49. 帝との再会
わたしと雨月さまが想いを確かめ合ってから、もうすぐ一か月になる。
主上にはもう報告したのか、結果はどうだったのか、気になることばかりだったが、一度だけ雨月さまから「必ず連絡するから待っていてほしい」と手紙を貰って依頼、もう三週間以上が経過している。
お父さまにも雨月さまの近況を聞いてみたが、「朝儀には出てるけどね」の一点張りで、詳しいことは何も教えてもらえなかった。
でも、こういう時は信じて待つものだ。朝儀に出ている以上、生きていることは間違いない。不安がないわけではないが、雨月さまに任せたのだからわたしは黙っていよう。
一方で、今更気になっているのは後宮の様子だった。四夫人たちに手紙を書こうと思ったのだが、わたしの皇后位が廃された件がどのように伝わっているのかわからないので、なんと書けば良いのかわからない。
結局わたしは悶々としながら過ごしていたのだが、ついに雨月さまから手紙が来た。
そして大急ぎで支度にとりかかったのだった。
***
ここは、雲海帝が私的に使う応接室の一つである。
雨月さまの手紙で呼び出されたわたしは、呑気にお茶とお菓子を頂いていた。張り切って少し早く来すぎたらしい。
「主上がお見えになりました」
雲海帝付きの侍女の言葉で、わたしは立ち上がる。
入室した雲海帝は、わたしが最後に会った時と少しも変わらず、威厳と自信に満ちた人だった。
「久しいな、周陽花。息災か?」
「はい。お久しぶりでございます、主上」
主上がわたしの向かいに座ると、わたしも席についた。
「しかし驚いたな、雨月の件は」
主上はずずっとお茶に口をつけたと思うと、そう言った。
もうその話題か。わたしはさすがに驚いたが、主上は回りくどいことがお嫌いだったと思い出す。
「はい。では、もう全てお聞き及びなのですね?」
「ああ。そなたの死んでも忘れられない初恋の相手、が雨月だったのだな?」
「……はい。そうです」
色々な感情が胸にこみ上げる。死んだと思った彼を純粋に想い続けた十年と、雨月さまに出会って生まれた疑念。裏切られたことへの苦しみと、誤解が解けて想いが通じ合った喜び。
過去に想いを馳せていると、主上が咳払いをした。
「悪いが、雨月には少々罰を受けてもらった」
「え!?主上……?それ、は」
主上は悪戯を仕掛けたような顔でにやりと笑うと、部屋の入り口に向かって「入れ!」と言った。
え……?
「う、雨月さま!と、宇航お兄さま!?」
雨月さまとお兄さまだった。一番の問題は、お兄さまは元気でぴんぴんしてるのに、雨月さまが死んだ魚のような目でぐったりしていることだ。
「さあ雨月。おまえの愛する周陽花だぞ」
「う……。陽、花」
「う、雨月さま、だ、大丈夫!?お兄さま、これは一体」
お兄さまは壁に手をついてひーっひーっと爆笑している。主上を見やると、少し申し訳なさそうな顔をしていた。
「実はな、俺の貴重な皇后候補を奪った罰として、雨月にはこのひと月、馬車馬のように働いてもらったのだ。雨月の休暇中に溜まった仕事も、これまでめんどくさいから放置していた仕事も、全部渡した」
「ば、馬車馬のように……」
「ああ、だが一番堪えたのはひと月もそなたに会えないことだったらしい。仕事はよくやっているが、後半は気を抜くとそなたの名を呟いていたぞ、まったく」
わたしは椅子に座らせた雨月さまの様子を改めて見た。目にはひどい隈ができ、疲労困憊の顔をしている。そしてわたしの手を握ったきり、動かなくなった。
「今日で罰も終わりでな。未来の奥方に迎えに来てもらったというわけだ」
未来の奥方。その言い方に、ぼっと頬に赤みが差す。主上はそんなわたしを見て「ほう、これが恋か」と言い、お兄さまは「いやー、まさかうちの妹が雨月とねぇ」と感心したように呟いていた。もう!からかわないで!
「で、お兄さまは一体なにを?」
「未来の義弟と仲を深めてたんだ」
「はあ?」
「俺と主上と雨月は毎晩酒盛りをしていた。結婚祝いだ!」
ちょ、ちょっと……。宇航お兄さまって、もんのすごい酒豪なのよ?主上もかなりお酒を飲まれるって聞くし……。
なるほど、激務に加えて毎晩酒盛りとくれば、雨月さまのこの様子にも納得だ。わたしは苦笑して、やれやれと首を振った。




