第2話 市民服で広がる小さな評判
評判というものは、いつも静かに始まる。
「楽だった」
「なんとなく、疲れにくい」
そんな言葉は、大声で語られない。
それでも確実に、耳から耳へと渡っていく。
最初に変化が出たのは、市民向けの外套だった。
仕立て直しを頼まれたのは、行商人や職人が多い。
長時間歩き、立ち、荷を運ぶ人たちだ。
「前のより、軽い気がするな」
そう言われるたび、私は小さく首を振った。
「重さは、ほとんど変えていません」
実際、布の量は大きく変えていない。
ただ、重さが溜まる場所を変えただけだ。
肩に集中していた負荷を、
背中と胴に分散させる。
立体的に裁断することで、
布が身体に引っかからなくなる。
脇の縫い目も、ほんの少し工夫した。
腕を下ろしている間は閉じている。
動いたときだけ、空気が抜ける。
それだけで、
中にこもる熱はずいぶん減る。
「汗をかいても、冷えにくいな」
裏地を、薄手のリネンに変えた効果だった。
吸って、逃がす。
ただそれだけのこと。
特別な素材も、魔法も使っていない。
目新しい技術ですらない。
変えたのは、
順番と考え方だけだ。
けれど不思議なことに、
誰もその理由を深く聞いてこなかった。
「よく分からないけど、楽だ」
その一言が、
仕立て屋の中で、少しずつ増えていった。
理由は曖昧なまま、
結果だけが、静かに積み重なっていく。
私は、それで十分だった。
目立たなければいい。
名前が広まらなければいい。
ただ仕事が増えすぎなければ、それでいい。
——そう、思っていた。




