庭
僕は久世の腕の中に閉じ込められ、窓から庭へと飛び出た。
きっと、昨夜もそうだったんだ。
目覚めた時の状況からして、僕はこの男にこうして運ばれたのだ。まるで子犬か、か弱い令嬢のように。
この姿を、いったい誰に見られていた!?
ああ、屈辱だ!!
もし、カレッジの連中に知られたら——終わりだ。
なのに、久世の首に両手を回して必死に掴んでいなければ、僕は振り落とされてしまう。
腹立たしい。けれど今は、仕方がないんだ。
世界がおかしいのだから。
久世の腕の中で揺れる視界の先――僕がそこで目にしたのは、六角柱の青く透明な何か。
それが、地面から幾つか生えていた。
人ひとり分の高さ。
その間を、ゆらゆらと動く影がある。
「――あれは」
庭師の。
本来、手に持つはずの長い刈込鋏が、いくつか体に刺さっている。いや、生えているように見える。
それは青く発光しながら、こちらに駆けて来るではないか。
久世が、溜息を吐いた。
通りすがりに、その首が飛んだのを、僕は見た。
裂けるような音は、なかった。
断ち切られた断面から溢れ出したのは血ではなく、激しい青い光の粒子。
頭部はそのまま輝く塵となって霧散し、庭師だった体は、糸の切れた人形のように、地面に崩れ落ちる。
……今のは。
人を殺した?
いや、人?
「久世?」
「なんですか? 坊ちゃま」
眉根に皺を寄せ、苦しそうに、疲れたように、久世は僕を見た。
「……今の」
声が、思ったよりも上擦っていた。
僕は別に、びびってなんかいない。
ただ――この世界は、どうなってしまったんだ?
「――パパは?」
生きているのか。
それとも、もう。
聞いて――どうするつもりだ。
僕の問いに、久世は一瞬だけ目を伏せた。
「そのうちに――」
そう言って久世は、力なく微笑んだ。
その微笑みの裏にある計り知れない空虚に、僕の背筋を、冷たいものが駆け抜けた。




