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わたしたちの落神様  作者: サカシタテツオ
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044-6 大広間会議とほんのり塩味


□大広間会議とほんのり塩味



朝練の時間、リアは来なかった。

それを知った19号は


「リアが居ないとつまんないね。」

と言って始終見学モード。

それでもミズトさんの体からはペチン、パチンといい音が響き続ける。



朝食の時間、一口食べたところでリアが戻って来た。キラキラちゃんズを引き連れて。

チラッとテーブルの上と調理場の様子を見てから


「私達も頂きましょう。」

とキラキラちゃんズに振り向いてから、そう言った。

テキパキと追加の四人分が配膳され、あっという間に賑やかな朝食風景に早変わり。


食事を摂りながらリアが珍しくイオリさんに喋りかける。


「今日一日、シギさんとカラスさんをお借りしても良いかしら?」

突然喋りかけられたイオリさんは、少し驚いた顔をしたけれど、すぐに微笑みを浮かべ直して言葉を紡ぐ。


「構いませんけれど、私に内緒の話なのでふか?」

まだ口の中に何かが残っていたようで、最後の最後で噛み気味になる決まらないイオリさん。

-- めちゃ可愛い。ぐぬぬ。


「内緒にしても構わないけれど、そんなに機密性の高い情報でもないわね。」

微妙に居心地の悪くなるようなやり取り。

そう思っていたけれど、イオリさんはニコニコしたままだ。


「では後ほど報告だけお願いしますね。シギ、カラス、しっかりお役に立ってね。」

イオリさんの、その返答でなんとなく空気が緩むのが分かった。


ホッとしているとキラキラちゃんズから俺に声がかかる。


「「「ジョン様は今日も外出禁止です!」」」

綺麗にハモるキラキラワード。

でもその内容が、またも俺を凹ませる。


「なんでだよ!二日連続とか!今日はスイも居るし出歩いてもいいだろ。リアだって居るんだし。」

やや喰いつき気味に言葉を吐き出す。

すると今度は別の方向から声が聞こえて来た。


「ジョン、今日一日あなたに自由はないの。悪いけれど。」

リアのお言葉。

とても逆らえるような雰囲気じゃない。

俺に出来る事はひとつだけ。


「はい。」

と小さく返事をする事だけだった。



「ジョン、モテモテやな!リアとキラキラ四人から、どこにも行かんといて!って言われるとか、男冥利につきるな!」

18号の軽口のおかげで、場の雰囲気が浮上して行く。


「ジョン、欲張り過ぎ。リアはダメ。俺のお気に入りだから!」

19号も乗ってくる。

そうだね、そうそう。

ご飯の時はそうでなくちゃね。

空気は軽い感じの方がいい。


「じゃあ、俺はスイね。スイは俺の!!」

3号が無邪気に叫ぶ。

-- イヤ、でも、それってどうなの?

-- 性別不明だから断言出来ないけれど。

-- ショタと美青年とか凄い組み合わせよ?


「じゃあ僕等はキラキラだね。」

「なんとか彼女達に勝たないとね。」

1号2号も乗ってくれる。

彼等は人の感情が分からないって言っていたけれど、こうして場の空気を変えてくれるだなんて、感情を理解していないと出来ないはず。

-- 森人達の言う理解ってどんなレベルなんだろう。


そんな森人達の気遣いもあって、その後は和やかな雰囲気で朝食の時間を過ごす事が出来たのだった。



朝食が終わるとリアが俺に指示を出す。


「ジョンは片付けなくていいから、夕べのヨシオ様のノートを持って大広間で待ってなさい。」

その言葉を聞いて俺より先に森人達が声を上げる。


「「「俺達は?」」」

「もちろん一緒に居て下さい。ジョンが逃げないように見張って下さると嬉しいのですけれど。」

珍しく森人達に丁寧な口調で喋るリア。

即答で俺の監視役を付け加えていた。

-- なにそれ。

-- 俺って、いまだに信用ないわけね?


そんな俺の下降気味なテンションを見抜いたのか、イオリさんが


「ジョン様、ファイト!!」

と声をかけていってくれた。

-- いおりんマジ天使。

-- お金の匂いに敏感な大天使。

-- この際それもアリですとも。



言われた通り、夕べ読んだヨシオのノートを持って大広間に戻って来た。

戻ってくると、すでに人でいっぱいの大広間。

お屋敷メンバーと準メンバーの二人。それにカジムさんにインテリ組、ムッサーニさんも居る。

カラスさんの横にはアサマさんも座っていた。

さらに女子組のお姉様ズも到着し、キラキラちゃんズも大広間へとやって来る。


大広間に集まった人達の前でリアが提示したのは神人の古代遺跡の水源について。

昨日もその話題で話し合っていたらしく、みんなそれぞれに資料を持参してきている。

遺跡周辺の詳しい地図には井戸の試し掘りが行われた地点、ポツポツと存在する小川についてなど、過去の水源調査に関する様々なメモが書き加えられていた。


「ヨシオ様の記録ノートに古代遺跡の地下構造物の存在と水源に関する情報がありました。このノートの記録と他の資料を付き合わせていきたいと思います。」

リアが感情を乗せずに淡々と言葉を積み上げる。

言葉から感じる熱量とリア本人から感じる熱量は反比例していて、いつにも増して燃えている。

普段から燃える女、炎の女って印象だけれど、今はなんだか溶岩流のようだった。


「ジョン、こちらへ来て皆の前で読み上げて。」

サラッと難易度の高い要求をしてくる溶岩女。


-- こんな沢山の人前で読み上げろとか、鬼畜!

