創造魔法で理想の家を
かくして、決戦の火蓋が切られた。
「ルールはシンプルよ。ダークエルフの票を一番獲得した家が勝ち。それで最も気に入られた家に住んでもらうの。分かった?」
「ふむ、なるほどのぅ。その方法じゃ異論も生まれんな。家はどのくらい作るんじゃ?」
「えーと…、チームの数によるわね。じゃあ、参加したい人はどれくらいいるの?」
呼びかけてみると、ダークエルフたちは戸惑うように顔を見合わせた。想定内。いきなり家を作れと言われて頷く人はまずいない。
……一部の度胸がある人たちを除いて。
「あたしたちはやるよ。自分たちが住みたい家を作りゃいいんだろう。腕が鳴るじゃないか」
手を挙げたのは洞窟のご飯番を担っていたというおかみさんたち。手に護身用のフライパンを持って戦士の顔つきをしている。これは手強そうだ。
「うん、受理するわ。おかみチームね……。他には?」
「わしもやるぞ。小鬼と」
「うえっ、巻き込まないでくださいよエイデンさん!ぼくはそんなっ…」
「賞金もちょっと出るわよ?」
「最高の家作りますよエイデンさんッ!」
賞金は私たちの懐から出るものであって、更に言うと神代麦を打って得たお金なのだけれど…。知らぬが仏。
私はツバキに渡された紙に、筆で参加チームの名前をでかでかと書いていく。ついでに自分の名前も足して、参戦するチームは出揃った。
「期限は明日の朝まで!家が決まるまでエルフの方々には引き続き屋敷に泊まってもらうわ。家は見てのお楽しみ、ね!」
巫女チーム、ここに結成。
私はルティナとツバキ、ウメとフキを連れて建設予定地に向かった。そこの近くには浄化された水がちろちろと流れていて、岩に打ち付ける様子はまさに風流だった。
「うん、ここがいいわね!ウメ、早速例の物を!」
「これだな?創造魔法の触媒」
ウメが袖の下から取り出したのは、つるりと灰色に光る宝玉。芯は凝縮された魔力の結晶。
私はそれを手に取り、まじまじと眺める。前々から思っていたけれど不思議な物体だ。
「創造魔法って、魔力をもとにあらゆるものを創りだせるのよね?材質とか色はどうやっていじるの?」
「ぴーちゃん、ああ、あっしはこの宝玉のことをそう呼んでんだがな、ぴーちゃんに習得させたい材質を食わせれば、その材質を覚える。岩を呑ましたら岩場を創れるってことだな」
ぴーちゃん…。
名前のセンスはともかく、見本さえあれば再現できないものはないらしい。
やはり反則的な魔法だ。お菓子を作り出せないのがなんとも残念。
「じゃあウメ、ぴーちゃんは『神棚杉』を覚えてる?」
「神棚杉ぃ?それは…」
「うち知っとる!神社でしか育たない幻の杉やろ!頑丈でしなやか、通気性が良くて遮光性に優れているっていう!めっちゃ魅力的な木や!」
神棚杉は私がその昔勤めていた神社に生えていたものだ。
その杉のご利益にあやかろうとする人たちで参拝客は連日絶えなかった。なんなら世界樹より崇められていたかもしれない。
神棚杉を使って、家を作る。
「うーん、素敵な話だが……ぴーちゃんは知らない材質だぜ?」
「僕の、仕上げ……『お色直し』で、それっぽくコーティングするんじゃ、だめ…?」
「うん、神棚杉は性質も含めて唯一無二の物なの」
巫女装束を締め付ける帯から札を取り出す。お守り代わりにと神主さんからもらったのだ。文字が刻まれた札は綿あめのように軽い。
ルティナがはっと息を呑んだ。
「巫女さん、もしかしてそれ…」
「そうよ。神棚杉で作られたもの。これをぴーちゃんに呑ませれば、再現できるんじゃないかって」
私は宝玉を軽く叩く。すると、傷一つない表面ががばりと開き、細かい牙が覗いた。
思ったより不気味で少し怖い。
「大切なものと違うんか、巫女さん?」
「ううん、私にはもう、いらないものよ」
終末を呼び寄せて、神社ごと故郷を滅ぼしてしまったことを忘れないよう、自分を戒めるために持っていた。
けれど、もう必要ない。
「ほらぴーちゃん、食べなさい」
札を差し出すと、ぴーちゃんはためらわずかぶりついた。自身と同じくらいの大きさの札を苦労しながら食べていく……という微笑ましいものではなかった。行儀悪くぼりぼりと噛み砕いていく。
一瞬あたえたことを後悔しそうになった。
そして、食事を終えた時――宝玉は小刻みに震えだした。まるで孵化する時のように。
「おっ、おい!?ぴーちゃん!?どうした!」
「え…?食あたりでもした?」
「違うだろフキ!これは――」
ウメが言いかけたところで。
宝玉は私の手の中で七色の光を放ち、脱皮した。
いや、球が脱皮するわけない。だが間違いなく、古い皮がずるむけて新しい表皮が露わになった。
ぴーちゃんは真珠みたく真っ白になる。
……進化した?
「巫女さん、貸してくれ!」
そこで、私の手からぴーちゃんを取ったウメは――詠唱に入る。
「浮世の華形、常しえの遊び、波乱万丈の見世芝居、鉋に宿るはヒコサシリノミコト。
あはれあはれ、世は無常――」
そして、一息に言い終えた。
「『創造魔法』!」
閃光が走る。
再び目を開けた時、そこにあったのは――
まごうことなき平屋の豪邸だった。




