第貳話 集合
「急いで来たのにこれか」
「誰も早く来いなんて言ってないけど?」
「黙れカス」
(なんで集合場所と目的地がちょい遠いんだよ)
夏翔は面倒と思いながら前の男についていく。
「相変わらずだなあ夏翔は」
「いつまでもガキ扱いすんじゃねぇよ。年齢もさして変わんねぇのにさ」
「はいはい。まぁ、11歳はこういう時期だもんな」
(なんだ「こういう時期」って。自分だって16歳のくせに)
「おい。俺は11歳じゃねぇ。12歳だ」
「あれ?そうだったっけ」
「今日は8月13日だろ」
「あーそうか。もう過ぎたんか誕生日」
(忘れてんじゃねぇよ11月生まれが)
「てかまだかよ」
「もうすぐだ。遠くて悪かったな」
「まぁ蹴斗じゃ俺のスピードについて来れないもんな」
「蹴るぞ」
「ごめん」
(蹴斗の蹴りをモロに喰らったら、軽症で済むことはまずないからなぁ。この前戦った...なんだっけあいつ。硬くなる奴。あいつが全身硬化を使っても、蹴斗なら軽い蹴りで一発だろうな)
夏翔がそんなことを考えていると、蹴斗は口を開いた。
「着くぞ」
「やっとかよ」
夏翔たちはネレガル地方にあるナ地域の中央部に来ていた。夏翔は蹴斗に連れられて来ただけだから、細かい場所については知らなかった。
「はいここ」
「...何ここ」
目の前にはビルが建っていた。というか、ビルならさっきからそこら中に建っている。このビルに、目的の誰かがいるということだろう。
「まぁ入ればわかる。あいつらも来てる。それだけだ」
「何人だ」
「俺ら含めて5人」
なんとなく残り3人の面子が夏翔の頭に浮かぶ。確かに夏翔はその3人の中の1人に用があった。
ビルの中に入り、エレベータに乗る。蹴斗は8階のボタンを押した。
「で、なんで集まることに?」
聞くと、蹴斗は頭を掻いた。
「まあな、俺から全員に話しておきたい事があってさ」
「なるほど。あいつらそんなに暇か」
「暇だろうな。三人は殺しを好まない。お前と違って」
(確かにそうなんだが、それだと俺がめちゃ殺人を楽しんでるみたいな言い方になるじゃねぇか)
夏翔は声に出さずに否定した。蹴斗はその否定を目線で感じ取った。蹴斗も何も言わなかった。
エレベーターが止まる。ドアが開くと、想像通りの三人がソファに腰掛けていた。
「蹴斗。遅かったね。予定より10分は遅れた」
「なんでもいいさ。とっとと要件を言え」
「まあいいから座れ。透、今」
夏翔は透に用があった。透の腰にはH&K HK45が差さっている。しばらく前に護身用だと言っていたことを思い出した。
「そうよ。結局暇になるんだから、ゆっくり聞きましょ」
どこから持ってきたかわからない紅茶をすすっているのは、大昌だ。二人とは対象的に、彼は落ち着き払っている。
(いやお前は落ち着きすぎだ。久しぶりにあったんだから挨拶くらいしろ)
「わーったよ。で?要件は?」
「何もわかってないじゃないか、今。なあ大昌、紅茶を貰えるか」
「いいわよ」
大昌は空中から紅茶を取り出し、蹴斗に出した。
「...お前のスキルは何度見ても驚くな。極貴能力者はなかなか見ない」
「てかなんで収納に紅茶が入ってるんだ?」
「それは私もわからないのよ」
「え?じゃあこれいつの紅茶...?」
「...黙秘するわ」
「すんな」
大昌は、速度Ⅳと収納Ⅳのスキルを持つ、両Sランク重複能力者だ。中でも特筆すべきなのが、後者の「収納Ⅳ」というスキルだ。
このスキルは「極貴スキル」と呼ばれる、非常に貴重なスキルの一種だ。収納自体はそこまで珍しくないのだが、スキルレベルがⅣ以上の収納は確認例が異常に少なく、かつ収納の内容量も桁違いになっている、超貴重なスキルだ。
「ところで、要件って結局何なの?さすがに私も気になって仕方がないのよ」
「そういやそうだったな。紅茶の下りで忘れてた」
「俺だって来たくてきたわけじゃない。ここに来るまでに一人殺してきたんだから」
「あぁそうだったのか。悪いな。じゃあもったいぶっていても仕方がないから話すが...」
「どうした?何か」
「俊介が、死んだ」
場が、凍りついた。
藤巻俊介。防御Ⅴのスキルを持つSSランク能力者であり、夏翔たち暗殺者の一人だった。俊介の防御力は凄まじく、スキルを使用されると触ることすらできない。というか、銃で撃っても効かないのだ。
(一方的な銃撃戦で暗殺界に名を轟かせていたあいつが、なぜ死んだ?)
