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42.たとえ世界が空から落ちても ⑰

 渦からボフン、と勢いよく飛び出し、ギリギリのところで空中で体勢を整え、地面を滑るように転がりながら着地した。すぐさま戦闘態勢に移り、剣を構え、周囲を見渡す。闇が迫るような大地の風景に、重く沈む空気が漂っていた。


「突入するぞ!」


 ミカの力強い声が響き、私たちは広大な平地を一気に駆け出した。目指すは、奥にそびえる異様な建物。

 闇の中から、まるで亡霊のように現れる魔物たち。その姿は影のように渦巻き、目の前に立ちはだかる。


「こいつら、どこまで湧いてくるんだ!」


 ミカがハンマーを振り下ろし、次々に魔物を粉砕していく。衝撃音が響き渡り、魔物が消え去るたびに新たな敵が現れる。私は剣を振り、ミカに続いて道を切り開く。だが、どこを見ても敵ばかりだ。まるで、無限に続く戦場の中に迷い込んだかのように。


 施設内に突入しても状況は変わらない。広大な1階フロアを駆け抜ける私たちをなおも魔物が執拗に追いかけてくる。廊下は複雑に絡み合い、迷路のような施設は私たちの行く手を阻むように仕組まれている。そのすべてに潜む魔物の影が、不気味に私たちを見下ろしていた。


「ここは、ショッピングモールだったの」


 シエルが語るその言葉を聞き流しながら、必死に剣と拳で立ち回った。


「市場みたいな感じ?」


 私もまた冷静さを保ちながら、次々と襲いかかる敵を片付けていく。


「そう。昔はたくさんの店が並ぶ商業施設だった。でも、今は……見ての通り」


 敵を倒しながら1階、2階と上がっていく。その間にも魔物は次々と襲ってくる。


「ここは他と断絶されてるはずだろ、どこから魔物が?」


「断絶されてるからこそ、こいつらはどこにも行けなかった。このモールに閉じ込められた人々が、今は魔物となっている」


「……こいつら、元々人間ってことか!?」


 ミカのハンマーを振るう手が少し鈍った。


「ええ、残念だけど。今まで倒してきた魔物も、全部そう」


「戻す方法は!?」


 焦る私に、しかし、シエルはふるふると首を振り、冷静に言った。


「私たちにできることは、これ以上同じ悲劇を繰り返さないようにすることだけよ」


 建物内に漂う異様な圧力がさらに強まっているのを感じた。私たちがここにきてから、なぜか急速に魔力反応が強まっている気がする。

 シエルも、同じことを感じ取っていたようだ。


「このまま行くと再び魔力暴走が起こるかもしれない。急ぎましょう!」


 焦燥感に駆られながら2階へと続く階段を目指した。だが、上層へ進むにつれ、魔物たちはさらに凶暴さを増し、その数も増えていく。疲労が身体に蓄積していくのが分かるが、ここで止まるわけにはいかない。剣を握りしめ、必死に敵をなぎ倒して階段を駆け上がった。


「こっち!」


 シエルが私の手を引き、狭い裏通路へと進む。崩壊した建物の装飾とは異なり、ここはまだ厳格な内装が残っている。どうやら先ほどとは趣が違うエリアに入ったようだ。


「見えた、オフィス用のエレベーターよ。ここからしか、2階以上の研究フロアには行けないの」


 しかし、期待した通りにはいかない。エレベーター周辺にも、無数の敵が潜んでいた。


「やっぱり、電気が止まってる」


「どけ!」


 ミカが力強く扉をぶち破ると、暗闇の中にロープのようなもの――シエルによるとエレベーターシャフトというらしい――が姿を現す。頭上を見上げると、遥か高く、エレベーターの底がぼんやりと見えた。


「6階まである!5階にまた別のエレベーターがあって、そこから最上階のエーテルコアまで直通してる!そこまで一人ずつ運ぶわ!」


「OK、私は先にここを登っていく!」


 壁を使ってエレベーターシャフトを駆け上がる。暗闇の中、金属の軋む音と自分の息遣いだけが響いている。だが、突然――上から鈍い音がゴガン、と響いた。


 その瞬間、背筋に冷たいものが走る。直感的に何かがまずいと悟った。動きを止め、急いで登るのをやめ、エレベーターの入り口へと戻る。


 間一髪だった。私がエレベータールームから転がり出た直後――ドカン!と目の前にエレベーターが落ちてきた。破壊音が耳に痛いほど響き渡る。


「あっぶな……」


 息を整える間もなく、ひしゃげたエレベーターの残骸の上に、獣のような影が現れた。その姿は、まるで人獣というべきか、獰猛な牙を剥き出しにし、口にナイフを当てながら舌舐めずりしている。


「……もう少しでぺしゃんこだったな」


 今のは流石に頭にきた――危険な目に遭ったことよりも、あの挑発的な仕草に対して。


 剣を構え、その獣のような敵を睨みつけた。ここで止まっている暇はない――上層へ進むために、この障害を排除するしかない。敵のナイフが鈍く光る。


 背後には魔物の大群。

 正面にはナイフを持った魔物。


 ふぅ。と息を吐いて拳を突き合わせる。


「やってやろうじゃない」


 鈍い痛みが広がる左目を気にしながら、私は臨戦態勢を整えた。

 視界の片隅に映るのは、ニタニタと笑う獣。こいつは他の魔物とは明らかに違う――動きやその目に宿る知性がそれを物語っている。


「まずはこいつらを一掃する。いけるかユリアーナ」


「もちろん」


 魔力壁をエンチャントで強化し、手と足先にも魔力を纏わせた。緊張感が張り詰める中、相手がナイフを振りかざしながら突進してくる。それを紙一重でかわし、瞬時にカウンターを狙う。


「もらった…!」


 確信した刹那――予想外のスピードで獣が首を僅かに回避する。さらに二撃目の拳も軽やかにかわされ、素早く距離を取られてしまった。くいくいと指を振って挑発してくるその様子に、心の奥底から怒りが沸き上がる。


「舐めやがって……」


 感情が爆発するのを感じた。次こそは決めてやる。私は魔力をさらに集中させ、全身全霊の力で踏み込み、拳を振り下ろす。


 しかし――


「またか……!」


 敵は再びその一撃を冷静にかわし、ニヤリと笑みを浮かべた。次の瞬間、その大きなククリナイフが私の首に向かって飛んできた。


 パキィン、


 鋭い衝撃音が響いた。首の骨が折れたような感覚か。私はその瞬間にすべてが終わったと思った。だけど、違った。折れたのは私の首ではなく、敵のククリナイフだった。

 その光景に、敵も――いや私自身ですらも一瞬驚いた。


 そしてその隙を見逃すわけもない。拳に再び魔力を込め、今度こそ全力で振り抜いた。すべての力を解放し、敵の体を打ち砕く。拳は敵の体に直撃し、鈍い音を立てて忌々しい獣はその場に崩れ落ちた。


 結果的に、私は一撃も食らうことなく戦闘に勝利した。結果的には、……だが。


 確か、最後に私の身体が絶えたのは、以前ミカと決闘したときの手加減した一撃。

 おそらくそれよりも強い攻撃にも、この魔力壁はびくともしていない。どこまで強化されているのか、少し自分でも興味が湧いてきた。


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 スキル『魔力吸収』が発動します

 魔力と【魔素】を一定量獲得します

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 レベルアップしました

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 レベル20に到達しました

 実績解除:【宿命の回避】

 スキルが変化します

『孤立』が『無想の境地』に変化しました

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最後まで読んで下さり、ありがとうございます!

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