第二節
頑張って書いてますが文章力が上がりません…
「勇者……まぁゲームとかで見かけるアレだよ。他人より強くて世界を救う使命を持っちゃった奴等。まぁ俺たちは他人の家の壺壊したりしないけどね」
最近は勇者が主人公のゲームは減ってるけどな、と神崎の補足を付け足された。しかしゲームで例えられても柳谷にはトンと来ない。あまりゲームに関わっていないのもあるが、そもそもゲームなどで見かける物事が現実に起きている事が理解できない。
ようは漫画や映画の主人公の様なもの、と区切りをつけ何とか理解する。多少食い違っている気はするが一応の決着をつけなければ話が進まない。
「それと、神崎さんやバベッジさんが魔獣達を簡単に倒していましたが、あれはなんだったんでしょうか?」
「あれは魔術だよ」
バベッジが答えたそれにもう一度吹き出しそうになる。だが、その答えにも少し納得がいった。あんな魔獣達と互角以上にナイフや拳で戦うなら超能力や魔法くらいがあった方が自然だ。
「まぁ魔術と言っても色々あるんだがな。そこらへんに興味があるならウェストコットお抱えの魔術師に聞いてくれ。今は魔獣の残党狩りに出てるから話せるのは先だけどな」
「じゃあさっきの薬も魔術なんですか?」
「違うよ、あれは"神威継承”。これについては話すと長くなるけど説明させてもらうよ」
食べ終わった茶碗を地面に置いた長島が柳谷に説明を始める。“神威継承”、その名前にはどんな意味があるのだろうか、と柳谷も深く興味を持つ。
「例えば日本神話とかギシリア神話とかあるじゃん?あと御伽噺とかなんちゃら伝説とか。そういのって本当にあったと思う?」
「……?無いと思います。だって有り得ないし」
「そう、元の世界ならそう考えて当然。だけど、実際にそういう世界があったのよ。本当に怪物がいてそれを倒す勇者がいた世界がね」
日本が存在する世界では多くの神話は単なる御伽噺やヨタ話、地方の土着信仰を原型として誕生している。英雄譚もその多くは単なる創作物だ。しかし、もしかしたらその架空の存在達が実在した世界があったとしたら。
「でも英雄達がいた世界はその多くが滅んだ。理由は様々、強力な一個人が暴れたせいで世界の原理が崩壊したり、単純に熱量で焼き尽くされたり。再生した世界もあればそのまま消滅した世界もあった」
「んで、俺たちのいた日本のある世界はたまたまそういう神話的破壊が巻き起こされる前に神様が活動を休止したんだ。お陰様で奇跡も無いけど宇宙が滅ぶ事もない安定した世界が出来たらしいぜ」
スケールの大きな話だが、どうもそれを真実と仮定したほうが良さそうだ。何故なら柳谷は実際にその力を体験したからだ。長島の使った薬一つとってもそれがわかる。皮膚に塗っただけで体内の骨折が一瞬で治療された、現代医療の常識とはかけ離れすぎた現象。
「この力、“神威継承”はその滅んだ世界の残留物というわけよ。強すぎる力は世界が滅んだ後にも残っちゃってて、宇宙と宇宙の間の空間で漂ってるんだってさ」
「それを皆さんが持っているんですか?」
「そういた事ね。まぁちょっと話が変わるけどこの世界には魔獣ってのがいるの。それも山程、オマケに70年くらいに一度大量発生して国ぐらい簡単に滅ぼすのよ。この世界では魔獣の大量発生を"魔災潮流"と呼んでる」
大量発生する魔獣という言葉に唾を呑む柳谷。あんな怪物が山程現れるのなら確かに脅威だろう。銃創や裂傷を受けてなお人に襲いかかる凶暴性、そしてその剛腕は石を投擲するだけでも脅威だ。
「それでこの世界の人は困ったの。"魔災潮流"のボス、まぁ魔王だね。それを倒さなきゃ"魔災潮流"が収まらないのにその魔王がウンザリするほど強くて、戦うたびに大勢死んでたのよ。それでこの世界の人は滅んだ世界の残留物を利用する事にしたわけ。“神威継承”を持つ人間は並大抵の魔術師よりも遥かに強いんだし」
「でもなんで日本人の皆さんが召喚されているんですか?残留物を利用するならこの世界の人間がそれを使っても別に変わらないんじゃ」
「それは俺たちを召喚した魔術の都合らしい。その残留物は世界と世界の狭間にあるんだが、それを手に入れるにはその残留物の集まった“神世残存帯”を人間が通る必要があるんだ。そして、遥か古代に世界を越えて人を呼び出す召喚法を伝えたヤツがいたんだが、その召喚法は呼び出しは出来ても送り出しは出来ないんだ。だから別世界から俺たちを呼び出すときに通るルートに“神世残存帯”を設定しておいて、俺たちが通るときにその残留物を手に入れさせるってわけだ」
