23.もう一人の私
そういえば、と思い、ステータス画面を再び開いて、職業の説明を確認する。
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特殊職業【セレスティアル・エンチャンター】:
『不可視の霊魂を呼び出し、それらを自己の肉体や武器にエンチャントすることで、通常では不可能な力を発揮します。また、霊魂に魔力を注ぎ込むことで、さまざまな超自然的な能力を発動させることができます。』
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「霊魂に魔力を……注ぎ込む」
やってみようか。
いや、待て。
そもそも『超自然的な能力』とは一体なんなのか。
よくみるとこの文字も薄く発光していた。先ほどは光っていなかったように見えたのだが……試しに文字をさわるとこれもまた別画面が開いた。
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霊魂にエンチャントできる能力は、主に以下の能力に大別されます。また霊魂によって発動できる能力は異なります。
「霊魂結合」: 任意の霊魂を自分の体や武器に結びつけ、物理的な力や魔法的な能力を増幅させます。
「霊力強化」: 霊魂に魔力を注ぎ込み、霊魂を実体化させます。実体化する姿は霊魂自身がイメージする姿により異なります。
「霊魂融合」: 一時的に霊魂と完全に融合し、超人的な能力を発揮します。この状態では、大幅に身体能力が強化され、特殊な魔法も使用可能になります。
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結合・強化・融合……
「えーーーっと……」
色々とできることは分かったが、つまりは霊魂に魔力をエンチャントすればこの中のどれかの能力が発動して戦闘に便利、みたいなことか。
ゆっくり読みたいのだが、さっきからこの霊魂がずっと私のことを突いてくる。早くしろと急かしているかのようだ。
心を落ち着けて、浮遊する霊魂にゆっくりと手を伸ばした。武器に魔力をエンチャントしたときのように、自分の魔力を慎重に霊魂に注ぎ込んでいく。すると、妖精のように小さかった霊魂が見る見るうちにリンゴほどの大きさに膨らんだ。目、口、そして髪の様なものが、まるで生命を得たかのように形成されていった。
「うわ!気持ち悪!」
と言いそうになった。というか言ってしまった。
霊魂が形成される様子は、まるで魔力が煙を纏って具現化しているかのようだった。それは確かに現実的な形ではないものの、その異様さに戸惑うばかりだった。
「失礼ね」
突然、霊魂が口をきいた。魔力だけで形成されているにもかかわらず、私を直接見つめるその目は、まるで生きているかのように動いていた。
その信じられない光景に、驚愕を隠せなかった。
「喋った!」
この新しい世界で経験する数々の不可解な現象にすでに慣れつつあったが、このような物体が自分の意志で話すのを目の当たりにするのは初めての経験だった。
更に魔力を注ぐとその姿は徐々に人間らしい輪郭を帯びていった。霊魂が自らの意志で人の形に変わっていく。
ようやく安定したその外見は、私がこの世界で初めて鏡で見た自分の姿と酷似していた。長い銀髪に赤の瞳を持つ、少し小柄で華奢な少女がそこに立っていた。まるで、私自身かその双子のようだ。
霊魂――というか、今はもう幽霊というくらい大きいオーラのようなもの――は自分の体を得意げに見つめ、言葉を発した。
「ふん……悪くないわね」
少し満足したようにその不安定な姿で私の周囲をふわふわと漂いながら、ゆっくりと私の背後におぶさってきた。
「こっちの体で会うのは初めましてかな。異世界の私」
「ええ。はじめまして――。じゃなくて!」
私は驚きながらも問い続けた。
「この世界の私……、であってるのよね? なんであなたはそんな姿になってるの? それになんで、私があなたの体に?」
少女はしばらく黙っていたが、やがて私の隣に座り直し、重たいため息をついた。
「ねえ、何か知ってるんでしょ? 教えてよ」
波の音がザザンと、その場に響き渡る。彼女は何も答えない。
ザザン――、ザザン――とそれがまるで緊張にも似たような音に聞こえる中で、
彼女はようやく私に向き直り、重い口を開いた。
「私が知るわけないでしょうが!!!」
そうして、思い切り平手打ちをかまされた。
ええ――、逆ギレ!?
魔力壁が私を保護しているのと、そもそも煙の様なものに殴られただけなので全く痛くは無かったのだが、まさかの出来事に私はただ驚くことしかできなかった。
「エレシアのこと絶対守りなさいよ! もし彼女に何かあったら、絶対に許さないから! 分かったわね!?」
彼女は私の胸ぐらを掴むようにして言い放った。
そしてすぐに、彼女は急に力を失って肩を落とした。深くため息をつき軽く首を振ると少し落ち着いた口調でやや静かに話し始めた。
「あの子、ああ見えて繊細で頑張り屋で……本当は、私が守らなくちゃいけないのに……」
彼女の声は微かに震えており、その表情からは彼女自身が抱える重い責任感と、エレシアに対する深い愛情が感じ取れた。
掴んでいた手を離すと一瞬の静けさが訪れ、彼女が少しだけ落ち着いたように見えた。海を背に立ち、遥か彼方を眺めながら話し続けた。
「夢で見てたわ。あなたのこと。あなたが向こうの世界で、海に落とされたところからね」
「あなたも――、夢を見たの?」
私は驚きを隠せずに尋ねた。私が,、病に倒れたこの世界のユリアーナを夢に見たとき、どうやらこの少女もまた私のことを夢に見ていたようだ。運命の糸がどう絡まっているのか、その答えを求めて彼女を見つめ返した。
「元の世界に帰りたいんでしょ」
彼女は静かに言った。
私はコクリとうなずいた。海岸に沿って歩きながら、足元に打ち寄せる波が砂を洗い流す音が聞こえていた。
「だったら――手を出して」
私が手を差し伸べると、彼女はそっとその手に口づけをした。それは、忠誠の証だ。
「私がそばにいる限り、全力でサポートするわ。私のあるじ様」
その言葉には固い決意と深い献身が込められていた。
月明かりが彼女の顔に反射し、その表情を神秘的に照らし出していた。その光景は、どこか非現実的で、彼女がこの世のものとは思えないほどに美しく見えた。
自分と同じ顔なのに。みつめられるとなんとも不思議な気持ちになった。
少しの間、私たちは言葉を交わすことなくお互いをただじっと見つめ合い、その瞬間、言葉は不要だった。遠くで波が打ち寄せる音と、夜風が私たちの髪を優しく撫でる感触だけが時間を刻んでいた。
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