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わたしたちの落神様  作者: サカシタテツオ
109/112

047 キラキラ式トレーニングと


□キラキラ式トレーニングと



「「「ジョン様遅い!遅すぎです!」」」

キラキラちゃんズの容赦ない言葉が飛んでくる。


「フヒー…。」

かれこれ三時間ほど歩き通し。

神人の古代遺跡の調査まで残り十日を切った頃から、俺のトレーニングは有能介護士スイ同伴のリハビリ運動からキラキラちゃんズによるスパルタ式に切り替えられていた。


「屋台を持って行くって言い出したのはジョン様なんですからね!」

「そうですよ!おかげで私達まで屋台を引くはめになったんですから!」

「私達だってリアお姉様のそばに居たいのを我慢して付き合うんですから!」

キラキラちゃんズそれぞれの怒りのお言葉。


確かに「屋台を持っていけたらなぁ。」って言ったのだけど、本当に用意されるだなんて思ってもみなかったのだ。

俺一人で引いて行ける訳ないので、リアがキラキラちゃん達に屋台引きの交代要員を命じた結果がコレ。


「キラキラ女子達に怒られながら屋台を引っ張る俺、超カッコ悪い。ハヒー…。」

スパルタ式トレーニングは青年部の建物から先日行った里の東側の集落まで屋台を引いて行き、そこで日替わりメニューを地元の皆さんに振る舞った後、青年部の建物までUターン。

途中何度もキラキラちゃん達に交代するのだけど、彼女達は屋台を引いていても歩く速度は全く落ちないのだ。

驚異の体力。いや脚力?


俺の場合は言うまでもない。


だからこその彼女達の不満の声の雨あられ。

-- 頑張るしかないんだけどね。

-- 豆腐メンタル以上に舐めちゃいけない俺の基礎体力。


「フヒー。」



「お疲れ様です。」

「到着です。」

「少し休憩です。」

目的地、里の東側にある集落。

タマホメの出身地域。

ここを目的地に指定したのはタマホメ自身。

出身地域についてあまりいい顔をしないと聞いていただけに、その提案は意外だった。

だったけれど、俺には断る理由もないうえに断る権利さえなかった。

そう、決定してから伝えられたから。

コースもスケジュールも日替わりメニューの内容も、全てキラキラ仕様でございます。


俺が大きな木の下で大の字になり休憩している間もキラキラちゃん達はテキパキと調理の準備を進めてくれている。

-- そこまでするなら、いっそ調理まで全部やってくれたらいいのに…。


その俺の小さな呟きは彼女達に聞こえる事なんて絶対なかったはずなのに


「言い出したのはジョン様ですからね!」

「ジョン様が作らないと意味ないですからね!」

「私達はサポートに徹しますからね!」

ハモらないキラキラヴォイス。

-- キラキラ女子達に怒られながら調理する俺。

-- コレはコレでありか…。


今度は注意して、より小さな声で呟き、ゆっくりと体を起こした。



「んで、今日は何を作るんだっけ?」

本当は分かっているのだけど、一応確認の為と俺のボケボケキャラを定着させるため。

コレは俺が勝手に始めた内緒の実験みたいなもの。

なんだか一部で俺の評価が過剰に高くなっている気がするので、俺は出来ない男なのよって事を再度、周囲にアピールしているつもりなのだ。


-- 本当に何も出来ないんだけどね。

今のところは上手くいってると思う。


「今日はガレットです!」

「生地は私達が準備しますから!」

「ジョン様は具材の準備をお願いします!」

キラキラちゃん達の返事を聞き終えてから、俺は具材の準備に取り掛かる。


調理が終盤に差し掛かるころタマホメが戦線離脱し、集落の人達に声をかけて回る。

その声で集まってきた人達にどんどん食べてもらい、その感想を直に聞く。

-- 結構嬉しい。


中には口に合わない人もいるけれど、(おおむ)ね好評。

その間もタマホメは集まった人達につくり方の説明をして回っていた。

同じ食材でも食べ方や調理法を変える事で、今まで食べたことの無いご馳走に生まれ変わるのだと、ジョン様はそれを伝えに来ているのだと余計な事まで付け加えつつ説明している。

-- お尻がくすぐったくなるからやめてよね!


