少年の視点から
雨の日、バス停で待ってる。重いな、頭が。足の先が濡れてる。まあ、そうだよね。この傘は小さい。このベンチ、錆びてる。でも座る。靴下を脱ぐ。制服の靴下は、黒で、厚手で、嫌だ。
女の子が走ってバス停の屋根に入る。傘持ってない。靴下、脱いだまま、顔を見る。知ってる気もするし、知らない気もする。濡れたシャツに下着が透ける。きれいだな、と思うけど、さすがにじっと見るのは悪い。
ハンカチで頭を拭く。それをポッケに入れたと思って落とした。僕は、裸足のまま、湿ったコンクリートを踏んで、そのハンカチを拾ってあげた。
「足。」と言われる。「裸足。」
「そうだよ。靴下濡れたから。」
「汚いよ。」
「雨で洗う。」
「あげる。」
と少女は、拾ってもらったハンカチを少年に返した。ハンカチには、砂利がついていた。
バスは遅れた。少年は、片足だけ、屋根から出して洗った。そして、片足を上げたまま、少女のくれたハンカチで足を拭いた。
少女は、「寒い。」と言った。少年は、もう片方の足も同じようにしながら、さっき拭いた足を靴に入れて、身体を支えていた。
少年は、足を戻すと、学ランを脱いで、折って、彼女に渡した。
「あげる。」
「いらない。」
彼女は受け取らなかった。
少年は、「分かった。」と言って、それをカバンにしまった。
ハンカチだけを屋根から出して、雨で洗う。それを見て、少女は、
「家でしっかり洗ってね。」
と言った。「うん。」と少年は答えた。
少女は、突然、思いついたように、「そうだ!」と言って、カバンを探した。そして、折りたたみ傘を見つけた。
「じゃあね。」
傘を差して、彼女は屋根を出た。
少年は、傘が欲しかったのか。だったら、僕の傘をあげたのに。とその背中を眺めた。
少年は、カバンから学ランを取り出して着た。そして、自分も傘を差して帰った。ハンカチは、濡れたまま、ポッケにいれた。「寒い。」と言って、ずっと歩いた。
家で取り出したハンカチは雨の匂いがした。




