怠慢教師登場!
そろそろ百均で買った白面ババア仮面が怖くなってきました。
シオンからこれからお世話になるクラスを聞いて予想はしていたものの、Cクラスと認定された俺は少しばかりがっかりした。せめてBクラス辺りが妥当だと思っていたからだ。
欲を言えばユリカがいるSクラスに入りたかった。
「そう落ち込まないで?Cクラスの子達は皆良い子だから」
まるで我が子を思う様な声音で俺に言い聞かせるシオン。学園の長の名は伊達じゃないと言う事か。
それより、俺はシオンの隣にいる男性の方が気になる。さっきからずっと黙って目を瞑っている男性は誰なんだ。
「…リンド先生?どうやらツヨシ君はリンド先生が気になっているようだわ」
「………」
リンド先生、ガン無視。
流石のシオンも笑顔のまま口元を引き攣らせている。
「リンド先生」
最後の忠告と言わんばかりに声のトーンを少し下げてシオンはリンドの名を呼ぶ。だが、それでもリンドが動く事はない。学園長を前に良い度胸をしている。
俺としてはもう早く教室に向かいたいところなのだが。
そのまま少しの沈黙が訪れたかと思うと、不意に室内で魔力反応が現われた。発生源はシオン。とんでもない密度と濃度の魔力が一点に集中し、魔法へと形を成し始めている。
シオンは溜め息を吐くと、詠唱破棄で魔法を放った。人の頭部程の大きさをした岩が、リンドの左頬を横殴りして霧散していく。
地属性魔法、ロックガン。生成して岩を高速で飛ばす初級魔法だ。ただし、学園長の放ったそれは中級魔法に匹敵する威力であるが。
「…ごっふ」
「ええ…」
口の端から血を流す程度で、しかも少しだけ声を上げただけのリンドに俺は思わず引いてしまう。どんだけ頑丈なのだろうか、この教師。
「…何すんですか、クソアマ」
「リンド先生?生徒の面前で汚い言葉は控えて。それと、この状況で居眠りなんて良い度胸ね?」
「いや、自分眠いんで。寝ていいすか?つーか寝ますお休みなさごべぁっ!」
再び眠ろうとしたリンドに容赦の無いロックガンがまたもや左頬に炸裂。今度こそ血を吐いたリンドが白目を剥く。全然余裕そうだ。
「分かりましたよ、もう寝るのは諦めます」
「全く、アナタの怠慢には毎度頭を悩まされるわ…ごめんなさいね、お見苦しいところを見せてしまって」
「あ、いえ。別に大丈夫です」
「ならよかった」
そう言って微笑むとシオンは不意に俺からは見えない足下を漁り始めた。もしや下着をくれるのだろうか。そうだとしたらお詫び様々だ。
だが、俺の期待は虚しく散り、彼女が取り出したのは男子用の制服だった。
「リンド先生の紹介もしたいところなんだけど、まずはこの制服に着替えてちょうだい?」
「個室はそこにあるから」と俺から左手にある扉を指差すシオン。個室があるとは準備の良い事だ。
俺は制服を受け取ると個室に入った。個室の中は結構広く、人が二人一緒に大丈夫そうだ。
ささっと着替えて出ると、また寝ようとしてたのかロックガンで今度は右頬を殴られているリンドの姿があった。全く懲りない人だ。
「あら、とっても似合ってるわ」
「いやあ、似合ってるだなんて…」
似合ってると言われ、つい照れてしまう。そんな俺をシオンは微笑ましく見ている。
「じゃあ早速だけど、紹介をするわね。彼はCクラスの担任をしているリンド・メガルト先生よ」
「あー、何か知らんがCクラスの担任を任せられてるリンドだ。敬えよ、少年」
「Cクラスって…」
「そう。リンド先生はツヨシ君の担任よ」
俺は戦慄する。ただでさえ下から二番目のCクラスだと言うのに加えてこんな怠慢教師が担任と言う事実に。何だか急に先が不安になってきた。
そんな俺の心境を知ってか知らないでかは分からないが、シオンはリンドの紹介に付け足しをした。
「やる気無さそうにしているけど、実力はこの学園で私に次ぐレベルなの」
「とてもそうは見えませんね」
何処か虚空を見つめる死んだ魚の目をしたリンドは鼻くそをほじりだしていた。本当に大丈夫なのか。
俺がリンドが飛ばしてきた鼻くそを避けているうちに、時間を確認したシオンが「もうこんな時間」と口にした。
「そろそろ時間も押しているし、通学カバンと教材は全て寮の部屋に送り届けておくわね。リンド先生、ツヨシ君を連れてHRに向かって。生徒達も待ちくたびれていると思うわ」
「へーい。了解致しましたぁー。着いて来れるかな、少年」
「え?」
次の瞬間、リンドは風の様に学園長室から飛び出し、駆けていった。まさか案内する気すらないとは恐れ入った。俺はすぐさま後を追う。
その後ろ姿をシオンは見送ると、手元の書類に視線を落とした。
「ツヨシ…ファミリーネーム不明。その他の情報、不明。魔王を討伐し、アレチェスカ王国に攻め入ったその残党の殲滅作戦にも大きな功績を残した経歴あり…そして現在、原因不明の記憶喪失。謎が多過ぎる…一体何者なのかしら、彼……」
シオンの零した呟きは誰にも届く事なく、消えるのだった。
「魔王」
実は人間との共存とか望んでいたり心穏やかな人とかではなく、正真正銘の悪の親玉。
実際、ツヨシが魔王城に訪れた時点でアレチェスカ王国領にある遺跡で魔術師団を皆殺しにしている。
実力は単体で国を滅ぼす事が出来る程だが、本気を出せば星をどうにか出来そうな亡世の支配者の前では
非力な存在だった。勇者セインが本気で戦い、かつ仲間との連携を上手く取ってても何とか勝てる。
マシロに倒された段階で変身を二回残していたのだが、二形態になる余裕すらなく死んだ可哀想な奴。




