044-8 知恵者ジョンの羞恥心
□知恵者ジョンの羞恥心
「やっと着いた。フヒー。」
いつもの見回りコースだったのに、人の多さに当てられてしまったのか普段より疲れてしまった。
-- それにしてもイオリさん、やり手過ぎるでしょ。
-- この里にあんなに沢山の人が居るだなんて知らなかったよ。
俺がぶつぶつと呟いている間に森人達は調理場へと走り去る。
スイが俺の後ろで待機しているせいか、シギさんは動けなくなっているみたい。
-- シギさんの為にも俺も早く移動しなきゃ。
「ジョン様!!やっと帰って来た!!」
奥の方から俺に声が掛かる。
キラキラちゃんズのナカゴちんだ。
「えっと、その、ただいま。他の二人は?」
予想外の人物の登場に面食らい少し吃ってしまう、小心者の俺。
なかなか度胸って身に付かない。
「ヨシオ様の畑です。サナ様のお手伝いです。ジョン様もたまには手伝って…。じゃなくてジョン様、その、ちょっといいですかね?」
畑仕事を手伝わない事を怒られるのかと覚悟したのに、ナカゴの様子はソレとは違う何かを感じさせる。
チラチラとスイやシギさんの方に視線を送る様子から、あまり他の人には聞かれたくない話なのかもと判断。
「スイ、先に行っててくれる?彼女と少し話があるから、大丈夫だから。ね?」
そう言うとスイは渋々といった感じで屋敷の奥へと移動する。もちろんシギさんを従えて。
二人が奥に消えるのを確認してから改めてナカゴの方に向き直る。
「どうしたの?何か問題になるような事しちゃったかな俺?」
「いえいえ、ジョン様に何か問題があるとかじゃなくて…その…。ごめんなさい!!!」
そう言ってナカゴが直角かっ!とツッコミを入れたくなるほどに深く頭を下げてきた。
-- 何が何やらわかりません。
「まずは頭を上げて、ね? それからワケを聞かせて欲しいな。今、俺、この状況を何一つ理解してないからね。」
ゆっくりと顔をあげるナカゴ。けれどその表情はいつもより数倍は硬いものに感じる。
「先日のまゆ網なんですけれど、アレから糸を取って織物にしたいと青年部の方々に相談して回ったんです。けれど糸を取る技術は再現できても、まゆ網の確保が難しくて、とても織物を作ることは出来ないって言われてしまって…。私も自分なりに調べてみたんですが、量を確保出来なくて廃れてしまったようなんです。」
とりあえず先日の彼女の行動について語ってくれたナカゴなのだけど、肝心の謝罪の意味がわからないまま。
「うん、それは俺も知ってる。カラスさんに聞いたから。」
その俺の言葉を聞いて大きな目をくりくりさせるナカゴちん。
-- 目を見てるだけでも飽きない子だな。
「え?え?あれ?それじゃあ何故まゆ網を?」
その返事を聞いてなんとなく分かった。
俺の考えを先読みして織物が作れる事を証明しようと動いたものの、ソレが目論見通りにいかなかったのだろう。
「ちょっと長くなるかもしれないけどイイ?」
そう前置きして俺は俺の考えの説明を始める。
里の東からの帰り道、山グモのまゆ網を見かけて最初に考えたのは確かに彼女の思った通り。
これで織物が作れたら凄いよなって思ったから。
けれど俺が思いつく程度の事を里の人達が思いつかないわけがない。きっと色々な事情があると判断して、後日カラスさんに聞いてみるつもりで持って帰ってきたのだった。
カラスさんの説明で、まゆ網を使った織物は大昔に存在した事、さらにまゆ網の確保が難しいことや、養蚕の技術が確立した今では完全に衰退した事などを教わった。
教わった上で、俺なりに考えだしたアイデアがある。
それは青年部でまゆ網を買い取る事。
大人はダメ、子供だけ。
それも1日に一人ひとつだけ。金額は屋台でお菓子を食べられる程度。
買い取り金額を高額にすると、ソレを仕事にしようとする大人が出てくる。
買い取りを子供からだけに限定にしても、後ろで大人が手を引く事もありうる。だからお金ではなくて、屋台だけで通用するチケットと言うのも考えたのだけど、屋台の乱立振りを見たので、それはきっと難しいと思っている。
あと里の中心部から遠い地域には三日に一度くらいの頻度で買い取り出張所を開設。当番で人を回してもらう。
できればその地域の出身者が中心になってくれるといいなと思っている。地元の子供の顔や人数を他所の者より早く把握できるだろうし。
その場合は一回の買い取りは最大一人みっつ。
そうやってある程度集まったら、糸を取り織物にまで仕上げられればいいなと漠然と考えていた。
ただでさえ数が少ないまゆ網の乱獲が始まっても困るしね。
そうやって出来る少量生産の高級品をイオリさんあたりに高値で購入して貰えたならと、最後の最後は他力本願な感じの甘々な俺のプランを長々とナカゴに説明したのだった。
その説明を聞き終えたナカゴちんは
「ジョン様って、思った以上に知恵が回るんですね!」
と言い放ち、真顔で感心していた。
「あぁ、うん、まぁ、それなりに、ネッ。」
若干心が傷付いた事実は隠蔽しつつ、平然とした顔で返事を返す。
-- 俺優しい。
-- 気を遣えるオトコに進化してる!
「分かりました、ジョン様。今の話をみんなに聞かせて説得して回りますね!」
表情に明かるさを取り戻したナカゴは、それだけ言うと屋敷の奥へと走り出す。
「ありがとう!ジョン様!私、頑張ります!」
そんな彼女の背中を見送っていると、彼女は突然立ち止まり、俺に向かって感謝の言葉を投げて来た。
感謝の言葉を受け止める準備だなんて、これっぽっちも出来ていなかった俺は、ただただ口をパクパクさせるしか出来ないのだった。
やっぱり決まらない男、三枚目の神様。
-- カッコよくなりたいね。
夕食の時間に18号が
「キラキラの子と二人っきりで何してたんや?」
とニヤニヤしながら突っ込んできた。
当然、森人達全員がニヤニヤしている。
困ったのはシギさんまでもニヤついていた事。
-- あの人、絶対誤解してる。
-- 森人達と違って全力で誤解してる顔だ。
もう一人の当事者であるナカゴは「お仕事の話ですよ。」と言って平然とした態度を崩さなかったので、森人達のツッコミもそれ以上はヒートアップしなくて済んだ。
-- 凄いなナカゴちん。
-- 俺はドギマギしちゃったのにね。
「ところでキラキラちゃん達はなんで帰らないの?」
夕食後の片付けもとっくに終わっていると言うのに、まったく帰る素振りを見せない彼女達に正面から聞いてみる。
「「「お泊まり会です。」」」
あぁ、知ってたさ。
確認しただけさ。
リアひとりに読み聞かせるのだって、まだまだ気恥ずかしいと言うのに、今夜も女子四人相手にとかホント勘弁して頂きたい!
俺一人だけが恥ずかしい、ヨシオ日記の読み聞かせは、何故だか今夜は普段より長く続いている。
リアからの終了の合図はまだ出ない。
何を企んでいるのか知らないけれど、そろそろ終わりにして下さい。
俺の羞恥心が限界なので!!!
結局、普段の3倍もの量を女子四人の前で朗読させられたのだった。
とんだ羞恥プレイ!
書き溜めた貯蓄が減ってきてドキドキ。