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わたしたちの落神様  作者: サカシタテツオ
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044-7 屋台通りとヨシオの思惑


□屋台通りとヨシオの思惑



話し合いがスムーズに進んだ事で俺はお昼以降自由の身になった。

もちろんスイかリアが居ないと遠出は許して貰えないのだけれど、午後の話し合いをスイが欠席する事に。

今後の準備や予定について話し合う大事な場面で欠席するなんてと思ったのでスイにその辺りについて質問すると


「リアが居るから大丈夫です。」

リアを絶対的に信頼するシンプルな答えだけが返ってくる。


-- 兄妹とは言え凄い信頼だね。

-- や、実際できる兄妹だと思うけどね。


なので午後はいつものトレーニング。

里の見回り。森人達も一緒に行くと言う。

さらに今日はシギさんも同行。


午後の話し合いは主に日程の調整だと言うので、シギさんやカラスさん、それとアサマさんは解放されていたのだ。カラスさんとアサマさんは自分達も独自に準備を進めるとか言ってすでに出掛けてしまい、シギさん一人手持ち無沙汰な状況だったので俺の方から声を掛けてみた。


「もちろんです!喜んで付いて行きます!」

ゴキゲンな返事。

-- いきなり予定が無くなると途方に暮れちゃうもんね。



そんな訳で、前方に森人達五人。

後方にスイとシギさんの二人。

サンドイッチぼっちな俺。

-- 誰でもいいから、一人くらい俺の横に並んでくんないかな?

-- 結構くるよ、この状況。

-- 俺の豆腐メンタル舐めすぎよ。


青年部の事務所はスルーして、そのままヨシオの顔なし地蔵へと向かう森人達。

-- 俺のためのトレーニングだって事、完璧に忘れてるよねアイツら。


そうこうしているうちに里の入り口、街道との交差点までたどり着く。

当然目を引くのはでっかい招き猫二体。

さらにその足元に群がる沢山の屋台達。


「どうなってるの?」

スイに向かって聞いてみる。

けれど返答を返してきたのはシギさんだった。


「姫様があちこちに声を掛けたら、こんなに沢山集まって来ちゃって…もちろん、カジムさんに営業許可は貰っているんですけれどね!」

あっさり犯人をゲロったシギさん。

この状況はやっぱりイオリさんが生み出したものだった。

-- お金の匂いに敏感なイオリさんだもんね。

-- 黙って見てるわけなんてないよね。


「それと、その…。」

となんだか言葉を詰まらせるシギさん。

まだなにかゲロってない事がある様子。

俺は言葉を促すわけでもなく、ただぼんやりとシギさんの方向を見つめる。


「えとえと、その屋台なんですけど。屋台に車輪が付いただけで便利になるって事で多々良や明日香、塩沼なんかで移動式店舗の製造販売を始めているんですよね。姫様。ハハハ…。」

視線が泳ぐシギさん。

なるほど。

車輪が付いた屋台って珍しかったんだね。

それに目を付けて先に商品にされるだなんて、カジムさん油断しすぎでは?


でも、それを俺がどうこう言う立場にないので、別に怒ったりしないし、腹も立たない。

そもそも俺が考案したモノでもないんだしね。

シギさんが心配性なだけ。

いや、今まで大変な目にあった事があるのかも?


それよりも今の問題は森人達。

あっちの屋台、こっちの屋台と目移りして落ち着かない。そのうち絶対はぐれちゃう。


「シギさん、お願いがある。森人達を捕まえるの手伝って!!」

まだ視線の落ち着いていなかったシギさんは、俺から怒られるとでも思っていたのか、声を掛けると一瞬ビクッとしたけれど、続く言葉の意味を理解して森人達の捕獲に走り出す。


スイに捕まった3号と19号は、アレ買って、コレ買ってとジタバタしている。

一方シギさんに連行されて来た1号2号18号は、屋台で買って貰ったと思われる食べ物やお菓子で両手が塞がっており非常に満足気な顔。


「ズルイー。俺も欲しいー!」

「俺にも食わせろー!!」

3号と19号がスイに向かって猛抗議。

スイはこういう状況に不慣れなのか、どうしていいのか分からない様子。

満足そうな1号2号18号の元を離れ、3号19号の手を握るシギさん。

シギさんは俺の方に向き直り


「すぐ戻りますから、そこで待ってて下さい。」

と言い残し、森人二人を連れて再び屋台の方へ消えてしまった。


「シギさん凄いね。こんな反抗期丸出し中坊達をカンタンに手懐けるだなんてね。」

その俺の言葉を聞いてスイが返答してくれる。

シギさん達の向かった方向を見つめながら。


「本当に凄いですね。他者の心を察して受け入れるあの器量、見習いたいです。」


なんだかちょっといい空気なのに、1号2号18号がブーブー言って台無しにしてくれる。

「中坊ってどういう意味!」

「反抗期とかじゃないし!」

「うちらの方がずっと大人やっちゅーねん!」



その後シギさん達と合流し、ヨシオの作った顔なし地蔵へと向かう。

向かう途中、その風景の変わり様に驚く事になる。里の入り口から突堤入り口付近にまで屋台が並んでいるのだ、ズラーッと。

屋台ブームの火付け役、仮店舗の茶屋の屋台のすぐそばには大きな岩の柱が二本立っていて、堤防へは石柱の間を潜るように入っていく仕掛けまで出来ていた。


-- こんな"らしい"仕掛けはイオリさんの入れ知恵に違いない。


茶屋で休憩中に石柱の事をシギさんに聞いてみると、これはイオリさんの提案ではなく、キラキラちゃんズの歴女、トミテからの提案なのだそうだ。

-- 俺にはイオリさまランドの為の布石にしか思えないんだけどな…。



ヨシオの本来の目的とは違うカタチになっている可能性を考えると、やっぱり少し気が引けるのだけど、ここまで大ごとになるだなんて思っていなかったしね、当時の俺。

ちょっとしたホラ話からスタートしてるだなんて、今更口が裂けても言い出せない。

これは俺の心に一生刺さるトゲなのだ。

こればっかりは仕方がない。

自分の蒔いた種なのだから。

もしもヨシオ本人と話せる機会があったなら、桜突堤の本来の目的を聞いた上で、俺の犯した罪をゲロってみるのもありかもしれない。


-- 先輩の落神様なんだから新米の懺悔くらい聞くべきだろ?


そんな心の中での葛藤は、なるべく表に出さないように頑張って、新しくメニューに追加されたもち粟団子を口にする。


キラキラちゃん達の仕事は早い。女子組のみなさんとの情報共有も完璧。

すでにカスタードクリームのレシピも活用されていた。

それに屋台の後ろにあるもう一台の大きな屋台はきっと冷蔵庫。カラスさんとアサマさんの試作機だ。


近いうちにイオリさんが大爆発する事だろう。



みんながそれぞれに幸せのカタチを手にするために頑張っている。

それを見ているだけで、ほんのりと胸が熱くなる。

たとえソレが俺の小さな嘘がきっかけだったとしても、今はソレで正解だったのかもと思える。


ヨシオが生きているうちに絶対に話を聞かなきゃダメだな。


ひとつ目標が出来た。



その為のトレーニングでもあるんだ。

帰りも頑張って歩きますか。






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