-- 俺の豆腐メンタル舐め過ぎ!!


色々と思うところはあったけれど、場の雰囲気もあり逃げ出す訳にもいかず、俺は昨夜リアに読み聞かせたのと同じ部分を読み上げていった。

その後は地図を挟んで皆の意見が飛び交う。

森人達も参戦し、ヨシオのノートに書かれた場所を絞って行く。


こうなってしまったら、もはや俺の出る幕はない。「トイレ休憩。」と2号に伝えて俺は調理場へと逃げ込んだ。


昨日キラキラちゃん達が頑張って作り過ぎた生パスタ。その残りがまだ火を入れられないまま冷蔵庫に眠っているはず。

人数が多いので、全員にご飯をって訳にもいかないのでサクッと作れて皆で分けあえる食べ物を頭の中で検索する。

検索するまでもなく、スナック菓子のようなモノくらいしか用意できそうにない。

残っていた生パスタの生地を長さ5センチくらいに切り揃えていく。

次にジャガイモ。こいつを出来るだけ薄く輪切りに。当然、芽の出そうな部分は大きく削り取ってある。


油を加熱、十分に温度が上がるまでの間に数種類のハーブを用意する。

まずはコイツらを素揚げにしてしまう。

次に切り揃えたパスタ。パリパリサクサクとした食感を目指して揚げていく。

最後にジャガイモ。輪切りにした芋が反り返り、少し色がついたら油から引き揚げる。

その上から軽く塩胡椒をふり、素揚げしたハーブを細かく刻んで振りかける。


「こんなもんか。」

短時間の割にヴォリューム感が出た感じ。

大きな器2つ分になってしまった。


-- 飲み物も新しいのが欲しいだろうしなぁ。

などと独り言を呟いていると大広間の方からリアが顔を覗かせる。


-- ヤバ。トイレにしては長過ぎだもんね。

-- 怒るよね、きっと。


「運ぶのでしょ?手伝うわよ。」

リアはそう言って目の前の大皿二つを器用に持ち去って行く。

その様子を見送った後、我に返った俺は慌てて飲み物の準備。

すると今度はキラキラちゃん達がやって来た。


「「「お手伝いします。」」」

それだけ言って彼女達はテキパキと動いてくれる。

なので俺は一瞬で無職になった。


-- いや、こちらに来てからずっと無職なんだけどね。


する事が無くなったので大広間に戻ってみると、みんなでオヤツタイムになっていた。

あちこちから「おいしい。」だの「うまい。」だのと聞こえてくる。

少しだけこそばゆい。


「準備が整ってからだけど、神人の古代遺跡まで水源の調査に行くわ。」

リアが背後から喋りかけてきた。

油断していたので少しビクッとなってしまった。


「古代遺跡かぁ。いいな、俺もいつか行ってみたい。」

我慢していた本音が漏れてしまう。

しまった!とも思ったけれど、リアの反応は俺の予想とは違ったもので


「あなたも行くのよ、ジョン。森人様達も一緒にね。」

と相変わらず感情を乗せずに、けれどどこか優しく感じる言葉を残して、リアは再び自分の席へと戻っていった。


その後、日程や準備については青年部の方で話し合うとの事で大広間会議はあっけなく終了。



後片付けをキラキラちゃん達が手伝ってくれている。

彼女達が居るとなんでもテキパキ進むので、心の底からありがたい。

そんな事を考えながら洗い物をしていると、キラキラちゃんズのナカゴが俺のそばまでやってきて


「よかったですね!神人の遺跡。興味あったんですよね?」

と笑いながらそう言った。


その笑顔を見て、なんだか照れくさくなった俺は


「また倒れないように頑張るよ。」

とだけ言って洗い物に集中するのだった。



ここ数日、なんだかピリピリするような事が続いたせいか、こんな何気ない優しい言葉に体が素直に反応してしまう。

溢れそうな涙を我慢していると、今度は鼻水がダラダラと垂れてくる。

そんな情け無いところを見られまいと、洗い物を中断し自分の顔をバシャバシャ洗う。

けれどそんな俺の情けない様子は最初から最後まで全部見られていた。

シギさんに。

-- 超恥ずかしい!!




居るなら居るって、もっと自己主張してよね!!



いつのまにか情け無い姿を人目に晒すのが俺の特技になってしまっていたらしい。


-- orz





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