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種明かし

「うむ、確かに、巨人だのう」

 夜空に突然現れた一八式重歩兵を見上げて、ティートが言った。

 純白の鎧をまとって、腰に刀を差し、背中にマントをなびかせるその機体。

 暗い夜空に、ぼーっと鈍く光る巨大な機体は、幻想的でさえある。

 ティートはこの存在に前々から気付いていたらしく、特別驚いたりしなかった。

 玩具おもちゃを見付けた子供みたいに、目をまん丸にして見ている。


 音もなく空に浮かんでいた一八式が、俺達のすぐそばに着地した。

 着地した衝撃で焚き火から火の粉が舞う。

 ティートは降りてきた一八式に駆け寄って、コンコンと足の装甲を叩いた。

 やはり、鉄でもプラスチックでもない、不思議な音がする。


「こんな大きなものを、どうやって隠しておった。そなた、魔術師か?」

 ティートがまりなに訊いた。


「光学迷彩だよ。一種の魔法って言っていいかもしれないけど」

 まりなが答える。


 この巨体は、自由に姿を消せるらしい。

 音も気配もさせないし、本当に存在を消していた。

 こんなの人類の技術じゃないから、もちろん、宇宙人の技術で作ったものなんだろう。


「お兄ちゃん、どうして分かったの?」

 まりなが訊いた。

 少し、怒っているような口調だ。


「ああ、まりなは一八式から電源の供給を受けてないと、ランドセル型電池パックで8時間しか動けないんだろ? それなのに、働きすぎだって思ったんだ。必要ないときはスリープモードにして節約して、電池パックも何個か持ってきてるとはいえ、長旅のあいだ大活躍だった。それで、疑ってた。もしバッテリーで動いてるんだとしたら、もう、とっくにそれを使い果たしてるんじゃないかって思ったんだ」

 旅のあいだ、俺はまりなに頼り切りだったこともあって、ずっと働かせてしまった。

 あちこち偵察させたり、モンスターと戦ったり、偽物にお仕置きしたり、大忙しだった。


「そして、その疑いが決定的になったのは、あの、偽物騒動の時だよ」

「ああ、あの、そなた達の偽物が現れたときか。あれは、傑作だったの」

 ティートが茶々を入れる。


「あのとき、俺とティートさんが捕まって、俺達はまりなが待つ馬車まで案内させられた。俺達の馬車を見付けて中をあさっていた偽物のまりなが、ランドセル型電池パックを蹴っ飛ばしただろ? それが、コロコロと勢いよく転がるのを見て、おかしいと思ったんだ。電池が入った重いランドセルが、コロコロ転がるのはおかしい。そのとき、ランドセルの中は空で、中には何も入ってないって気付いた。だとしたらまりなはどうやって動いてるんだって考えて、結論は一つしかなかったんだよ」

 その結論はもちろん、まりなが一八式から電源供給を受けてるってことだった。


「お兄ちゃん、中々鋭いね」

 まりながニヤリと笑う。

 まりなはアンドロイドだから、プログラムがそういう表情を作ってるだけなんだろうけど。


「電池パックは持ってきてないんだろ? たぶんそれは、城門の前に置いてあると思う。正しいか?」

 俺はまりなに訊いた。


「その通りだよ、お兄ちゃん。お城の門の前で、一八式のデコイにホログラムを映す装置に電源供給するのに使ってる。だから、電池パックは持ってきてないの」

 そのデコイで、一八式が城の前にあるっていう、アリバイを作ってたのか。


 そう言えばまりなは確か、城を発つとき、ルシアネさんに一八式には絶対に誰も手を触れさせるなって、念を押していた。

 触れたら、それがデコイだってバレてしまうから徹底したんだ。


 一八式は城を出てからずっと、俺のすぐ側にいたらしい。



「だけど、こうやって、この世界の人にバレずに一八式を持ってこられるなら、どうして先に言ってくれなかったんだ?」

 俺は訊いた。

 言ってくれれば、この旅ももう少しスムースに進んだはずだ。

 俺は最初から安心して旅を続けることが出来ただろうし。


「だって、最初から教えてたら、お兄ちゃんは一八式があることを前提に行動してたでしょ? お節介なお兄ちゃんが、途中で何かあったときに、この世界の人々を救うために、一八式を使っちゃうと思ったの」

 まりなが悪びれることなく言った。


「確かにこの男は、悪い魔術師に捕まって売られたどこかのハイエルフを助けるために、大金をはたいたりする男じゃからの」

 ティートがそう言って笑う。


「そうしたら、お兄ちゃんが体一つでドラゴンに向かったのが嘘だって分かっちゃう。それは避けたかったの。お兄ちゃんがこの世界での確固たる地位を獲得すれば生命の危険は減るし、なんとしてもこの試練を成功させたかったの。敵をあざむくなら、まずは味方からってことだよ。だから黙ってた」

 まりながいけしゃあしゃあと言った。


 まあ、俺の命を最優先に考えるまりなの行動原理からすれば、そうなるのか。

 俺を思ってのことだし、真実を知っても怒る気にもならなかった。

 むしろ、ありがたい。


「よし、無敵の巨人もいることだし、この辺りに人の目はないし、堂々とドラゴンと戦えるてはないか。こうなったら、このままドラゴンの巣におもむいて、本物の卵を採ってまいろうぞ」

 ティートが気楽に言った。


「この巨人にはどうやって乗るんじゃ? 我はこれに乗ってみたいぞ。どうやって操るのじゃ? やっぱり、すごく強いのか? この大剣を振るのか?」

 ティートが矢継ぎ早に質問した。

 一八式に興味津々らしい。


 だけど、出来ることなら操縦するところは誰にも見せたくない。

 スクール水着のまりなに、おっさんの俺が後ろから覆い被さるのは、こっちの世界でも事案だろう。



「お兄ちゃん、わざわざ出向く必要はないかもしれないよ」

 ところが、まりなが遠くを見て言った。


 まりなの視線を辿たどると、火山の方角から、こっちに向かってドラゴンが飛んで来る。


「さっそく、お迎えが来たみたい」


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