愛と美と慈しみ③
男たちが後ろから距離を縮め始めた。レイは目をつぶったままだ。彩は、オーラを徐々に出し始めている。
『あっ。』
かすみが、叫んだ。前方からも、怪しい男の集団が来た。完全に挟まれた。一人の男が近づいて来た。
そのとき、空に稲光りが走り、金色の球体が現れ、こちらに向かってきた。その球体は、10mほど浮いた状態で止まった。バシッ、バシッ、メキメキメキメキ。球体が激しい音とともに、二つに割れていく。眩しい光とともに、中から黄金に輝く物体が出て来た。
『我は神なり。』
球体から出て来たのは、紛れもなく、それはヒロであった。
そのド派手な演出に、かすみは唖然とし、彩は爆笑していた。
『レイちゃん、お待たせ。』
ヒロは、レイに近づいた。
『彩ねえちゃん、ほら、できたよ。』
レイは満足そうな顔をしている。
そして、男たちの方向に指を指した。
『なるほど。おじちゃんに、あの男たちと遊んで欲しいんだね。任せていいよ。』
ヒロは、黄金のオーラをまとい、男たちに向かい歩き始めた。リーダーと思われる男が前に出た。
『あの3人の女に用がある。我々の邪魔はするな。』
『そっか。じゃあ、消えろ。』
ヒロが気を放つと、リーダーらしき男は、粉々に崩れた。他の男たちがざわついているのが分かる。
『お前ら、どうせ、雇われているんだろう。雇い主は、バチカンか。あるいは、ロシアか。とにかくやめとけ。俺に歯向かうな。俺は神だ。俺を倒せるものはいない。お前ら全員の顔は記憶したぞ。今回は見逃してやる。だか、次回はない。立ち去れ〜!』
ヒロが叫ぶと、猛烈な風と、激しい光が男たちを包んだ。男たちは、我先にと、逃げていった。
彩の推測は当たった。レイはテレパシーが使える。
『レイちゃん、おじちゃんを呼んでくれたんだね。嬉しいよ。何して遊ぼうか。』
レイにデレデレのヒロに対し、かすみが口を開いた。
『ヒロ君、ありがとう。でも、レイと遊ぶ前に、あれを何とかして。』
かすみは、指を向けた。指された方向には、口をあんぐりと開けた人々や、気絶してる人までいる。それは当然である。あんなド派手な登場をして、大絶叫で男たちを追いやったのだから。
『おお、忘れてた。彼らを何とかしないとな。』
ヒロは、もうスピードで、観衆の間をすり抜け、全員の記憶の操作をした。そして、今見たものを、忘れさせた。
『これで、よし。レイちゃん、何か美味しいデザート食べようか。プリンがいいかなあ』
『うん。プリン食べるぅ。』
能天気なヒロに、かすみも彩も呆気にとられた。
今日の出来事で、レイの存在が広まっていることが証明された。今後、海外の諜報部員、宗教がらみの団体などが接触してくるだろう。公式に、あるいは非公式に、武力を行使して。彩は、強い。一人でも対処できるだろう。問題はかすみとレイだ。24時間見なければ危うい。俺は彼女らを絶対に守らなければならない。
『おじちゃんに、ニックネームをつけてあげるね。』
『ニックネーム?いいよ。レイちゃんがつけてくれるのなら、大歓迎するよ。』
かすみは、アイスコーヒー。彩は、ビール。そして、俺とレイはプリンアラモードを食べている。
『梵ちゃん。』
かすみと彩は吹き出しそうになった。
『ぼんちゃん?レイちゃんが決めたのなら、それでいいよ。でも、どうして、ぼんちゃんなの?』
かすみと彩は、真顔になった。まさか、『梵』の意味とその文字が、ヒロに刻まれていることを話すのではと心配した。
『それはね。さっき、「ボン」と大きな音を立てて、やって来たから。』
かすみと彩はホッとした。
『ちょっと音が大きすぎたかな。今度は静かにするね。そうだ、レイちゃん。何か必要な時は、いつでも、「ぼんちゃん」を呼んでいいからね。遠慮はいらないよ。』
『うん。すぐに呼ぶね。もう、やり方覚えたから。』
レイは、プリンを美味しそうに食べながら、そう言った。
『かすみ。かすみも危険を察知したら、俺を呼んでくれ。心で強く「ヒロ君、来て。」と叫んでくれ。強く、強く、念じれば、必ず届くはずだ。彩先生や、レイはすでにその技術を取得している。かすみにも出来る。まずは、危険のないときでも構わないので、ぜひ俺を呼び出す練習をしてくれ。もう、派手な登場はしないから、その辺は安心していいから。』
『分かったわ。ヒロ君。あっ、ぼんちゃんだったね。』
かすみは笑って答えた。
俺とレミは、公園で遊ぶことにした。かすみと彩は、先に帰ることになった。
『かすみさん、わたくしは大きな勘違いをしていたわ。』
『何がですか。レイのこと?』
『そう、レイちゃんのことです。以前、レイちゃんの役割を話したと思うの。その中で、ヒロ君の教育係って伝えたと思うけど、それはちょっと違ってるようなの。』
