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道連れ

 マズい、勢いでハイエルフを部屋まで連れて来てしまった。

 まりなが言ったとおり、ちょっと軽率だったかもしれない。



「あっ、あの、人間よ。崇高すうこうなる存在であるハイエルフの私は、ここで何をすればいいんだ? 掃除か? 洗濯か? それとも……」

 ハイエルフのティートは、部屋を見回して落ち着かない感じだ。


 いや、崇高な存在なら、人間に使われなくていいから。

 それに、「……」ってなんだよ。


「ティートさんは寝てください。屋台で働かされてて、疲れてるでしょ?」

 俺も疲れたし、そろそろ眠りたかった。


「えっ? エロいこととか、するんじゃないのか?」

 ティートが、長い耳を真っ赤にして訊く。

 肩をすくめてもじもじしていた。

「しません!」

 俺は、きっぱりと答える。


「本当に?」

「本当にしません」


「ホントに本当に?」

「エロいこと、して欲しいんですか?」


「いや、そういうわけでは……」

 ティートはぶんぶん首を振る。

 金色の髪がサラサラ揺れた。


「じゃあ、寝てください。明日も旅が続くので、俺はもう寝ます」

 俺はベッドに横になる。


「分かった。寝るぞ、本当に寝るぞ」

 ティートは、それでも警戒していた。

 まったく、俺をなんだと思ってるんだ。

 ってゆうか、今までこのハイエルフは、人間達に余程(ひど)い目に合わされていたのかもしれない。

 こんな警戒をするくらいの扱いを受けてたってことだ。


「おやすみなさい」

 するとティートは、床の上に横になった。

 硬い板張りの上に、ふとんも掛けずに寝る。


「いや、どこに寝てるんですか! ベッドに寝てください!」

 俺はびっくりしてベッドから起き上がった。


「えっ? ベッドなんかに寝ていいのか?」

 ティートが言う。

「もちろん、ベッドで寝てください」 

「私が、ベッドなんか使っていいのか?」

 目に涙を溜めて訊くティート。


「ええ、当然です」

 ってか、今までどんなブラックな状況に置かれてたんだよ……

 あの親方の下では、床に寝かされてたのかよ。

 ブラックって言うか、暗黒じゃないか。


「さあ、寝てください」

 俺が布団をまくって勧めると、ティートは恐る恐るベッドに横になった。


「ベッドって、柔らかいんだな! ふとんって、ふかふかだな!」

 ティートが初めてそれに触れたみたいに、無邪気に言う。

 そして、ベッドの上で子供みたいに跳ねた。


 やべー、こっちの方が涙出てくる……


「それじゃあ、今夜はティートさんが一人でこのベッドで寝てください。俺は向こうのソファーで寝ます」

 俺はベッドをティートに譲ることにした。

 十分に広いベッドだから、二人でも寝られるのだけれど、こんなにベッドを喜ぶハイエルフに、広々と寝かせてやりたくなった。


「そんな、おまえはソファーでいいのか?」

 ティートが訊く。

「大丈夫、慣れてますから」

 残業で遅くなって、会社の応接室のソファーで寝るのには慣れてるし、ソファーで上手く寝るコツは心得ている。椅子で寝られないなら、サラリーマンなんてやっていけない。


「そんなに親切にして、やっぱり、なんか後でエロいことするのが目的か?」

「違います!」

 さっさと寝かせるために、俺はランプの灯りを消した。


 部屋が暗くなって少しすると、ティートはすぐに寝息を立て始める。

 やっぱり、相当疲れていたらしい。


 俺も疲れていて、すぐに眠気が襲ってきた。

 後はスリープモードで立ったまま寝ているまりなに任せて、俺も眠りに落ちた。





「戦士様、行ってらっしゃいませ」

「戦士様、どうぞご無事で」

「帰りもまた、お立ち寄りください」

 翌朝の出発を、領主をはじめ街の大勢が見送ってくれた。

 馬車には、たくさんの贈り物が載っていて、この街に来たときより荷物が増えている。


「エルフなど、連れて行かれるのですか?」

 馬車に乗ったハイエルフのティートを見て、領主が不思議そうな顔をした。


「ええ、旅には色々と面倒なこともありますし、小間使こまづかいが必要だったもので」

 面倒だからそれらしい言い訳をする。

 それでやっと領主も納得したようだ。


 大勢に見送られて、セベルニーの街を出た。


 忘れかけてたけど、俺はロネリ姫を嫁にするための試練の最中だった。




 街を囲む塀が見えなくなるくらいまで進んだところで、俺は馬車を停める。


「ティートさん、ちょっと後ろを向いてください」

 俺はハイエルフに話しかけた。


「なるほど、街を出て人目がなくなったところで、私を襲うのだな」

 ティートが言って、覚悟を決めたように目をつぶる。

「いえ、襲いませんから!」


 どこまで疑い深いんだ……


 俺は、ティートの後ろに回った。

 そして、首にしている首輪に手を掛ける。

 魔術師がティートを縛っているという、術が掛けられた首輪。

 この首輪は、ティート自身には外せないという。


 俺は、手を掛けた首輪の金具を外して、ティートの首から取った。

 それを二つに引きちぎって、遠くに投げて捨てる。


 ティートは、俺の一連の行為を呆然として見ていた。


「さあ、首輪を外したから、もうこれであなたは自由です」

 俺が言っても、ティートは何が起きたか分からないって感じで、答えない。

 首輪があった首の辺りをさすっている。


「どうぞ、好きなようにしてください」

「好きなようにって?」

 唖然あぜんとしたまま、ティートが訊く。


「あなたは捕まってたんですよね。自由になったんだから、故郷の森に帰るなり、他の街に行くなり、どうにでもしてください」


「いいのか?」

「ええ」


「本当に?」

「はい」


「あ、ありがとう」

 そこでティートは、初めて心からの笑顔を見せた。

 元々整った顔つきなんだし、笑顔がとても綺麗だ。



「それじゃあ。もう、悪い魔術師に捕まったりしないでくださいね」

 俺はそう言い残すと、鞭を打って馬を走らせる。

 手を振って、ハイエルフのティートと別れた。


 別にいい人ぶりたかったとか、カッコつけたかったとかそういうんじゃない。

 ただ、捕らえられて働かされていたエルフに、ちょっとだけ自分の姿を重ねただけだ。

 ティートの中に、会社員時代の自分を見た。



 ティートと別れて、馬車でしばらく行ってからだった。


「お兄ちゃん」

 まりなが馬車の後ろを指す。


 振り向くと、道に人影が見えた。

 いや、ティートはハイエルフだから、人影じゃなくてハイエルフ影だろうか。

 馬車の後ろから、ティートが歩いて付いてくる。

 俺達の馬車を追ってきた。


 俺は手綱を引いて馬車を停める。


 すると、ティートが、嬉しそうに馬車まで走って来た。


「あの、どうしたんですか?」

 何か、忘れ物だろうか。


「人間よ、喜べ、この崇高なるハイエルフであるところの私が、おまえと一緒に行ってやる」

 ティートはそんなふうに言う。


「ドラゴンと戦うのであろう? ハイエルフである私は、きっと戦力になるぞ」


 俺とまりなの旅に、こうしてティートというハイエルフが加わった。


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