愛玩ペット
カツ丼より親子丼。
ツヨシ視点に戻ります。
◇
森を抜けてから早二日が経った。既に俺達はアレチェスカ王国の結界内に到着していた。
結界とは各国の城を中心に周囲へ展開される大規模認識型不可侵領域の事だ。この結界の中に入ればもう城までの距離は徒歩十分と一緒らしい。
流石に言い過ぎだとは思うが。ここからでもまだ一日は掛かるって話だ。
「ん?あれは…」
ふと俺は王都に続く道とは違う道へ進んだ先に見える村に気付いた。いや、村と言うよりかは牧場感があるな。
隣に並行して歩いていたシュラも気になったのかひょっこりとその方角を見て首を傾げる。セインが俺の隣に来て村を指す。
「あれが気になるの?」
「ああ。見た感じだと牧場に見えるんだけど…」
「牧場じゃなくてラッカスさんって人が営業してる愛玩ペットショップだよ」
「愛玩ペットショップ?」
それは俺の世界でもあるペットショップと言う認識で良いのだろうか。と言うより異世界にもペットショップがある事に驚きだ。
「せっかくだし寄ってみる?」
ジッとペットショップを見つめている俺とシュラを見てセインは苦笑して言った。
「――いらっしゃい」
セインの粋な計らいで愛玩ペットショップにやって来た俺とシュラ、テキストは、青い髪を腰まで伸ばして眼鏡を掛けている女性店員、ラッカスに迎えられた。他の皆は外で待機してくれている。
愛玩ペットショップの構造は一軒家から庭の様に柵で覆われた牧場もどきが広がっていると言った感じだ。ラッカスの愛玩ペットショップと書かれた看板が目立つ扉を開け、普通の民家となんら変わらない家が目の前に広がっている。
唯一違うと言えばそのまま玄関から真っ直ぐ伸びる廊下の先の部屋へ行ける様になっていて、そこが店の代わりを果たしているところだろうか。恐らく廊下の途中の扉から見えた空間は居間だ。
店の部屋までラッカスに案内された俺がまず気になったのは窓から見えるスライムだった。愛玩ペットとしてはどうなんだ。
「あいつは何だ?」
「あの子はスリィよ。何とでも相性が良くて何でも産んじゃうちょっと特殊な愛玩動物なの」
「ちょっと特殊どころじゃねぇだろ…つーか魔物じゃないのか?」
「魔物と愛玩動物は違うわ。魔物は基本本能的に襲い掛かって来るけど、愛玩動物は穏やかな生き物だから襲って来ないし戦いには向いていないの」
そうだったのかと納得する。つまりこの世界の野生の生き物は魔物と愛玩動物に分かれていて、明確な差があると言うわけだ。旅の途中で見掛けた馬車を引いていたゴリラみたいな生き物は愛玩動物だったか。信じられない。
「それで、お客様はここへどの様なご用件で?」
「興味本位で覗いてみただけだから特に…」
「ツヨシ様!見て見て!卵だよ!」
特にこれと言った用事はない、と続けようとしたら不意にシュラが俺を呼んでケースの中に入った卵を見せてきた。卵の大きさは大体俺の拳と同じくらいか、虫カゴの様なケースにそれは入っていた。
「これ何の卵だ?」
「それが私にも何の卵か分からないのよ。気が付いたらあったって感じ。特定不明の卵だから欲しいなら通常価格の半額で売るわ」
「うーん、シュラは欲しいか?」
「うん!育てて可愛がる!」
世話などはシュラが責任取るのならば買ってもいいだろうと判断した俺は魔王城からありったけ拝借したお金のほんの一部が入った革袋を懐から取り出す。
「じゃあ買おうかな」
「まいど。銀貨60枚よ」
「銀貨60枚か…」
「宿で一週間寝泊まり出来るくらいの金額ですよ」
銀貨60枚。珍しく黙りっぱなしのテキストに視線を向けると、ゆっくりと俺の耳元に近付いて来てボソッと俺の知りたかった情報を教えてくれた。
どうやら結構高いらしい。元の金額がこれの倍なのであれば金貨1枚と銀貨20枚。うん、確かに高いな。
だが魔王城から拝借したお金はこれの比ではない。今俺が持ってる皮袋の中でさえ金貨が100枚入ってて、しかもこれがほんの一部。この皮袋が100個あったってまだまだ足りないレベルだ。
城下町で鉱石などを売る必要性が無くなるんだが、やはり異世界の街で物を買ったり売ったりするのは魅力的に感じる。
俺は金貨1枚を取り出すとカウンターに置いた。
「これでいいか?」
「いいわよ。大事に育ててあげるのよ?」