彩は、かすみの目を見つめ、話を続けた。
『今日、確かめたことで、はっきりしたの。レイちゃん、テレパシーで、ヒロ君を呼んだでしょ。誰もやり方を教えていないのに、出来てしまったのよ。さらにAGUで、ヒロ君が宙を浮いたとき、レイちゃんも、同じように浮いたでしょ。おそらく、レイちゃんは、ヒロ君の能力を吸収しているんだと思うの。』
『レイがヒロ君の能力を吸収。ということは、レイには、他人の才能とか能力を真似したり吸収したりする力があるってこと?』
『おそらく、その通りだと思うわ。レイちゃんは、ヒロ君の教育係であることは間違いないんだけど、ヒロ君もレイちゃんの教育係だってこと。互いに力を高め合ってるのだと思うわ。ヒロ君、オセロの勉強してるみたいだけど、ヒロ君が上達すると、レイちゃんはそれをすぐに吸収しちゃうの。ヒロ君が頑張れば頑張るほど、レイちゃんも強くなる。だから、ヒロ君、可哀想だけど、レイちゃんに永遠に勝てないわ。でも、負けず嫌いのヒロ君が、レイちゃんに負ける時は、爽やかな顔をしているでしょ。むしろ楽しんでる感じがするの。それも、レイちゃんの慈しみの力だと思うわ。』
『そしたら、いつかレイはヒロ君と同じようになるの?』
『それはないと思うの。ヒロ君と、レイちゃんでは、能力を収める器の大きさが違うから。ヒロ君は、盧遮那仏、つまり宇宙神なので、そのキャパシティは無限大。残念ながらレイちゃんの器は、そんなに大きくはないはず。だから、いずれ能力の吸収も止まると思うわ。』
ヒロとレイは公園でかくれんぼをして、遊んでいた。ヒロがどんなにうまく隠れても、レイは直ぐに見つけてしまつ。気配を消しても、バレてしまう。逆も同じで、レイが隠れてるところは、すぐに分かるのだ。
ひとしきり遊んだあと、レイが疲れた様子になってきたので、帰宅することにした。レイを胸に抱き、ヒロはゆっくりと宙に浮いた。都会の雑踏を眼下に見下ろし、大宮へと向かった。
ヒロはレミを抱いたまま、空を飛んでいた。夕焼けに映され、二人は赤く染まった。
彩は、確信したようだ。
『かすみさんは美の神。その美しさが、ヒロ君の勇気と強さを大きくします。
わたくしは愛の神。その愛が、ヒロ君に厳しさを教えます。
レイちゃんは慈しみの神。その慈しみが、ヒロ君の心を豊かにします。
そして、わたくし達3人は、ヒロ君によって守られ成長するのです。人として成長し、神としても成長します。わたくしの使命は、このことをあなたに伝えることだったのかもしれません。わたくしは歳を取りました。この歳まで永らえたのは、あなた方母娘を待っていたからです。お母さん、あなたにお目にかかれて良かったです。』
彩の目から、大粒の涙がこぼれた。
『彩さん、あなたの意志は必ず引き継ぎます。でも、まるでお別れみたいなことは、言わないで。』
かすみの声は涙で上ずっている。
『レイちゃんの子供、つまり救世主が生まれる頃、ヒロ君も盧遮那仏としての役割と責任に目覚めるはずです。ヒロ君は、かすみさんの元を離れ宇宙に飛んで行くはずです。でもね、どんなに遠い銀河にいても、「ヒロ君」と願えば、彼は必ずやってきますよ。なぜだと思う?ヒロ君が守護神だから。いいえ、違うわ。それはね、ヒロ君があなたを愛しているからです。愛の神のわたくしが言うのだから、間違いありません。』
大宮の家に近づいたとき、空が夕焼けに染まった。
『彩さん、きれいな夕焼けよ。明日も晴れるわ。』
かすみと彩は、赤く染まる空を見つめた。すると、その赤く染まる空から、二つの物体が近づいてくる。
二つの物体。いや、二人の人。いえいえ、二人の神。ヒロとレイが仲よく空を飛んでいる。二人とも楽しそうに笑顔で飛んでいる。
『かすみ〜、彩先生〜、空は気持ちいいよ。』
『ママ〜、おなかすいたあ〜。』
二人は地上に舞い降りた。まさに神降臨である。
『かすみ、レイちゃん凄いよ。空を飛ぶ技術が、どんどん上達してるよ。レイちゃん、眠っていたので、俺が抱っこして飛んでたんだけど、途中で目を覚ましちゃって。そしたら、自分で飛ぶって言い始めて、仕方ないので、ゆっくりと飛ぶ練習をしたら、あっという間に、上手くなったんだ。俺って、教えるの天才かも。』
教え方が上手いのではない。レイの能力の吸収する力が大きいのよ。かすみと彩は、そう思い、目を合わせて笑っていた。
『やっぱりヒロ君は天才ね。』
かすみがそう言うと、ヒロは満足げな顔をした。その顔には神のかけらもない。少年の笑顔であった。
『空は気持ちいい。いつか、あの空の向こうにまで、飛んでいきたい。』
少年の心に、盧遮那仏の心がわずかに宿った瞬間であった。




