28. 熱
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ふう、やっと帰っていったわね!
去っていく主上を見送って、茶会を再開しようと四夫人のほうを見れば、皆驚愕の目でわたしを見ていた。
「え……、みなさんどうしたの?」
「……す」
す? 秋明さまがかろうじて一言発した。
「……っ、すごいですわ、さすがは陽花さま!主上相手にあんな……まるでわたくしたちに接するように自然にお相手できるなんて、これが皇后さまですのね」
「全くです。私も驚きました。主上に仕事しろと言うなんて、なんと勇ましい。一生、陽花さまについていきます」
「主上のお顔の、なんと穏やかだったこと」
「ほ、ほんとです!私なんかお顔を拝見するだけで萎縮してしまいますのに……」
と、夏姫さま、雪麗さま、春蘭さまも続く。そして。
「「やっぱり、皇后は陽花さまにしか務まりませんね」」
と皆が口を揃えて言うのだった。
***
「ねぇ、おかしくない?わたしが側室たちを応援してるのに、何、最後のやつ。わたしが皇后として激励されてなかった?」
「激励というか、皆さま陽花さまを皇后として強くお認めになっていらっしゃいましたね」
ひどく疲れた茶会だった。いつもは可愛い女性たちと、うふふ、あははと楽しみながら会話をして、ちょこっと将来のことを考える会だったのに。
わたしは長椅子に横たわり、置かれた枕に顔を押し付けた。
「あら?陽花さま」
「ん……?」
翠玉がわたしに近づいてきて、すっと額に手を当てる。
「少し熱があるようですわ。今日は早くお休み下さい」
「熱……?」
「陽花さま、子供の頃はよく熱出してましたよねー」
確かに、昔のわたしは今より体力がなかった。
「……そうだ、翠玉、鈴玉。ひとつお願いがあるの」
「はい」
「なんですかー?」
「……曹雨月さまのご実家がどんな家なのか、調べてくれない?」
翠玉と鈴玉はきょとんと顔を見合わせた。
***
その夜、熱にうなされながら、わたしはあの頃の夢を見た。
『いつか僕が立派な大人になったら、僕のお嫁さんになってくれますか?』
彼は柔らかな日差しが輝く場所で、わたしにそう言った。
わたしは彼が描く絵が好きだった。大雨の日や熱が出て外に遊びに行けない日は、彼が自分の描いた絵をこっそりとわたしの部屋の窓辺に置いてくれた。
一度、家族全員がたまたま家を留守にしていた時に、熱を出して寝込んだことがあった。家族がいない間に、死んでしまったらどうしよう。もうみんなに会えなかったらどうしようと心配で。
不安で眠れなくて、いつものように絵を置きに来てくれた彼に泣きつき、彼は一晩中わたしの側にいてくれた。
次の日、彼の顔や体にはたくさんの痣があった。きっと夜に家にいなかったことが家の人にばれて、殴られたんだ。わたしのせいだ。
『僕の不注意でこけたんだ。陽花のせいじゃないよ』
『でも』
『僕が、陽花の顔が見たかったんだ』
きっととても辛いのに、そうやってわたしの前ではなんでもないことのように振る舞う、優しい瞳で笑う人だった。
『……陽花!』
彼の最期の声は、わたしの名前を呼ぶ声だった。さっきまで彼を呼んだら優しく振り返ってくれたのに。さっきまでぎゅっと手を繋いでくれていたのに。「大丈夫だよ」と励ましてくれた声は、ずっと近くにいたのに。
わたしはゆるゆると重いまぶた開けた。熱があるからか、体も重い。服が張り付いている。
まどろみの中で、音が聞こえた。
「……あめ?」
いつの間にか、外は雨が降り出していた。




