平屋クラフト
創造魔法は、何もない土地に突如として豪邸を出現させた。
社殿にも匹敵しそうなほど広いその家は、私たちを唖然とさせた。
「な、ナニコレ……」
正面には精緻なつくりの門、そしてそれを超えれば横幅の大きい平屋と長い庇が迎えてくれる。まさに私の理想の家、そして—―倭村によくあったつくりだ。
魔法をかけた本人、ウメは宝玉を持ったままぽかんとしていた。
「な……ちょっくら、試しに柱を生み出そうとしただけなんだが……どうしてこんなことになってる?」
「それは私が聞きたいわよ」
宝玉、もといぴーちゃんは私の札を食べて満足そうにげっぷした。目がつぶれそうなほどの輝きを放ちながら。
その時、不思議そうに門を叩いていたツバキが尻尾を振って飛び跳ねた。
「み、巫女さん!変な感触するでこれ!こんにゃく叩いてるみたいなのに全く凹まん!」
「へぇ、どれどれ……ってこれ、間違いないわ、神棚杉じゃない!」
柔らかいようで硬く、スカスカなようで身が詰まっている。そんな世にも奇妙な材質のものは、この世に一つしかない。
倭村に生えていた伝説の杉、そのものだ。
ツバキと手を取り合ってはしゃいでいると、槍を構えたルティナが高速で口ずさみ始めた。
「杯冠寿ぐ詩歌、暗き安泰を陽光差さぬ岩窟へ――」
「ルティナ!?何やってるの!?」
魔法を唱えるルティナは腰を落とし、突進の姿勢に入った。そして。
「――『刺突魔法』」
ルティナは白い軌道を描いて平屋へと正面から突っ込んでいった。轟音と共に視界を奪う砂埃が吹き荒れる。
うそでしょ、という私の呟きはかき消され。
ダークエルフは家を破壊した――ように見えたが。
「うう……。むりぃ……」
「ちょっと、ルティナっ!?」
ルティナは目を回して地面に倒れ込んでいた。投げ出された槍の穂先はぽっきりと折れている。対する門は全くの無傷。……門とぶつかった衝撃が肘にいったのか。それは痛い。
「エルフの魔法でも破壊できへんなんて……どんだけ頑丈なんや?」
「ええ、これではっきりしたでしょう?神棚杉だって」
この最強の素材さえあれば、家比べにも勝てる。
私はそう確信し、大工たちに向き直る。
「これでひとまず建ててくれない?平屋に追加で離れと蔵と庭園と渡り廊下も…」
「そんなにたくさんのオプションは承ってないぜ。いいか巫女さん、この素材は確かに天下無敵だが、欠点があるんだ。それは魔力のコストが高いってことだ。一度に使える魔力は限られてるんだぞ」
魔力のコスト……つまり予算をオーバーしないように家を組み立てなければいけないということか。なんだかワクワクしてきた。
参考までに、とフキが設備とかかる魔力が対応した表を見せてくれた。
「ふむふむ、蔵が一番コストが高いのね。次に離れで…。蔵を取るか離れを取るか、悩ましくなってきたわ」
「離れの方がいいんやない?家が広いのが一番よ、巫女さん」
「いや、童はそうは思わない」
そこで首を振ってはっきりと否定の意を示したのは、ダークエルフであるルティナ。
「童たちは洞窟で鉱石を加工して生きてきた。それはこれからも変わらない。道具や加工品をたくさん置けた方がいい」
「なるほど……じゃあ、蔵ね」
そうだ、この家に住むのはダークエルフたちなのだ。住む人たちのことをよく考えていなかったことを反省し、再び表に目を通す。
「じゃあ、渡り廊下は……よくないわよね?」
「うん、ダークエルフは密閉された空間を好む。外と繋がっていない方が安心できる」
「ふむふむ、じゃあ風通しはあまり必要ないわね。すだれもいるかしら」
ルティナの意見を取り入れながら家の要素を着々と決めていく。あくせくしながら表と睨めっこしてコストを計算する私に、ルティナは言った。
「……なあ、童は何もこんな家の構造にする必要はないと思うんだが。より閉鎖的な洋式のもののほうがダークエルフには気に入られると思う」
平屋にこだわる必要はないんじゃないか。おどおどとしながら主張するルティナに、私はふっと笑みを零す。
「貴方の言う通りよ。けどね、私は平屋で勝ちたいの。皆に倭村の文化を認めてもらいたいの。そうじゃないと、とてもこの地に倭村を蘇らせるなんて、できないから」
はっと息を呑む音が聞こえた。
信念は曲げない。そのために、気に入ってもらえるようなありったけの創意工夫で勝つ。
私は家の間取りを描いた紙をウメに渡す。ウメはそれを見て、興味深そうに頷いた。
「ああ、良い意気だな巫女さん。ところでこの紙はなんだ?豆腐がたくさん描かれてるが」
「いっ、家よ!」
……まずは画力を磨かないと。
「よしっ、できたぜ。これでいいか?」
「ええ、完璧よウメ!思った通り!」
「後は僕の幻術、『お色直し』で上書きすれば……」
何度も試作を繰り返し、日が沈む頃にはあらかた作り終えることができた。
私たちはほとんど外観が出来上がった寝殿造りの家を前に、お互い笑みを交わし合う。
満足できる仕上がりになった。これならば、明日の家比べも。
「絶対勝つわよ、皆!」
理想と倭村を詰め込んだ、この渾身の家で。




