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R15 終末世界で、執事は僕を調律する。~人外執事×傲慢坊ちゃま~  作者: 島田まかろん三世
第一章 北海道編

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いつも通りの朝のはず

 僕がこんなに呼んでいるのに、久世は一向に現れない。


「……何やってんだよ、あいつ」


 苛立ちまぎれにベッドから這い出した時、それが、目の端に映った。


 カーテンは開いていた。

 僕は、寝ぼけているのか。

 目を擦り、窓の外に目を向けて――僕は息を呑んだ。


 御子柴(みこしば)家の庭園。丹精込めて手入れされていたはずの、薔薇や芝生は影も形もない。代わりに、巨大な結晶体のような「青い蔦」が、空を支えるように天へと伸びていた。


 空には太陽がある。雲も浮かんでいる。


 ただ、太陽を囲むように、二つ重なった巨大な輪が、ゆっくりと、互いに反対方向へ、ぐるぐると回転していた。

 それは、時間の流れまで、引き延ばされているみたいに思えた。


「……嘘だろ。何なんだよ、これ」


 ガタガタと膝が震える。

 その時、廊下から静かな足音が近づいてきた。


 ◇


 コンコン――と、扉がノックされる。

 現れたのは、久世だった。


「おはようございます、坊ちゃま。体調はいかがでしょうか」


 久世はいつも通り、一分いちぶの隙もない燕尾服を纏っていた。だが、その手にあったのは、僕が期待していた洗面用の水差しでも、淹れたての紅茶でもない。


 無骨な黒い柄の、刃が剥き出しの、軍用ナイフだった。

 喉の奥が、きゅっと縮む。


「……久世?」


 名前を呼んだ瞬間、その視線が、僕の右腕に落ちた。

 昨日、機内で真っ赤になっていた場所だ。


 ――なに? こいつ、なんで僕の腕を見ているんだ?


 僕は自分の右腕を見た。

 何もない。


 一応、左腕も見てみた。

 変わりはない。


「坊ちゃま」


 ふいに呼ばれて、僕は久世を見た。

 その目はまだ、僕の右腕を見ている。


「窓の外を、ご覧になりましたね」


 それは問いではなく、確認に聞こえた。

 僕はうんうんと頷いた。


「ああ、見たよ! あれ、なんだよ! 庭が……!」


「はい」


 久世はナイフを持ったまま、僕の顔に、視線を移した。


「世界が、次の音程に移ろうとしています」


「……は?」


 久世は、なにを言っているのだろう。

 理解できない。


 でも、理解できないまま、なぜなのか――僕はじりじりと、窓へと追い詰められている。


「坊ちゃま。この世界はもう、貴方あなたの知っている『遊び場』ではありません」


 久世が、ゆっくりと歩をこちらに進める。その瞳は昨夜、機内で見たときよりも、更に深く、暗い気がする。


「……少し、苦痛かもしれません。ですが……」


 ナイフの刃先が、ほんの少し持ち上がる。

 僕の、気のせいではない。


「今ここで、何もしない方が、よほど危険です」


 久世はさっきから、本当に――いやもうマジで、いったい何を言っているのだろう。


「大丈夫です」


「は? いや。なにが!? え? 何が――!!?」


「ご安心を――」


 だから、何が――!?


「すべて私に、おまかせください」


 いや……待って? は!? だから、どういうこと?


「え!? ちょっ……待っ――!! え? なに!? 嘘だろう――!? 来るな! 来るなって!! やめて!! 来ないでっ。ホントに来ないでぁ久世えぇぇえぇぇぇ――!!」


 僕の叫びに応えるように、部屋がドクンッ――と、巨大な心臓のように脈打った。

 僕はびくっとして、天井を見上げた。


「――え? なに?」


 そう、思う間もなく――右腕に激痛が走った。

 見ると久世が、僕の右腕に、ナイフを――


「ああ……あああああ……ああああああああああ――!!」


 突き立てたナイフを、抜いた。


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