46. 罰のゆくえ
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「記憶が、なかったんです。俺は川を流されたところを曹家の主人に助けられて、しばらく自分が何者かもわかりませんでした。二年経ち、父について行った都で、俺は本当の家族のことを思い出しました」
雨月さまは苦しそうに目を歪め、続けた。
「でもどういうわけか、あなたに出会ってから崖に落ちるまでの記憶がなかったんです。川に落ちたのは事故か、家族の誰かにでも突き落とされたんだろうと思ってました」
記憶がなかった。わたしのことを覚えていなかった?
わたしは涙でぼうっとする頭で、抱きしめられたまま彼の話を聞いていた。
「そのまま官吏になり、主上の側近になりました。あなたを皇后に提案したのは、周家の影響力と、あの周浩然さまの娘なら適任じゃないかと側近の立場で思ったからです」
そう言って、雨月さまは思い詰めたようにぎゅっとわたしを強く抱きしめた。
「記憶があったら、あなたのことを覚えていたら。主上にだって渡すつもりはなかった……」
抱き潰されて苦しい。でも彼のほうが苦しそうで、わたしはそのまま動かずにいた。
「覚えていないのに、あなたの存在は俺の中でどんどん膨らんでいった。それから、あなたに会うと謎の頭痛が襲うようになった。会うだけじゃなく、あなたのことを考えると。なんとなく原因が自分の過去にあるような気がして、曹家に行きました。……そこで全て思い出したんです」
そんな、そんなことって。
自分と知り合った期間だけ忘れているなんて、そんな記憶喪失、到底信じられないけど……。
でもわたしを抱きしめながら微かに震えている彼が、嘘をついているとも思えなかった。
じゃあ今の雨月さまは、わたしの大好きな雨なのだろうか。
「……じゃあ今のあなたは、わたしの知ってる、雨なの?」
変な質問だと自分でも思った。少しだけ腕の力を緩めた彼は、わたしの瞳を覗き込み「はい」と言った。
「なんで俺が官吏になりたかったのかも、強くなりたかったのかも、約束も……。全部覚えています」
「約束……」
「俺が立派になったら、俺のお嫁さんになってくれるんですよね?」
「……」
一瞬呆然としたあと、言われた意味に気がついて、かあっと頬が熱くなる。
「そ、それは」
「もう駄目ですか?」
「え?」
雨月はおもむろに両手でわたしの頬を優しく挟んだ。
「あなたを傷つけて苦しめたから、もう駄目ですか?もう許してもらえませんか?」
それは、許さないなんて言葉はもう言えない。わたしだって傷ついたし苦しかったけど、今の雨月さまを見たら彼も苦しんだことがわかるから。
「毒殺事件の時も言いましたけど、あなたを傷つけた罰はなんでも受けます。本当です」
「ば、罰って」
「誰よりも大切なあなたを十年も忘れて生きてきたんだ。それだけでも大罪です。俺は自分で自分が許せない」
「雨月さま」
「……もし許してもらえないなら、俺を殺して下さい。あなたがそばにいないなら、生きていても仕方がない」
「ちょ、ちょっと!わたしには死ぬなって言っておいて自分は殺せって言うの!?」
危険な流れになってきた。確かに彼は毒殺事件の後にも罰を受けるとか言っていたけど、極端すぎる。
「わ、わたしのほうこそ、さっきはごめんなさい……。あなたの事情も知らずに一方的に責めてしまったわ」
「そんなの当然です。あなたを傷つけたんだから」
雨月さまは本当に申し訳なさそうな顔をして、もう一度わたしの頬を撫でた。




