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R15 終末世界で、執事は僕を調律する。~人外執事×傲慢坊ちゃま~  作者: 島田まかろん三世
第一章 北海道編

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問い

 どれくらい、時間が経っただろう。

 管理通路の冷たい空気で、僕の指先が痺れ始めた頃。

 重ねた手の下で、久世の指が、ぴくりと跳ねた。


「……っ」


 僕は息を呑み、反射的に手を引っ込めようとした。

 けれどそれよりも早く、久世の手が、僕の手を包み込む。

 指が絡んだ。


「……逃げないでください、怜央れお様」


 掠れた声。

 間近で見る久世の瞳は、黒くて丸くて――黒曜石みたいだ。

 僕は思わず目を逸らした。


「起きていたのか? せこいな」


「……いえ。今、目が覚めたところです」


 その声は、もういつもの久世に戻っていた。


「ふんっ。どうせ、嘘――」


 言葉が終わらないうちに、僕はグッと腕を引かれた。

 久世の胸に、頭が引き寄せられる。

 僕は反射的に久世を見上げた。その瞳が、僕をじっと見下ろしている。

 一瞬、怖いと思った。


 それなのに久世は、何ごともなかったかのように立ち上がり、身なりを整え始める。僕の気持ちは、置いていかれたのだ。


「……久世。前から聞こうと思っていたんだが」


「なんでしょう?」


「お前時々僕を――『怜央様』って呼ぶよな」


 僕の問いに、久世の手が止まった。

 久世は、僕を見詰めて眉を上げ、その口元に、意地の悪い微笑みを浮かべた。


「……夢でも、ご覧になったのではないですか? 坊ちゃま」


 くそっ。

 はぐらかされた――!!


「僕の質問に、答えないつもりか?」


 脅しのつもりで、僕は一番低い声を出した。

 なのに久世は、気にも留めない様子で、バックパックを持ち上げ、背負った。


「さあ坊ちゃま。無駄話をしている時間はございません。先を急ぎますよ」


 意識を無くして呑気に寝ていたのは、お前じゃないか。


「待て久世! 説明しろ!」


 僕は久世に駆け寄り、その燕尾服の襟元を、力任せに両手で掴んだ。


 訊きたいのは、僕をたまに名前で呼ぶこと――だけじゃない。

 東京に向かう理由も、僕は聞いていない。

 ほかにも、たくさんある。


「お前は、何を知っているんだ!? パパは? ママは? じぃじはどうなったんだよ――!?」


 久世が、僕を見下ろす。

 その瞳には、なんの感情も見えない。


「そのうち――と、言ったではありませんか」


 こいつが答えないのは、分かっていた。

 けれど。


「子ども扱いするな!! ちゃんと教えてくれれば……ちゃんと、飲み込める――!!」


 叫びながら、僕は、涙ぐんでいた。

 自分の無力さが、視界を滲ませていくのがたまらなく悔しい。


 久世は両手で、僕の拳を包んだ。

 僕の手は、襟元から引き剥がされた。


 そして久世は、諭すような声で僕に言った。


「子どもなのですよ。……私の腕がなければ、一歩も歩けぬほどに」


 僕は、言葉を失った。

 どの口が言う。


「お前――さっき、気絶していたじゃないか! それを護っていたのは、僕だ!!」


「……ええ。そうですね、坊ちゃま」


 それだけ言うと、久世は僕を無視するかのように歩き始めた。

 その背中には、謝罪も感謝も微塵も感じられない。それが、僕の心臓を冷たく締め付ける。


「久世――!」


 振り向かない。

 さっきまで、僕の肩に乗っていたはずの。


 僕が、追いかけるしかないと知っているのだ。


 久世が、メンテナンス扉の重いレバーに手をかける。金属が悲鳴を上げ、その向こう側から湿った冷気と、「何か」――が、這いずる不気味な音が、こちらに流れ込んできた。

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