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23. 帝の求婚

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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 その夜、主上がやってきた。

 彼と顔を合わせるのは、毒に倒れたわたしを見舞いにやってきてくれた時以来だ。


 いつものように茶を入れると、まずは体調のことを聞かれた。その後も普段通りの会話だった。


「それでは、わたしはこれで」

「待て、少し話がある」


 話って、今日の四夫人との茶会の件かしら。


「四夫人とのお茶会の件でしたら、もう少ししたら正式にご報告したいと思います」

「その件はよい。そなたと四夫人の関係は驚くほど良好だと報告がきている。正直言って、期待以上の働きを見せてくれている」


 それならもしかして、皇后選びまではやらなくて良いということだろうか。後宮の最不安分子は、妃たちに過激な行動を取っていた純妃だったと思われる。それが取り除かれた今、後宮に懸念はないということだろうか。


「単刀直入に言う。周陽花よ、正式に俺の皇后になれ」


 雲海帝はかつてないほど強い眼差しでわたしを見た。あまりの眼力に、このわたしが数秒動けないほどに。


「……それは、お断りしたはずです」

「あらゆる点でそなた以上に適任はおらん。周家に今まで以上の待遇も与えよう」

「そういう問題ではありません。わたしには」

「好きな人がいる、か?子供の頃の話、しかも死んだ男なんだろう。そろそろ前に進む時だと思うがな。これほどの人材、埋もれさせるには惜しすぎる」

「しかし」

「俺は皇后が他の男を想っていても構わん。皇后の務めを果たしてくれるならな。だから他に好きな奴がいることを後ろめたく思う必要はない」


 主上はことごとくわたしの否定を、さらに否定してきた。好きな人がいるということの意味が、彼には通じていない。


「ではお聞きしますが、主上はわたしのことが好きなんですか?」


 わたしの問いに、一瞬の間があった。


「好きではないですよね?主上はそういう理由でわたしを皇后にしたいわけじゃない。でもわたしは、結婚に愛が欲しいんです」

「……俺はそなたを愛せるぞ」

「恐れながら、主上にはたくさんの妃たちがいるでしょう?主上が彼女たちを愛しているかは知りませんが、わたしは他の女性がいる人と結婚したくありません。そんな結婚するくらいなら、一生独身でいるほうがわたしにはよほど幸せなんです」


 この理由なら通じるだろうか。主上がこの国を導く方として信頼できる方だということは、お父さまの評価からよくわかっている。わたしも、この二か月ほど彼に仕えてみて実感した。


「ではそなたを皇后に迎えたくば、四夫人を切り捨てよと?」

「いや、四夫人だけじゃなく全ての女性ですよ!でもそんなこと無理でしょう。逆に想像してみて下さい。もしわたしが、主上以外にもたくさんの男たちと関係するのが当たり前だったら、主上は受け入れられますか?」


 その問いには主上も驚いたようだった。部屋の中が静まり返る。


「そんなこと、考えたこともなかったな。妃の姦通は死罪だ」


 ぽつりと彼が漏らした答えは、予想通りのものだった。


「すみません。考えたこともない程、主上にとっては当然のことを覆す質問をしたのはわたしです。けれど、これだけはご理解下さい。主上が殿方として素晴らしいことはよくわかっておりますが、わたしは後宮という場所では暮らしていけないのです」

「……ならば、俺も聞こう」


 主上は、わたしの心を探るようにすっと目を細めた。

 なんだろう。何を言うんだろう。わたしは急に不安になった。   


 ここ最近、自分の中で膨れ上がっていた不安。後宮に来るまでは圧倒的だった自分の中での確信が、揺らいでしまっていたから。


「その好きな人とやらは、そなたがそこまで愛するほど、そなたのことを愛していたのか?」


 ああ、そうくるのね、さすがだわ。この人は確かに頭が良い。お父さまが認めるだけあるわね。


 それは、今の自分が最も恐れていた問いだったのだから。


 


 




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