客人 (3)
「権謀術数の一つと思うて、気を悪くせんと聞いてくれ。」
その前置きに、アインは小さくうなずいた。
「まずはそのお主らの持つ親書が、まこと我が国と手を取り合って、キリルを助けようという内容であるか、そもそも貴殿らはその目で確認されたか?」
あまりにも根本的な疑問に、アインの表情も動揺で揺らめいた。カイをはじめ他の者は言わずもがな、感情にまかせてカイは立ち上がろうとまでした。
「それは王都で託されたものではありません。ギネヴィア殿下が、直接、我々のためにしたためてくださったもの。殿下に限っては、そのようなことはございません。」
アインはそのまま続けて、殿下からの親書を授かって帝国に至るまでの経緯を、掻い摘まんで説明した。
「殿下に限って……か。魔術師殿も意外に熱い男だの。ギネヴィア殿にお会いしたことはないが、お主のような男にそれほどの熱意を持たせる御仁であるならば、そこは信じさせてもらおう。」
サートン公爵の言うように、カイもアインの言葉にこれまでに感じたことのない熱さを感じた。なんと言ってもアインの顔が紅潮している様など初めて見た。ふとカイがその向こうを見ると、ルーナとファムが顔を見合わせて微笑みあっていた。
「ならばなおさら、それは陛下の前に出るまで出すものではないのお。」
一度、ここでサートン公爵は再度、グラスに口付けて一呼吸置いた。
「誰です?裏で糸を引いてそうな人間は?サズン殿ならもう見当を付けていらっしゃるのではありませんか?」
「お主こそ。それくらい見当を付けてから来たのじゃろ?」
「やはりアーダン殿ですか?」
アーダン・ソーソン大将。帝国に三人いる大将の一人で、最も若く、爵位は伯爵なので、三人の大将の中では一番格下ではあるのだが、近く陞爵して侯爵となることは、公然の秘密となっているらしい。
すでに爵位を継ぐ前から、あまり健康ではなかった父親の代理として若くして参内し、頭角を現し、三人目の大将にまで上り詰めた人物だそうである。
「グエンは国境警備という名目で、体よく厄介払いされておる。勅命が下れば、明日にでも先陣を切って国境を越えて行きかねん血の気の多いあやつなら、組みしやすかったのだがの。」
グエン・ケン・リューン大将。こちらは侯爵。
サートン公爵は帝都防衛隊を預かっており、守りのかなめとして、対するリューン侯爵は帝国軍総参謀で、サートン公爵とは帝国軍の双璧として並び称されながら、親密と言えるほどの交友はないらしいのだが、サートン公爵としては武人として、わかり合える部分は多分にあるらしい。
「そんなグエン殿ではなく、争い事より金勘定の方が得意なはずのアーダン殿が何を企んでいるのか?……確かに我々には読みづらいですな。」
「それとも、そのアーダンの背中を押すほどの何かを、やつが手に入れたか?……じゃ。」
そのサートン公爵の言葉に反応したのはアインだった。
「その何かとは?サートン殿は何か掴んでいらっしゃる?」
「サズンで良い。金か、あるいは力か、それとも……はっきりとはわかってはおらん。」
そこでまた場は静まりかえった。
「ただ、リオキリルの大地震は自然なものではない……という話があっての。」
「それはどういう?」
「メテオ・ストライク(隕石召喚)じゃ。」
シーザーが引き出したサズンの言葉に、立ち上がるほどの一番の驚きを見せたのはアインだった。




