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わたしたちの落神様  作者: サカシタテツオ
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048-2 旅先の朝


□旅先の朝



「苦しい…。」

目を覚ますと、またもや見慣れない天井。

-- そか。遺跡調査に来てるんだった。


昨日、なんとか遺跡まで辿り着くとすぐにテントに案内された。

先頭集団の方々が俺と森人達用のテントを真っ先に組み立て用意しておいてくれたのだ。

俺はそのままテントの中に転がり込み、ど真ん中で大の字になる。


昨日の記憶はそこで途切れている。

多分そのまま眠ってしまい、夕食の時間にも起きる事が出来なかったのだろう。

-- それはそれとして。

-- お前達は全員で俺を枕にしてんじゃねーよ。

-- おかげで怖い夢見ちゃったじゃん!!


俺は森人達の体を押しのけ立ち上がり、ようやく息苦しい満員電車のような状況から脱出できた。


外に出ると大きなテントがいくつも並んでいて、焚き火の後も複数ある。

今も火が燃えているところは夜通し見張りをしてくれていた警護の人達が少し眠そう顔で座っていた。

俺は「おはようございます。」「お疲れ様です。」「昨日はありがとう。」と声を掛けつつ野営地の状況を見て回る。


街道から少しだけ南側に外れ、比較的大きな石の少ない原っぱのようだった。

北側の山脈は蟻穴ノ里から見るのと少しカタチが違って見える。

ヨシオ日記にあった大きく山肌が崩れた場所もはっきりと分かった。


北東には小高い丘があり、その向こうから四角い柱のような構造物がにょきにょきと突き出ている。

きっとソレが神人の遺物達なのだろう。

南側はずっと原っぱ。

遠くに低い山が見えるので原っぱはその辺りで終了なのかもしれない。

点在する大きな石はよく見ると人工的な印象を受けるモノが多い。

無造作に転がるその石達も神人達の作った古代都市の痕跡なのかもしれない。

そんな景色を見て、ようやく自分が里の外の世界に来ている事を実感する。

体中に血が巡る感覚が走る。

それが外の世界を実感したからなのか、古代遺跡と言うロマン溢れる場所に居るせいなのかは分からないけれど、自分が大興奮していると言う事をしっかりと理解した。



「「「おはようございます、ジョン様!」」」

澄み切った空気に響きわたるキラキラヴォイス。


「おはよう、みんな早いんだね。」

スラッと出る挨拶。

その挨拶にプラスアルファな言葉を追加で出せるようになっている自分に驚いてしまう。

そんな俺の事情になんて構う事なくキラキラちゃん達の言葉は続く。


「朝ご飯の仕込みです。」

「ジョン様、元気なら手伝って下さい。」

「元気じゃなくても手伝って下さい。」

いつものキラキラちゃんズらしくない。

俺にヘルプを求めるだなんて珍しい。

頼られると断れない。いや断れるんだけど、彼女達に頼られると断れない。

お人好しだと自分でも思うけれど。


聞くと献立で悩んでいるそう。

昨夜用意した豆のスープが予想以上に残っていて、その再利用法について意見を求められる。

俺は冷えた豆のスープを味見してみる。

塩胡椒ベースの味付けで、干した肉から出たダシとほのかに豆の甘みを感じる。まずくはないけど物足りない。

-- 酸味が足りない?


キラキラちゃん達に指示を出し、豆のスープの大鍋に干したトマトと潰したニンニク、そこに胡椒を追加して刻んだ唐辛子を極少量だけ投入する。さらに水溶き小麦粉を使って少しだけとろみを出してみる。

更に屋台の調理器具を使って硬く水気のないパン達を蒸し、柔らか暖かなパンへと変身させる。

もう一品二品欲しいけれど、そんな準備をする時間はなさそう。

それぞれのテントからみんなが起き出してきた。


「あとは干し肉なり干し魚なり、好きなように齧ってもらえばいいか。」

俺的には満足出来ていないけれど、キラキラちゃん達は味見しながら喜んでいる。

その様子を見るに、彼女達の予想を少しは上まわれたのかもしれない。


「さすがジョン様、食べ物の神様なだけはある!」

いつの間にかキラキラちゃん達に混じっていたシギさんが声を掛けて来た。


「俺って食べ物の神様なんだ?!」

突然のシギさんの言葉に、俺は脊髄反射的に返事をしてしまう。


「え!違うんですか?!」

今度はシギさんが反射的な反応。

それに対して、どう答えるのがいいのか分からなくなったので、しばし無言で見つめ合ってしまう。


「えーと…。それでいいです。食べ物の神様って事で。」

成長したと思っていた俺のコミュニケーション能力は、実のところ大して成長していなかった事を思い知る。

シギさんの方もなんだか困った様子でお互いに意味もなく微妙な笑顔。


「「「ジョン、ジョン、ジョン!!」」」

朝から元気な森人ユニゾン。

-- 助かった!


「ういういー。ここに居るー!」

森人達に返事をした後、シギさんに向かって軽い会釈。それでさっきの会話は打ち切り。

どうせシギさんだって困っていたはず。ちょっと強引な幕引きだけど、きっと許してくれるだろう。


「目覚めたなら、僕らも起こしてよね。」

「起きたら居ないとか焦るから。」

「枕のくせに生意気な。」

「このいい香りで目が覚めた。」

「ジョンの腕枕、フヨフヨしてて良かったで。」

思い思いに言葉を発する森人達。

今朝は五人全部を聞き分けられた。


-- 俺もなかなか成長してるじゃん!

-- それとな18号。誤解を招くような言い方は避けて欲しいの。

-- シギさんの目がパチクリしてて、きっとまた新しい妄想が始まってるに違いないの。


そうやって旅先でも賑やかに朝が始まる。



今日から本格的な遺跡調査。

俺に出来る事なんて何も無いだろうけれど、こんなの見学してるだけでもテンション上がって仕方ないでしょ!!




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