俺の出来ない男なのよアピールは全然まったく効果はなかったようす。



青年部の建物へ向かう帰り道、キラキラちゃん達が俺に声を掛けてくる。


「こんなペースで本当について行けますか?」

「出発は明日ですよ?」

「ジョン様が倒れても私達は立ち止まりませんよ?」

心配してくれてるんだろうけれど、結構キツイよね、ナカゴちん。倒れた俺は置いて行くつもりなのか…。


「とにかく頑張る!迷惑かけないよう頑張る!保証は出来ないけれど!!」

保証出来ないところを強調しつつ、明日の旅路は倒れず頑張る宣言。


「遺跡の調査なんて退屈なだけなのに。」

「里の外なんて、ずっと原っぱしかないのに。」

「同じような景色ばかりで飽き飽きするのに。」

口々にその旅路の退屈加減を主張してくるけれど、俺にとっては里の外側なんて初めての経験。

ワクワクするなって言う方が無茶なのだ。


「大丈夫だって!古代遺跡だなんて男の子の浪漫だし!それにここ数日のトレーニングで体力だってバッチリだしね!!」

大声でそう言いながら、未だぷよぷよの腕で力こぶを作ってみせる。ぷよぷよ過ぎてこぶなんて出来ないけれど。


「「「全然ダメです!!!」」」

否定の言葉で綺麗にハモるキラキラヴォイス。

ハモった後、お互いの顔を見合わせるキラキラちゃん達。

ほんの少しだけ間を置いて「ブフッ。」と吹き出したのはナカゴちん。

釣られてみんなが笑いだした。


「そんなぷよぷよな腕を見せられても!」

「なんでそんなに自信たっぷりなのかわかりません!」

「大丈夫ですよジョン様。倒れても縄付けて引きずって行きますから!」

悪意があるのか無いのか、ナカゴの提案はかなり痛そう。


「倒れたらスイを呼んで!スイなら抱っこしてくれるから!君達よりずっと優しくしてくれるから!!」

俺がナカゴの提案に対案をぶつけると、更に大きくなる黄色い笑い声。


「ジョン様、他力本願すぎ!」

「確かにスイ様ならお姫様抱っこしてくれそう!」

「男の意地とかないんですか?!」

悪意の成分がかなり低めの軽口が飛び交う。

彼女達とこんなにスムーズに会話出来る日がくるだなんて思っても見なかった。

-- いや、女子とちゃんと会話出来たのも、こっちに落とされてからか…。

-- ヤな事思い出しちゃった。


屋台を引くトミテを挟んで、キャッキャと盛り上がっているキラキラちゃん達。

その後方で徐々に距離をあけられつつも、なんとか付いていく俺。まゆ網のように、何かに使えそうなモノはないかとキョロキョロしながら歩く。

-- 食べられる野草とかカラスさんに教えて貰えると助かるんだけどな。


そんな俺の元に前方からタマホメが走ってくる。


「大丈夫ですか、ジョン様。疲れ切ってしまいましたか?」

最近、彼女達から優しい言葉をかけられる事が増えて来たものの、やはりまだ慣れなくてお腹の底の方から熱いものが込み上げて溢れそうになってしまう。

けれどシギさんに一部始終見られていた苦い経験を繰り返す訳にはいかない。

熱い思いをグッと押さえ込み、一呼吸置いてから返事を返す。


「大丈夫。本当に大丈夫。まだまだ貧弱な体だけど、以前に比べたら雲泥の差!」

「そうなんですか。でもダメなら言って下さいね。その時は引きずって帰りますから!」

優しい優しいと思って感動したらこの仕打ち。


「引きずるんだ!!」

「はい!ズリズリと!」

痛そうな処刑方法をニッコリ提案するタマホメ。

けれど目が心の底からは笑ってない。

そんな気がする。

きっと他に言いたい事があるんだろう。

けれど俺からは聞かない。

出来ない男は空気も読んじゃダメなのだ。

今決めた俺ルール。


「ジョン様。今回この無茶なコースを提案したのは私なんです。」

俺が黙っていると唐突に今回のスパルタ式トレーニングメニューについて語り始めるタマホメ。


「知ってるよ。」

今回の提案内容決定のプロセスは前もってリアから報告を受けていた。「拒否権はないのよ。」と言う凄みの効いたお言葉と共に。


「私のわがままだったんです。ジョン様の作る美味しい食べ物をみんなに知って欲しくて。自分達の作る作物がこんなに美味しくなるんだって事を知って欲しくて…。だから、その、怒ったりせずこんな遠くまで付いて来てくれて本当にありがとうございました。」

