一途
朝になって恐る恐る戻ると、スターベルの街は、平穏な暮らしを取り戻していた。
行き交う女性達が、「おはようございます」って、爽やかな笑顔で声をかけてくれる。
昨晩、俺をベッドに投げ落とした女性の一人が、パン屋の店先に、美味しそうな焼きたてのパンを並べていた。
昨日の夜、殺気立つまでに俺を求めていた女性達は、自分の仕事に戻って、それぞれの場所で汗を流している。
あれほどの熱狂が、嘘のようだ。
「どうだったお兄ちゃん? 何人くらい、子孫残せた?」
宿に戻ると、まりなが、ケロッとした顔で訊いた。
「もちろん、0人だ!」
俺の言葉に、まりなが眉を寄せる。
「お兄ちゃん、もしかしてお兄ちゃんは、ロネリ姫くらい年齢が低い女の子じゃないと恋愛対象にならないとか、そういうことじゃないよね」
まりなは真顔で言った。
「そういうことじゃない!」
強く否定する。
「俺は、リタさんだって、ルシアネさんだって、大好きだ!」
俺が力説したら、「あ、そう」って、まりなが呆れ顔で俺を見た。
風呂で汗を流して、遅めの朝食を食べ終えたころで、昨日注文したティートの服が仕上がって、部屋まで届けられる。
「おお、愚かなる人間よ、これ着ていいのか! 崇高なるハイエルフである我が、着ていいのか!」
新しい服に、ティートはぴょんぴょん跳ねながら大喜びした。
金色の髪に整った顔立ちで、静かにしていれば綺麗なのに、無邪気な少女みたいだ。
「ええ、いいですよ。それは、ティートさんの服です」
昨晩は大活躍で、僕を逃がしてくれた上に、朝まで膝枕してくれたティート。
お返しが出来てちょうど良かった。
ティートは届けられた数着の服の中から、一着を選んでさっそく着替える。
着替えるのはいいんだけれど……
「てか、セーラー服じゃないか!」
思いっきり、突っ込んでしまった。
ティートは、紺色の襟に白い生地の、夏服のセーラー服を着ている。
胸に飾ったスカーフは、爽やかな白だ。
「どうだ人間よ、我の姿、神々しいであろう」
ティートがそう言って、その場で一回転してみせる。
プリーツスカートが、回転に合わせてふわっと広がった(スカートの中に、まだ、ブルマはいてるし)。
「いや、神々しいというか……」
だから、なんでティートがセーラー服着てるんだよ!
「あの洋服屋さんで、ティートさんが私にこっそり、お兄ちゃんが好きそうな服はどんな服って訊くから、ロリコンのお兄ちゃんにはセーラー服が外せないって言ったら、それを作ってもらうことになったの。私のメモリのライブラリにある、全国中学校高等学校セーラー服型紙集を元に作り起こしたから、本物に近いよ」
まりなが説明する。
一つのセリフの中に、突っ込みどころが多すぎる。
第一に、俺はロリコンじゃない。
第二に、なんでまりなのメモリのライブラリに、全国のセーラー服型紙集なんてあるんだ?
そして、第三に、「全国中学校高等学校セーラー服型紙集」なんてデータを、誰がまとめたんだよ!
真っ先に浮かんだのはあいつの顔だ。
まりなを造ったのは親父なんだから、これも親父の仕業なんだろう。
まったく、親父の奴……
それにしても、この、アンドロイドのまりな、謎が多すぎる。
まだまだ、まりなには色々と秘密が隠されているのかもしれない。
「どうじゃ、我の姿は?」
何も知らないティートが訊いた。
「ま、まあ、カワイイです」
俺が言うと、ティートは少しだけ頬を赤らめる。
「そうであろう、そうであろう。我も、この服気に入ったぞ。愚かなる人間よ、礼を言う」
ティートはそう言って、もう一度回った。
見下してるのか感謝してるのか、はっきりしてください。
「戦士様、旅のご無事をお祈りいたします」
宿を出て馬車に乗ると、女性領主が、街の門のところで俺達を見送ってくれた。
たくさんの女性達もいて、そこには、昨日俺に襲いかかろうとした護衛の女性もいる。
けれど彼女は、今はしっかりと自分の役目を果たしていた。
「どうぞ、これに懲りず、帰りもまたお寄りください」
「ええ、ご縁があれば」
俺はそう言って頭を下げて、馬に鞭を入れる。
まあ、社交辞令だけど、案外ドラゴンの巣の試練があっさり片づいて、体力が余ってたら、寄らないこともないような気がする。
いや、それは、決してエロい意味とかではなく。
俺達は、旅路に戻った。
俺が馬車の手綱を引き、まりながスリープモードに入って、ティートが俺に寄りかかって居眠りする、いつもの旅だ。
その日は山を二つ越えたところで、名もないような小さな村に泊まった。
次の大きな街、「ヤスナポリナ」までは二日くらい掛かりそうで、こんなふうに村々を経由することになると思う。
相変わらず、街道を行く人々や、沿道の村々の人達は、俺に好意の視線を向けてくれた。
俺を英雄のように扱ってくれる。
しかし、妙な居心地の悪さも感じた。
今までよりも、もっともっと、俺に対する敬意が増しているような気がするのだ。
俺はまだ試練の最中だし、何も成し遂げていない。
それなのに、泊まった村では、食材を全部使い果たす勢いでもてなしてくれた。
大事に扱ってもらえるのは嬉しいけれど、少し、度が過ぎる気がする。
なんかおかしいと思ってたら、一枚の紙が目についた。
道端に落ちていた、向こうの世界でB4くらいの大きさの紙は、この世界の新聞だろうか。
その紙に、
(異世界の戦士、スターベルの女性達の熱烈なラブコールにも、ロネリ姫への純愛を貫き通す)
そんな見出しが躍っていた。
内容を読んでみると、スターベルの街での顛末が、事細かに書かれている。
スターベルに泊まった俺が、無数の女性に囲まれるも、一人にも手を出さなかったという記事だ。
それは、ロネリ姫を想ってのことだろうと、記事は結んでいた。
この世界、向こうでいう中世くらいに思ってたけど、こういう情報伝達については、結構進んでるらしい。
昨日のことが、もう、記事になって伝わっていた。
この記事も、すぐに王都まで伝わるんだろう。
それにしても、
よ、よかったーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
俺は、心の中で叫んだ。
ガッツポーズした。
スターベルの女性達と、いい感じの関係にならなくて、正解だった。
大正解だ。
俺は二択で正解を引いた。
ギャルゲーだったら、この選択で俺の好感度、50パーセントくらい上がったかもしれない。
ロネリ姫やリタさんの機嫌を損なわずに済んだし、これを読んだ人達は、俺のこと、一途で真面目な、本物の戦士って思っただろう。
だから、俺に対する敬意が増してるって感じたんだ。
俺の好感度、どんどん上がってた。
「お兄ちゃん、よかったね」
まりなが言う。
「だけど、これも読んだら、もう、他の女性はお兄ちゃんに言い寄ってこないかもね」
「あっ!」
それはちょっと、残念な気がしないでもない。
「それに、これでお兄ちゃんが、ロネリ姫くらいの女子が好きなロリコンだって、決定的になったし」




