人工の灯
メンテナンス扉を抜け、地上へと続く階段を駆け上がると、そこは、大通公園の中だった。
「……あ」
思わず声が漏れた。
人工灯の中で、肩を寄せ合っている人が見える。数十――いや、数百という単位の生存者だ。彼らは公園の中央に集まっていた。地面に座り込んでいる者、呆然と空を見上げている者……。
もしかすると、パパたちのことを久世がはっきりと口にしないのは、生きている確かな証拠がないから。
これだけの人が無事なのだ。そうだ――パパたちもきっと。
それだけではない。自衛隊の車両が、いくつか停まっているのが見える。
助かる。
御子柴の名を出せば、パパに連絡がつくかもしれない。
――いや、つくに決まっている。
「久世! ほら、あそこに自衛隊が――」
僕を無視し、歩きだす久世。
「ほら! 見ろって――!」
僕は、久世の袖を掴んだ。
久世は足を止め、振り返る。
「……坊ちゃま」
低い声だった。
僕は身構えて、久世を睨んだ。
「なんだよ」
久世は呆れたように短く溜息を吐き、人差し指と親指で、自分の眉間にできたシワを摘まんだ。
「水も食料も十分あります。それよりも、そろそろ日が暮れます」
「だから――!?」
僕は、久世の袖を引っ張った。
「夜になるなら、あっちの集団に混ざった方が安全だろ! 自衛隊がいるんだぞ!」
久世は彼らを、ゴミを見るような目で一瞥した。
そして、空を見上げ、口を開いた。
「……アレは」
ぽつりと言う。
「夜に、歌を歌うのです」
久世はそう言うと、逃がさないと決めたかのような力強さで、僕の腰を引き寄せた。
こんな、公衆の面前でだ。
驚いて、僕は言葉を失った。
久世と目が合う。
途端に、ふわりと香る。品のいい金属に似た匂い。
久世の使っている香水って……どこのブランドだろう。
……今、そんなことを考えている場合じゃない。
けれど、久世の腕に拘束されながら立ち上る熱に、僕の思考はひどく甘く、濁らされていく。
そもそも、久世の体温は、平熱より少し熱いのだ。
僕はその胸をググっと押して、離れようとした。
けれど、久世の力には逆らえず、自衛隊の拠点とは真逆の方向――青い光を撒く街路樹が並ぶ、ビルの隙間へと足を進めるしかできない。
下手に逆らっても、人の目を引くだけだ。
「わかった――わかったから。離せ……」
僕の訴えに、久世が足を止めた。目を伏せて、僕を見ている。
それは、僕の全部を見透かそうとしている者の表情に見えた。
なにかを探っているような、計算しているような瞳。
その、冷徹な瞳に射すくめられ、僕は、ごくりと喉を鳴らした。
名前を口にしようとしたとき、「久世」の、僕の腰を引く力が、ふっと消えた。




