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32. 陽花の決意

『例の件で、雲海帝にお目通り願いたい』


 わたしは翠玉に、主上への伝言をお願いした。

 主上からはすぐに返事が来て、すこし遅くなるがと前置きした上、今夜わたしの部屋に来ることになった。


「はぁー、やーっとすっきりしたわ!やっぱり慣れないことをするのは体に良くなかったわねぇ」

「慣れないこと、と言いますと?」


 夜の身支度を翠玉に手伝ってもらいながら、わたしはんーっと背伸びをした。


「んー?頭の中で同じことをぐるぐる考えること、かな。そもそも答えを四択に絞るってのが間違いだった。どこの試験よって感じよね」

「皇后選びのことですか?」

「うん。わたしの答えで主上が納得してくれるかはわからないけど、とりあえず自分なりの答えが出たわ。ね、翠玉。さっさと我が家に帰りましょ!」


 気が早いのはわかっているが、ここにいない鈴玉には速やかに後宮を出られるよう、色々な手配をお願いしていた。

 主上との約束は、今夜けりをつけるつもりだ。


「こんなに焦らなくても……。読みたかった書庫の本もまだ読み切っていないでしょう?」

「あら、なあに?もしかして翠玉はここの暮らしが気に入った?」

「そういうんじゃございません。でも」

「読みたい本は、周家の力があればきっといくらでも読めるわよ」

「でもお妃さま方ともせっかく仲良くなりましたのに」

「そこよ!このままだと主上っていうより、お妃さまたちに皇后でいろって丸め込まれるわ!それに、あんまり仮初皇后のわたしが長居すると、後々面倒だと思うのよ。わたしのことは皆さんに、きっかりすっぱり空気のように忘れてもらわないと」


 翠玉はなおも解せない様子だった。当然よね、自分でも色々決めてから、行動が早いという自覚はある。


 けれどどうしても、一刻も早くこの後宮を出たかった。居心地が悪くなったわけじゃない。……むしろ毒殺事件を除けばかなり快適だったけど、もうここにはいられない。


 とはいえ、ある意味自分のせいで色々と環境を変えされられた四夫人のことは気がかりだった。主上の許可がもらえたら、謝罪の手紙を書こう。みんなの熱い期待に応えられなくてごめんなさいと。


「あの、陽花さま」

「んー?」

「後宮を出られる件ですけど、私はほんの少しだけ、後処理のためにここに残ってもよろしいですか?陽花さまには鈴玉をつかせますから」

「いいけど……。あ!やっぱり翠玉、なんか後宮に未練ある感じ!?」


 翠玉にいい出会いでもあったかしら。ここに来る男性は主上を除けば宦官ばかりだったけど。うーん。あ、ひょっとして書庫で!?


 期待に満ちた眼差しでわたしの髪をすく翠玉を振り返ったが、彼女はなぜか少し哀しげに、わたしに微笑み返した。



***



「主上がお見えになりました」


 主上はいつもより遅い時間にわたしの部屋にやってきた。

 この国で一番偉い人にも、最近は慣れたものだ。週に二度も話し相手になっていれば、相手のこともだんだんわかってくる。


 主上は優雅にいつもの席についた。着物に焚き染められた香の香りが鼻腔をくすぐる。


「さて皇后よ、俺に話があるということだが」

  

 いつもは世間話から始めるのだが、今日はいきなりの本題。この人は肝心な時にまわりくどい言い方は好きじゃないということも、後宮に来てから知った。


「はい。今日は主上の皇后選びについて、わたしの答えを聞いて頂きたくお時間を頂戴致しました」


次話からついに、陽花の初恋について語られます。


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