第48話 重さが語るもの
店の倉庫を整理しているときだった。
棚の奥から、固い紙に包まれた一着が出てくる。
「……懐かしいな、これ」
オーナーが手を止め、少しだけ目を細めた。
取り出されたのは、十年以上前に仕立てた正装だった。
重厚で、豪華で、
当時は「最高の出来」と言われた一着。
飾りの縫い目も、布の張りも、
いま見ても丁寧に作られている。
エリーはそれを受け取り、
両手でそっと持ち上げた。
そして——
「……重いですね」
思わず、素直な感想がこぼれる。
「だろう?」
オーナーは苦笑した。
「昔は、これが当たり前だった」
エリーは袖を通してみる。
すぐに分かった。
腕が、上げにくい。
背中が、わずかに張る。
布が、体温を抱え込む。
動けないわけではない。
だが——
長時間着るには、少し覚悟がいる。
エリーはゆっくり腕を回し、
小さく息を吐いた。
「……これで一日過ごしていたんですね」
「そうだ」
オーナーは肩をすくめる。
「すごいですね……」
「我慢強かったんだよ、みんな」
どちらともなく、少し笑う。
責める気持ちはない。
当時は、それが最善だったのだと、
二人とも分かっているからだ。
オーナーが、ふと思い出したように言う。
「今これを持ち込まれたら、どうする?」
問いは軽い。
だが、エリーの答えは迷わなかった。
「直します」
即答だった。
オーナーが片眉を上げる。
「どう直す?」
エリーは、服の肩口に指を当てる。
「ここ、少し余裕を出して——」
背中をなぞる。
「熱が抜けるように調整して」
袖口を軽くつまむ。
「動きやすくします」
そして、いつもの調子で言った。
「……楽になるように」
それが、当然の答えだった。
特別な改善ではない。
流行でもない。
ただ——
今の基準に合わせるだけ。
オーナーはゆっくり頷き、
少しだけ遠くを見る。
「……変わったな」
誰に向けた言葉でもない。
店の中は、いつも通り静かだった。
けれど確かに、
服の当たり前は、もう昔とは違っている。
エリーは古い正装を丁寧に畳み直し、
棚に戻した。
過去を否定するでもなく、
誇張するでもなく。
ただ、今の手つきのままで。
時代は、音もなく進んでいた。