ようやく本題を口にするタマホメ。けれど、まだ何か想いを口に出来ていないようで、必死に言葉を探しているふうにも見える。

なので俺は無言で答える。

軽くひとつうなづく動作。


「ジョン様の作る美味しい食べ物を食べながら、材料や作り方を伝えていくと、みんな最初はびっくりしていました。」

そこまで言って、また言葉を探すタマホメ。

本当に伝えたい事ってのは伝えようとするとなかなかカタチにならないらしい。そんな事を何かで読んだ事がある。


「今日だって、あの生地が蕎麦の実から作られているのを知って感動していました。みんな少しだけど自信を持ったと思うんです。自分達の作る作物が、こんなに美味しく素晴らしいものに化けるんだって。価格の安い作物しか作れず、なんとなく貧しい集落で、みんな自分達の仕事に自信を持てなかったんです。けれどジョン様のおかげで、それもきっと変わります。まずはみんなの食生活から変えて行こうと思っているんです。」

タマホメはその胸の内をようやく言葉に出来たのか、さっきよりは随分とスッキリした表情になる。


「そっかあ。でも俺が作るよりキラキラちゃん達がアレンジした料理の方が美味しいモノ多いよ?」

これは俺の素直な感想。

実際、俺が教えたレシピはそのほとんどに彼女達流のアレンジが加えられてから屋台に並ぶ。

俺に思いつけない組み合わせだったり、こちらの食材について彼女達の知識が豊富だからこそのアレンジだったり色々だ。


「いえいえ!私達だってジョン様に教わらなければ、そもそも知らない食べ方が多いんです。同じ食材なのに、どうして今まで思いつかなかったのかってショックを受けているのは私達の方なんです!!」

謙遜からスタートして、一気にヒートアップして熱く語り出すタマホメ。


「う、うん。わかった。君達のお役に立てて何よりだよ。うん。その、ね?分かったからさ、落ち着こうか?」

俺は両手を上げて降参のポーズ。

何故か。

熱くなったタマホメに胸ぐらを掴み上げられていたからだ。

カツアゲされてる気分ですよ。


「え? あ! ごめんなさいッ!!!」

顔を真っ赤にしながら、ペコペコ頭を下げ出すタマホメ。


「いいから、いいから。気にしないで。それに俺も集落の人達から直接感想を聞けて嬉しかったしね。いい経験をさせて貰いました。こちらこそ、ありがとうね。」

俺が心からの感謝を伝えるとタマホメは目をパチクリとさせる。



「「ジョン様、遅い!遅過ぎます!!」」

前方に居るキラキラちゃんズの二人から苦情が飛んで来た。


「ジョン様、手ぶらでも遅いなんて!」

「遅過ぎても引きずりますよ!」

屋台を引くトミテからの苦言とナカゴちんからの恐ろしい提案。


「大丈夫~!!私が責任持って運んでいくから~」

と大声で返事をするタマホメ。

結局、俺は荷物扱いなんですね。


「と言う事なんで、ジョン様、背中を押しますから転ばないで下さいよ!」

そう言って俺の背後に回り背中を押しながら少し速足で歩き出す。


「楽しい事、いっぱいあるといいですね神人の遺跡調査。」


さっきは上手に抑え込めた腹の底の熱いモノが、再び俺の胸まで込み上げる。

けれどシギさんの二の舞いは避けねばならない。

あの時のシギさんの顔を思い出すと、少し落ち着く。


-- そうだクールに行こう。

-- 頭を冷やせ。気持ちも冷やすんだ。


「ジョン様、心臓バクバクしてますけど、もう少しだけ歩くスピード落としますか?」


「うん、お願い。」

俺の本当に何も出来ない男なのよアピールが小さな成功を収めた瞬間だった。




歳を重ねると涙脆くなるってのは本当なのかもね。

用心しないと。特にシギさんの前では。






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