なんとも面倒な召喚方法だ。わざわざ別の世界の人間を呼び出さなければお目当ての“神威継承”が手に入らないとは。しかし、“神威継承”はそこまで非効率的な手段を使ってもでも手に入れたいほどの力を秘めている証明でもある。
「じゃあ皆さんはどんな“神威継承”を持っているんですか?」
「いや、その辺りは答えてはいけないんだ。まぁこんなナリしているが、色々と事情があってな。あぁそうだ、事情で思い出したが、君はこれからどうする」
そう言いながらバベッジが懐から紙を取り出す。なにやら小難しい事が長々と書いてあるようで、4枚ほどのA4サイズの紙が留められている。
「どうする、というのは?」
「いや、これからの君の処遇の話だよ。単刀直入に言えば、君は今非常に危険な状態にあると言っていい」
「危険?なぜですか?」
「あぁそれは、魔術や王宮の話なんだが私はその方面に明るくないんだ。そうだな」
バベッジが後ろを振り向くとその後方の森から緑色の閃光弾が打ち上がった。打ち上げ地点はここからそれなりに距離があるようで、この丘を下り800mほどの地点だ。
「きっかり1時間、流石だな。おい柳谷君、これからあそこまで向かうから付いてきてくれ。四人は周囲の警戒と撤収準備、怪我人の治療と食事を行い2時間後にここを出発する!」
その言葉に頷くが早く、四人は定位置と思われる場所に向かった。浜崎は翼を広げ上空に、荒木は車両の屋根に登り双眼鏡を構える。弘はアタッチメントを取り外しながら長島の後を追い車両の中に入る。
バベッジはすぐに歩き始めていた。柳谷は慌てて後を追いかける。草原の丘を降りると鮮やかな緑の森だ。
この森も深い森だが、土や草や木の香り以外に奇妙な匂いがする。植物が焼けたような鼻に付く匂いで、この森には似合わない匂い。
「えっと、これから会うのは魔術師さんですよね。どんな人なんですか?」
「そうだな、名前はハルクスエ・ビンラディン。性別は女性、歳は20だ。ウチの会社との専属契約で契約金は6億ロン、スブェラザラ学院出身で故郷はサラスバディ州のハルツズ村、魔術属性は火……すまない。君にはわからない単語が多かったな」
確かに柳谷には意味がわからない話だ。地名や魔術の属性も当然わからないが、気になったのは契約と年齢についてだ。この国の金銭単位は"ロン"と言うらしい。円との為替レートはわからいが、あの大型の車両を保有している所や警備会社の装備からみるに貨幣制度は現代日本並みに発展しているのだろう。
「性格は……豪快な合理主義者、と言うのが正解かな。華美さを好まず、独自の美学を貫く女だ。頼りにるよ」
バベッジの話だと、どうやら頼りになる人のようだ。しかし、歩くにつれ植物の焦げる匂いが強くなる。バベッジが言うに、魔術は火との事。漫画的に考えれば火を使う魔術師のようだ。となるとこの焦げた匂いは魔術によるものなのだろうか。
「私の〜愛わぁ〜いつだって!貴方の側にいない〜いぃ!あぁ私も側においててぇぇ!貴方の事を愛してるのわぁ私だけぇ!」
なにやら凄まじい歌が聴こえてきた。女性の声だが、演歌の声のようにコブシを効かせているのでダミ声にも聴こえる。というより、音痴と大声が混ざってそれなりに聴けたものではない。
「うっすハルさん。こっち側の残党狩りは終わったみたいだな。社員の遺体と“魔髄石”の回収は三番隊がやるから俺らは撤収だ」
下手な歌を歌っていたのは白髪の、槍を携えた女性だった。白髪といっても老いた印象は与えない、若々しい生命力に満ちた髪だ。警備会社の社員の格好をしていて、2mはあろう金属製の槍をマイクスタンドのように軽々と扱っていた。相当な筋力だ。
「意外と楽でしたよ。ところでそこの人が見つかった"星の越境者"で"異端封宮"の調査対象?また随分と気の毒な」
「まぁ異端封宮"の連中に渡るかどうかはこの柳谷君次第さ。彼が望むならそうしてもいいし、自由に暮らしてもらっていいし、他に方法も用意してるさ」
「あの、ステッラとかクレタとか、なんの話なんですか?それに気の毒とかクソ野朗とか」
「そっかまだ説明してないんだ。バベッジさん魔術やら"中央王院"に詳しくないし仕方なしか。まぁ君の今後の人生は実験動物か野垂れ死か兵士の三択ってわけよ」
「…………………………………………………………………………………………はい?」
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