に走ってきた。
「雄介! もう出歩いていいのか」
「まだ本調子じゃないけど、これくらいは」
天堂は、俺の右腕のあたりに、一瞬だけ視線を落とした。
俺の左肘の先は、もうない。
包帯も、巻いていない。剥き出しで、そこにある。
が、すぐに、いつも通りの顔に戻った。
「天堂。今日は、話があって来た」
小田切先生は、少し遅れて体育館の裏に姿を見せた。
事情は、天堂があらかじめ伝えてくれていたらしい。
「天堂と小田切先生、2人にだけ、先に言っておきたいことがあります」
俺は、2人の顔を交互に見た。
「戻るつもりです。シングルスは無理でも、団体戦に、ちゃんと出られるところまで」
沈黙があった。
長くはなかったが、その短い間に、色々な感情が二人の顔を通り過ぎたのが分かった。
小田切先生が、先に口を開いた。
「今、この場で見せられるものはあるの」
「まだ、何も」
「なら、今あなたにあるのは、覚悟しかないってことね」
「はい」
先生は、少しだけ目を細めた。
責めているのでも、呆れているのでもない目だった。
「いいわ。誰にも言わない。大河もいいわね。」
「もちろんです」
「ただし」
小田切先生は、俺のほうに一歩近づいた。
「両親には、まだ言わないつもり?」
「今は、まだ」
「無理もないと思う。だけど、いつまでも隠しておけることじゃない。自分の中で、形になってから話すつもりなら、それでいい。でも、期限は決めておきなさい」
その言葉に、何も返せなかった。ただ、頷くしかなかった。
天堂が、少し明るい声で割って入った。
「俺は、いつでも付き合うぞ。カットの練習台でも、球出しでも、話し相手でも」
「ありがとう。ただ、今は、まだ一人でやりたい。サーブのトスも、満足にこの肘では上げられないんだ」
正直に言うと、天堂は少しだけ意外そうな顔をしたが、すぐに納得したように頷いた。
「分かった。準備できたら、いつでも言えよ」
「ああ」
小田切先生は、それ以上何も聞かず、第一体育館の中に戻っていった。天堂も、俺の肩を軽く叩いてから、男子の部活が行われている第一体育館に戻っていった。
一人になった体育館裏で、俺はしばらく、その場に立ち尽くしていた。
誰にも見せられない状態から、誰かに見せられる状態まで、どれくらいかかるのか、まだ見当もつかなかった。
それでも、2人にだけは、もう嘘をつかなくていい。
それだけで、少しだけ、胸のあたりが軽くなった気がした。
ただ。
若松だ。
あの事故を見ている若松は、警察にも呼ばれたはずだ。
この状況を、伝えなくてはならない、そんな気がした。
【キャラクターズファイル】
小田切織絵
26歳。もとインカレ(明和大3年)のチャンピオン。もと光栄高校OB。担当教科は現代文。
身長162cm。カットマン。B91、W69、H80。
【現役時代】
スピード:4 パワー:5 守備:5 フットワーク:4 サーブ:3 経験値:4
結城の父にかつて師事していたそうである。