「そして、伝えとかなきゃいけないのはそれだけじゃない。あいつを殺したのは、右城大海というやつらしい」
「そいつが、どうかしたのか」
「大海は、特殊警官だ」
「...なるほどな」
特殊警官。能力犯罪者の犯罪を阻止するためにできた組織、「特殊警察」の警官のことだ。
「つまり、あいつはその大海とかいうやつに挑んだわけじゃない。不意打ちで刺されたとか、そういう死に方をしたわけだ」
「いや、それがそうでもないらしいんだ」
「は?あいつがか?あいつが防御を使ったら、誰もあいつを触れないんだぞ?」
「俺も信じられないんだが、どうやら大海は、防御を使った状態の俊介を、殴り殺したらしいんだ」
(何だと?)
「殴り殺した!?」
「そんなの、できるわけないじゃない!そもそも、防御の能力は身体的な防御力を上げるわけじゃない。周りに硬いバリアを張ることで防御力を上げているのよ?ってことは、もしかして」
「そうだ。大海は、拳であいつのバリアを破壊したらしいんだ」
これには夏翔も驚く。
(...俺も力Ⅴを使って殴ってみたことがあるが、びくともしなかったからなぁ。あれは硬いというか、まずそういう次元の物体ではなかった記憶がある)
「そんなことが人間にできるの!?」
「まあ信じがたい。だが...」
「『スキル』か」
「そうとしか考えられないな。だが俊介を殴り殺すためには、まずあいつの銃撃を防ぎ、その上で物理攻撃を加えてあいつの防御を破壊する必要がある。どんなスキルだか、見当がつかない」
「...さすがにこっちから挑むのは無策すぎるか?」
「そりゃそうだろ。第一、現段階じゃあその大海ってやつを殺す必要を感じない。俊介だって、仲間ではあるが味方ではない。仇討ちでもしに行くんなら話は別だがな」
透はこう言っているが、おそらく心の中ではビビっているだけだ。
「おい夏翔!なんか言えよお前も!」
「ん、んぁー...スキルがわかれば何とかなるかもしれないけど、まだ挑むのは危険かな」
「...お前が規格外の強さを持っているのはわかっている。だが、少なくとも大海っつう野郎は、お前が割れなかった俊介のバリアを割ったんだ。単純な物理攻撃では劣っていることを自覚してくれ」
「なーるほどね」
直後だった。
ガシャァァァン!
地上8階の窓が割れた。一人の男が入ってくる。
「誰だ!」
「あらやだ、マグカップが割れちゃった」
「行儀が悪いな。ちゃんと入り口から入ってこい」
「待て」
殺気を感じる。そしてその恰好は、夏翔たちには見覚えがありすぎた。
「特殊警官か...」
「そうだ。お前が、夏翔だな?」
「あぁ。お前ら、下がっとけ」
「大丈夫か?夏翔」
蹴斗が聞いてきた。
「おそらく、こいつが大海ってやつだ」
「「「「こいつが!?」」」」
「よくわかったな。俺が右城大海だ」
大海の言葉に抑揚はない。
(なんか、ロボットみたいだな。だが、殺気が異様に強い)
「わざわざ自分から名乗り出るとは。せっかくだからスキルでも教えてもらうかな?」
「はっ。いいさ。別に。お前には負けないから」
そういうと、大海はバリアを張った。
「バリア...!?」
(こいつ、もしやこいつも防御能力者なのか...?確かにそれなら...!)
「防御...?やばくね?」
「逃げるぞ!俺らがいると邪魔だ!」
「そうだな。話はまた今度にする!大昌!」
「わかったわ。みんな、集まって!」
大昌は他の奴らを「収納」した。収納では人間も収納ができるのだ。そして大昌はすぐにその場を離れた。
「へぇ。収納...Ⅳと、速度...もⅣくらいか」
「...わかるのか?スキルが」
「まぁな。スキル自体は誰だって見りゃ分かるが、俺はスキルレベルも大体わかる。あの、大昌ってやつは両Sランク重複能力者だな。珍しい」
(読めない。言動から感情が感じられなさ過ぎる)
「お前のスキルは?」
無表情サイコパス野郎が聞いてきた。夏翔に答えない理由はなかった。
「そうだな。せっかくお前が防御を見せてくれたんだから、こっちも教えなきゃフェアじゃねぇ。俺は」
「あ、待った。俺、一応重複能力者だぞ」
大海は、大きく腕を振りかぶった。
「消砕」
ドガァァァァン!
大海は何かを殴った。いや、何を殴ったのかはすぐに分かった。大昌たちが座っていたソファだ。
そのソファは、跡形もなくなっていた...?違う。
ソファを殴った衝撃で、床が抜けたのだ。しかも、1階まで貫通している。もちろんソファは木っ端みじんになっている。
「まさか」
「気づいただろうな。俺は防御Ⅵと、力Ⅵの両SSSランク重複能力者だ。驚いた...か?」
両SSSランク重複能力者。
「第二十二警官隊第二千百三部隊所属、第一位特殊警官、右城大海だ。北斗夏翔、能力犯罪取締法違反の容疑で、お前を殺す」
(面白くなってきたじゃないか)
戦闘の開始に、夏翔は心のなかで胸を踊らせた。
ということでれっつばとるです。




