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R15 終末世界で、執事は僕を調律する。~人外執事×傲慢坊ちゃま~  作者: 島田まかろん三世
第一章 北海道編

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 前を行く久世が立ち止まったのは、大通おおどおり公園を一望できる、全面ガラス張りのオフィスビルの入り口だった。


 中に、人影はない。

 床も壁も、ひび割れていない。

 青い蔦も絡まっていないし、結晶もない。


「……今夜は、ここにしましょう」


 久世が、当然のように言う。


 だからって、寝るのに落ち着かないだろう。

 こんな場所。


 だが久世は、お構いなしに中に入っていった。

 僕が「嫌だ」と言っても、聞かないのはもう分かっている。

 スイートルームを用意しろとは言わないが、せめて、壁には囲まれたい。


 そう思っていると、久世は、一階の床の上で、バックパックから簡易テントを取り出し、手際よく組み立て始めた。

 そして、一つしかない寝袋をテントの中に置いた。


 キャンプだ。

 これなら許そう。


 僕は、コンビニのサンドイッチを食べながら、ガラス越しに公園を見ていた。

 夕闇が、ゆっくりと人々を包み込んでいく。

 自衛隊が設置した照明の光が、日が落ちた公園を浮かび上がらせていた。


 その時。


 風に乗って、かすかに音が聞こえた。


 ――歌?


 誰かが、鼻歌を歌っているみたいな。

 けれど、旋律はなく、言葉もない。

 ただ、揺れるような、擦れるような音。


「……なあ、久世」


「はい」


「さっき言ってた『歌』って……」


 久世は答えず、僕の隣に立った。

 たぶん、同じ場所を見ている。


 ガラスの向こうで、灯りが一つ、また一つと増えていく。

 その下で、人影が、同じ方向に揺れ始めているのが見えた。


「夜は――見るものではありません」


 その声は、僕にはひどく冷たく聞こえた。


「さあ、今日はもう休みましょう」


 久世が首を傾げ、僕を見る。

 僕はちらっと久世を見た。


「坊ちゃま」


 僕は、それを無視して、微かに聞こえてくる「歌」に、耳を澄ませた。


「坊ちゃま」


 久世がもう一度、僕を呼ぶ。


「早く寝袋に入ってください。でないと、私が占領して差し上げますよ」


 僕は目をパチクリさせた。


 冗談じゃない。

 そこは僕が寝る場所だろう。

 お前はバックパックを枕に、その隣で寝ると言ったはずだ。


 だが、こいつは本当にやりかねない。

 僕は急いで横になった。


 すると、さっき立ち寄ったコンビニで手に入れたアイマスクを、有無を言わさぬ手つきでつけられた。

 耳栓も。


 視界と音。

 僕を外の世界と繋ぐ糸が、久世の手によって断ち切られていく。


 ――勝手に……と、思ったが。


 こんなになってしまった世界で感覚を奪われ、闇の中に放り出されても――すぐ隣には久世という熱がいるのだと思うと、心の底から安堵した。


 けれど、今日の出来事を思い出して、僕は身を縮める。

 その頭を、久世が撫でた。

 金属の香りが、僕の鼻腔を満たして……僕は密かに、夢の狭間へと堕ちていく。


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