プロローグ 300年前。とある神社にて。
プロローグ
ー300年前。とある神社にて。
サーッと風が木々を揺らす。
広げた日記のページがめくれ、墨のにおいが舞い上がる。
ーこの日記をつけ始めて、どれくらいの時がたつのだろう?
ふと、そんな事を想う。最初は独りでいることの寂しさを紛らわせるためになんとなく書き始めたこの日記。
気付けばこの日記に一日の出来事を記していくことが日常となっていた。
しかし、日記をつけ始めたところで独りであることには変わりはない。
それどころか、墨と文字で埋められたページの分は、自分が独りでいる時間を映し出しているようで、
日記に書きためられた思い出の楽しかった物までもが、読み返すたびに涙の糧となってしまう。
それがあまりにも辛すぎて、胸が苦しくて、日記をつけることをやめようかと何度検討したことだろうか。
しかし、やめることはできない。
だって、これをもしもやめてしまったら、本当に独りになってしまいそうで、とても怖い。
ーザーッと風が強めに吹いて、手元の日記が半ば強引に閉じられる。
パタン!という日記が閉じられる音とともに、虚ろだった浅葱色の瞳が潤んでゆく。
「風が、とても気持いい。」
狐は今日も独りぼっち。
鳥居の下で、泣いている。
それには誰も、気付かない。
狐を想うあの瞳達は、狐自身が××してしまったのだから