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9. 秋明妃

四夫人との茶会、再開です。

<秋明妃との茶会>


 今日は周皇后との茶会の日だ。わたくしを差し置いて皇后になるなんて忌々しい。この国で最も栄華を誇る周家の娘。教養高く、容姿も格別に美しく、皇后にふさわしい女だと宦官や侍女の間でもっぱらの噂だ。


 わたくしはずっと、自分を高めるために幼い頃から血のにじむような努力をしてきた。教養を身に着けるためたくさん本を読み、楽器を習い、足の爪の先から頭のてっぺんまで美を追求した。

 

 わたくしの家は大嫌いな春蘭妃の親戚筋で、春蘭妃の家の方が立場が強い。子供の頃から春蘭妃とは交流があったが、何かと比べられて嫌な思いをしてきた。いつもあの子ばかりが優遇されてきた!


 春蘭妃は子供の頃から憎らしい程可愛かった。勉強もできず、楽器のひとつもできないが、容姿だけは一級品だった。必ずや帝に気に入られる、と周りの大人たちは誉めそやした。


 残念ながらわたくしの顔は人並みだった。日常の手入れや化粧を研究したので後宮で埋もれはしないが、他の四夫人の顔に比べれば劣る。どんなに頑張っても、持って生まれた顔は変えられなかった。


「ようこそおいで下さいました、秋明妃(しゅうめいひ)


 周皇后は確かに噂に違わぬ美貌の持ち主だった。艶のあるさらさらの黒髪、目鼻立ちのくっきりした顔、華奢な体。わたくしや春蘭妃と歳は変わらなそうだが、皇后の威厳か大人びて見える。


「本日はお招き頂き誠にありがとうございます、皇后さま」

「こちらこそ。さ、お座りになって。お菓子をつまみながらおしゃべり致しましょう」


 まずは周皇后のお召し物、装飾品、肌の色つやを褒める。自分より格上の相手にまかり間違っても失礼なまねをしてはならない。後宮に来たばかりで慣れないこともおありでしょう。困ったことがあれば何でも言って欲しいと、とびきり優しい表情で囁く。


「ありがとうございます。そう言って頂けると心強いですわ。ところで秋明さまは、勉強にも芸事にも美容にも熱心であられるとか。何にでも完璧を目指す姿勢が素晴らしいですわね。わたしも見習わなければ」


 そう言って周皇后はにこりと微笑んだ。久しぶりに人に褒められて、つい浮かれて色々話してしまう。今はこんな難しい本を読んでいるとか、最新の美容事情など。


「今美容業界はそんな事になっているのですね、知らなかったわ」

「でも、皇后さまは何もしなくてもお美しくていらっしゃいますわ」


 周皇后は自分の顔の良さを存分に引き立てる薄化粧をしていた。わたくしには絶対に手に入らない、自然の美。


「でもわたしは秋明さまの女性らしい体つきが羨ましいわ」

 

 それは確かにわたくしの自慢だった。豊満な胸は主上を十分に悦ばせている。細すぎず、けれども太らないよう食事管理は徹底し、顔だけでなく胸にも尻にも毎日香油をたっぷり塗る。


「実は、秋明さまのご才能を見込んでお願いがあるのですけれど」

「なんでございましょうか?」

「わたしは物語を読むのが好きなんですが、どうも最近面白いのが見つけられなくて。それで、もしよろしければ秋明さまに物語を書いて頂けないかと思ったんです」

「物語を、ですか?」


 詩を書いたことはあるが、物語を書いたことはない。


「ええ。やっぱり女主人公がいいですわね!素敵な殿方の登場、胸が躍るような展開、衝撃の結末!」

「は、はぁ。でもわたくしは物語を書いた経験などないのですが」

「経験はなくとも、普段からたくさん本を読まれて、優れた詩もお書きになるでしょう?詩の才があると主上に聞きましたわ。ですから、秋明さまには隠れた文才があるのではないかと期待しているのです!」


 期待。そんな言葉、もうずっと聞いていない。わたくしに期待する者など誰もいなかった。いつも春蘭妃と比べられ、後宮入りした春蘭妃に後れを取るものかと自分も後宮に入ったが、「お前の顔ではどうせ主上の寵は得られないだろう」と親からはあきらめられた。


 一方、目の前の皇后はきらきらした目でわたくしを見ている。そんな目で見られても困ると思ったが、自分の胸が高鳴るのもわかった。


 わたくしが物語を書くなんて想像したこともなかったけれど、自分でどんな風にも話を展開できるというのは面白そうだ。現実はどんなに努力しても結果が実らずに苦しい世界だが、虚構の世界なら。やってみるのも面白いかもしれない。


「わかりましたわ、皇后さま。そのご依頼、引き受けさせて頂きます」







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