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静かに暮らしたい縫い子は、着心地だけで世界を変える  作者: 烏斗


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後日談 二 少し変わった流行り

 午後の店は静かだった。


 窓から入る光が作業台に落ち、

 エリーは袖の縫い目を整えている。


 扉の鈴が、小さく鳴った。


「こんにちは」


 入ってきたのは若い女性だった。

 手には大きな箱を抱えている。


「お直し、お願いできますか」


「はい」


 エリーは針を置き、箱を受け取った。


 蓋を開けると、中から出てきたのは

 少し見慣れない形のドレスだった。


 膝丈ほどのスカート。

 布は幾重にも重なり、ふんわりと広がっている。


 胸元には細かな飾り。

 袖口には柔らかいレース。


 可愛らしい作りだが、

 動きにくそうな部分もいくつか見える。


 エリーは布を指でつまみ、形を確かめた。


「最近、こういう形が流行ってるんです」


 女性が少し嬉しそうに言う。


「遠い都市で広まって、それでこちらにも」


「そうなんですね」


 エリーは頷いた。


 流行りにはあまり詳しくないが、

 珍しい形を見るのは嫌いではない。


「どこを直しましょうか」


 女性は少し困った顔をした。


「可愛いんですけど……」


 スカートの裾を持ち上げる。


「歩くと少し重くて」


 次に袖を動かす。


「それと、腕を上げると少し突っ張って」


 エリーは静かに聞きながら、布を確かめる。


 重なったスカート。

 腰の支え。

 肩の縫い目。


 少し考えてから言った。


「少し整えれば、楽になります」


 女性の顔が明るくなる。


「本当ですか?」


「はい」


 エリーは作業台にドレスを広げた。


 まず、内側の布を確かめる。


 広がりを作るために、

 かなり厚めの布が入っていた。


 エリーはそれを指で持ち上げる。


「ここ、少し軽くできます」


「形は変わりませんか?」


「少しだけ変わります」


 エリーは正直に言った。


「でも、歩きやすくなります」


 女性は少し考え、頷いた。


「お願いします」


 針が静かに動き始める。


 布を少し逃がす。

 重なりを少し減らす。

 肩の可動をほんの少し広げる。


 見た目はほとんど変わらない。


 だが、着る人には分かる違いになる。


 しばらくして、エリーは糸を切った。


「できました」


 女性がドレスを着てみる。


 スカートが軽く揺れる。

 歩いてみる。


「……あれ?」


 腕を上げる。


「動きやすい」


 女性は少し驚いた顔をした。


「形はほとんど同じなのに」


 エリーは微笑む。


「少し整えただけです」


 女性は嬉しそうにドレスの裾を見た。


「この形、これからもっと流行ると思うんです」


「そうなんですね」


「いろんな人が作り始めてて」


 女性は笑う。


「でも、着心地はあんまり考えられてなくて」


 エリーは軽く頷く。


「少しずつ良くなりますよ」


 女性は首を傾げる。


「どうしてですか?」


 エリーは針を片付けながら答えた。


「みんな、直しますから」


 女性が帰ったあと、店はまた静かになる。


 作業台の上には、切り取った小さな布が残っていた。


 エリーはそれをまとめ、箱に入れる。


 少し変わった形のドレスだった。


 だが、特別なものではない。


 着る人が楽になるなら、

 それでいい。


 通りでは、夕方の人の流れが続いている。


 いつかあの形のドレスも、

 普通の服になるのかもしれない。


 エリーは針を取り、

 次の服を手に取った。


 店の中に、いつもの針の音が戻る。

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