「分かってる。危害を加えない限りは大事にしてやる」
何とも不安を煽る返事だが、実際この卵の正体は不明なんだ。もしも魔物卵だったりして襲われたりでもしたら一溜まりもない。そこは理解しているのか、ラッカスは何も言わずに頷いてくれた。
まあ赤ん坊の魔物くらいシュラの相手にならないんだが。
「それじゃ。ありがとう、また機会があったら来る」
「ええ、またのご来店お待ちしてるわ」
店を出る。皆が来たか、と言った感じで歩み寄ってくる。最初はやっぱりセインが口を開いた。
「何の卵を買ったの?」
「いや、それがラッカスさんにも分からないらしくてな。代わりに半額で買わせてもらった」
シュラが大事そうに抱えていたケースを皆に見せる。マシロはいつも通り何の反応も示さないが、視線は卵に集中していた。
メシアがケースを覗き込む様にして確認すると笑いながら言う。
「魔物だったりしてな!」
「赤ん坊の魔物など斬り捨てるに足らん」
メシアの言葉に反応したのはレキシアだった。腕を組んでそう言い捨てるレキシアだが、言っている事は大剣で拳サイズの魔物を叩き潰すと言う事だ。いくら敵だとは言え残虐過ぎではないだろうか。
そもそも今のレキシアは丸腰なのでその心配は要らないんだが。
「では愛玩ペットも購入した事ですし、城下町に向かいましょうか」
そう言ったのはヒウラ。俺もそれには同意だ。何時までもこんなところで話しているわけにもいかない。旅もついにラストスパートだ。
「そう言えばシュラちゃんは産まれてきた子に何と言う名を付けるんです?」
歩き始めて少しするとテキストが突拍子もなくそんな事を訊き出す。
「えーっとね、可愛かったらティニー!あんまり可愛くなかったらモルモル!格好良かったらね…」
「格好良かったら?」
「ロイゼシュタインカースグラビテッドウォンリハイドゼクスヴォルライン」
「なっが!何て言ったの!?ロイゼ、何!?」
つい突っ込んでしまう。まさかあの流れで詠唱まがいな名前をぶっ込んでくるとは思わなかった。テキストもえ、と声を漏らしていた。
「だから、ロイゼシュタインカースグラビテッドウォンリハイドゼクスヴォルライン!」
「一々長いし略するとかしないのか?」
「うーんと、じゃあドウォ」
「発音しづらっ!何でそんな微妙なとこ取ったんだよ!」
そんな俺とシュラの会話を微笑ましく見ている勇者一行。他人事だと思っていたんだろう。だからこそシュラが勇者一行へと向いた瞬間ぎょっとした。
「皆だったらどうつける?」
「まさか振られるとは思ってなかったなぁ」
そう言って苦笑する割にはまんざらでもないセイン。なんだかんだ楽しいんだと思う。
「そうだね、僕ならハッピーちゃんかな?」
「おお、普通だな」
まさか女の子みたいな名前をチョイスするとは思わなかったけど。
次にヒウラ。
「私はロドゲモですね」
「何なんだロドゲモ…!」
不可解なネーミングセンスに困惑しつつも、今度はレキシアのネーミングを聞く。
「ジャーキー=チェイルの一択意外にあり得ん」
「お前のネーミングセンスもあり得ねぇよ!」
どこかで聞いた様な名前をドヤ顔で告げるレキシアは即切り捨て、最後にメシアの番がやって来る。
「断然私はフワリちゃんだな!」
「思った以上に可愛らしいネーミングして来やがった…!」
「なっ!?だ、だったらアンタは何てつけんだよ!」
「ボビー」
「お前が一番あり得ないわ」
全員が声を揃えてそう返してきた。正直俺も無いと思う。
そんなこんなで、俺達の旅は終わりを告げ始めていた。アレチェスカ王国の城下町到着まで実に、あと僅かの距離だ。そびえ立つ城下町を囲む壁が見え始めていた。
『勇者』の加護
毎世代の勇者が女神アルテシア様より授かる最上級の加護。
この加護を所持しているかどうかは聖剣を抜けるか抜けないかで確認される。
抜けた者は正式に勇者として認められ、魔王討伐の旅に嫌でも行かされてしまうので注意。
この加護を持っていると己の正義の心、意思によってステータスが変動し、さらに魔法攻撃に対して
自動でダメージを軽減したり魔力関連の状態異常に掛からなくなったりする様になる。
この加護に選ばれる者の条件としては純粋な正義感を持っている事が強いられる。




