集落を作ろう 前編
死の地は、雄叫びで満ちていた。
「火蜥蜴がそっちに行ったわ!早くっ、魔法で先回りして!」
「分かった。—―『刺突魔法』!!」
大地にのたうつ炎を突っ切って、一筋の光が走る。そして、火蜥蜴の巨大な尻尾を斬り落とすことに成功した。
甲高い方向がだだっ広い平原に鳴り響く。
私は水に変化したツバキの尾を握り、構えを作る。
「巫女さん、うち上手く化けられたんよ!こんな大量の水に化けるのなんて初めて!」
「ええ、偉いわツバキ!それじゃ私もっ、『狐火』ならぬ『狐水』!」
炎を消化しなければ屋敷の方にまで危害が及んでしまう。まずは火の手を弱めることが先。
私が尾を振るのに合わせ、水が滝のように噴き出す。それから幾筋もの線に分かれ、絡まり合いながら火蜥蜴に打ち付けた。
火蜥蜴の表皮を覆っていた火がかき消える。元の黒い体皮が露わになった。
「今よ、エイデン!」
「おぉ!『根の足』!!」
その時、上空から飛来してきたのはエイデン。橋を架けるように根を伸ばし、それを伝って蜥蜴の真上をとったのだ。
「エイデンさん!受け取ってください!」
落下していくエイデンに向けて、小鬼が鍬を投げる。角度とタイミングは完璧だった。エイデンは逆さの状態で難なく受け取り、それから。
「『茨の剣』!!」
手のひらから茨が溢れ出し、鍬に巻き付く。刃先に棘が被さった、世界樹お手製の剣ができあがる。
エイデンは火蜥蜴の脳天に剣を振り下ろした。
叫び声と共に大きな頭部が地面にめり込む。最後のあがきとばかりに炎が燃え上がるが――。
「いい加減観念しなさいっ、『狐水』!!」
すかさず、大質量の水球をぶつけた。
胴体から吹っ飛んだ火蜥蜴は、今度こそ粒子と化していく。
事の成り行きを見守っていたダークエルフたちから、大きな歓声が上がった。
「無事終末をやっつけられて良かったわ。皆お疲れ様」
ダークエルフの洞窟から帰ってきて、一週間が経った。
エイデンが全快するのを待って、今回こうして土地を浄化した次第だ。
縁側で団扇をあおいでいるエイデンが長い息を吐き出す。
「まさか火蜥蜴が出てくるとは思っておらんかった……。かなあり大きな土地を浄化したからかのぅ」
「本当、目まぐるしいですねぇ…。休みをくださいよ巫女さぁーん……」
小鬼も疲労を滲ませながら畳に寝転がっている。小さな体がさらに縮んだように見えた。
和室の隅ではツバキとルティナが、私が教えた花札で遊んでいる。
「すぐにも狐さんたちがダークエルフの家を建ててくれるそうや。これでやっと一件落着、になるんかな」
「童たちにもやっと家ができる…。全部、皆のおかげだ」
ありがとう、とルティナはダークエルフの作法に則って片膝をついた。
出会った時にはエイデンを殺すことしか考えていなかったこの子が。
心がじんわりと温かくなって、ルティナの頭を撫でた。
「ルティナも随分丸くなったわね……。ねぇ、貴方もここに住まない?」
「え……童が?」
「大勢いなくなってこっちも寂しいのよ」
ここ一週間、死の地に移ったばかりで家がないダークエルフたちに、屋敷を貸し出していた。
そして判明した。この屋敷は約500人を入れてもまだ余裕があると。丸一日頑張っても屋敷の部屋数は数え切れなかった。
そんなわけで、絶えず声が響いていた時と比べれば、五人だけの今をとても静かだ。
「待て、それでいいのか巫女さん。妾はこの世界樹を殺そうとした」
「あぁ、わしなら別に構わんぞ?元から殺される気はなかったしのぅ。ただ子供のお遊びに付き合ってやっただけじゃ」
「そう言われると腹立つ……。けど……、そもそも、童なんか置いていたって何の役にも……!」
そこで、私とツバキはルティナの両肩を叩いた。
「仕事ならあるわよ」「あるんよ」
「へ?」
ぽかんとするルティナに、目を輝かせて言い放つ。
「貴方にはマスコットになってもらうわ」
「えっ、えっ」
「ルティナちゃんはどんな着物でも合いそうやん。浴衣でも打掛でも振袖でも……!」
ツバキが手から数々の着物を生み出す。もちろん幻で、ずっと着続けることはできないが、目の癒しにはなるはず。
「ほら、着なさい!倭村の慣習をその身で味わうのよ!」
「絶対似合うから!逃げんでおくれ!」
「嫌ッ、目が怖いこの人たち!」
部屋を逃げ回るルティナを、着物を抱えたまま追いかける。ちゃぶ台を囲んでぐるぐる回っていると、そこで。
「皆さん、お茶菓子を持ってまいりましたー」
「おっ、お茶菓子!童食べる!」
「「あっ」」
お盆を持った尼姿の狐、ミタマが現れたことで追いかけっこは中断された。思いわぬ助け舟にルティナは感涙して飛びつく。ミタマは九本の尾を揺らしながらルティナに菓子を分け与えた。
「おや、可愛らしい子が来ましたね。皆さん、外交が上手くいったようで何よりです。稲荷村はダークエルフと友好関係にあるので、ほっとしました」
「そっか、エイデンのこと稲荷村から聞いたって言ってたわね」
「そうだ」
良かった。種族間の面倒くさいいざこざは起こらなさそうだ。
胸を撫で下ろして茶をすすっていると、廊下から慌ただしい足音が聞こえてきた。
「大変だ!!」
「あら、ウメ」
半纏を片肌脱ぎにしてさらしを露わにした狐の大工、ウメが襖を開け放った。
その肩はせわしなく上下している。
「どうしたの、そんなに急いで――」
「狐とダークエルフが、新居の件でもめてるんだ!!」
「はい?」
終末を退けても、やはり休まる時はない。
私はお茶菓子への未練を振り切って駆け出した。
読んでいただきありがとうございます。
久々の更新です。今話からは国作りが本格的にスタートします。
わちゃわちゃしながら国を発展させていく巫女たちを見守っていただけたら嬉しいです。




