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Loser3,柳風の別世界傭兵書記  作者: 西山ァ!
第一章:異世界の生き方
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第六節

書きだめ連投します

主人公はだんだん強くなりますよ!

 森の小屋、その傍に積まれた薪木。見よう見まねで柳谷は鉈を振り回し薪を切っていた。


「セイアっ!ダリャ!シャオラァ!」


 しかし現実は甘くなく、映画のようにスパッと割れる事は無い。薪を立てて鉈を振り下ろすが、最初の一撃は3センチも刺さらず、第二撃で中央部に、三撃目でやっと薪が割れる。片手では腕力が足りず、両手で大型の鉈を振り下ろすがそれでも割れない。何かコツがあるのか、30分以上かけて割れた薪は両手で数えきれるほどだ。考えてみれば先程のトレーニングから水も飲まずにいる。これは不味いと思いトレーニングスペースにある蛇口に向かう。試しにひねってみると水が勢いよく飛び出してきた。水道管が整備されているのだろうか、しかし試しに飲んでみるとえぐみのある味だった。


「ゲェッ!ベッ!なんじゃこりゃ?水なのに苦いなぁ……しかもなんか臭うし腐ってんのか?」


 一応飲めない事は無いが日本の水との味の差はやはり気にかかりあまり飲む事も無く薪割りに戻るが、やはり水分補給が不十分なせいか喉が渇いている。


(まぁ探検ついでに水場でも探すか。こんだけ木が生えてんだから綺麗な湧き水の水場くらいあるだろ)


 森の木々や落ち葉で創られた枯葉層の土や腐植土は天然の栄養剤の役割を持ち、その森の湧き水は上質なミネラルウォーターとなる。湧き水なら寄生虫の心配も少ないのでこの世界の事をよく知る機会と考え森を歩き出す。この森は見たところ広葉樹林、紅葉、楓、檜に似た木々や蛇苺や茶葉、(ひいらぎ)に似た低木や草木。

 別の世界なのに元いた日本にとても似ている森だった。全く別の世界のはずだが、植物や人間、鹿も元いた世界によく似ていた。神崎達をはじめとした日本人達がなんの問題もなく暮らしているのを考えてみればこの世界のこの惑星の気圧や重力も元いた世界と同じなのだ、似た環境に生きる二つの惑星の住民が似ているのは必然なのかもしれない。

 木々に鉈で傷をつけながら歩く。それ程小屋から離れるわけではないが、見知らぬ森を目印無しに歩くのはやはり危険だ。既に夕暮れ、森に慣れている柳谷ならまだ余裕があるが、森に不慣れな人間では遭難すらありうる。

 すると、何かを振るう風切り音が聴こえてきた。音の質が軽いので柳谷の持つような鉈を振っているわけでは無さそうだ。少し近づいてみる。

 その風切り音の正体は木刀だった、いや木刀を振るう少女だった。この森の中、少し開けた場所で素振りを繰り返す少女は、翼を携えた、柳谷を救った少女だった。シャツにトレーニングウェアと木刀とイマイチ噛み合わない出で立ちだが、その鋭い素振りがそう思わせるのか不思議と様になっている。

 それを確認し、立ち去ろうとした柳谷だがその後ろから何かが迫っている事に気付いていなかった。


「何者だ!この不審者がぁっ!」


 その声を聞き振り返る間も無く背中に飛び蹴りが炸裂した。声を聞くと昼間に聞いた声だった。


「ながじぁざぁんんんん!?」


 全力疾走からの美しきジャンピング・ニー・バット。世が世なら女子プロレスラーとして活躍しただろう。リングネームはライガー長島だろうか。

 ライガー長島に蹴り飛ばされ柳谷が地面に倒れる。立ち上がろうとすると頭に銃口が突きつけられていた。


「誰だ!所属を言え!言わなければお前のケツの穴に銃口を差し込んで……てっ!?柳谷君!?」


「あのぉ……なんのんですかイキナリ……」


 この世界に飛ばされた直後から森を彷徨い魔獣と戦い肩甲骨を骨折し筋肉トレーニングに薪割り、それに続きまだ身体をいじめ抜くメニューが待っていたとは。先程の飛び蹴りは中々のダメージでまた骨が折れてしまうかと思うほどだ。しかも狙いは的確、プロテクターの隙間を縫う一撃。暑かったので小屋にジャケットを置いてきたのが悔やまれる。あのジャケットも防具らしい……。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!ごめん!本当にごめん!刃物持ってたし暗殺者か何かだと勘違いしちゃった!ごめん!」


「いや刃物持ってだんだしそう思われでも仕方ないよ。ずみません」


「せいちゃん!?何かあったの?て、柳谷君?」


 素振りをしていた浜崎も2人に駆け寄ってきた。寝転んだ男性とその腰に馬乗りになった女性、TPO(時 場所 場合)によっては非常に危険な絵面だが、実情は女レスラーにマウントを取られた刃物を持った不審者Aだ。武器類を外しているとは言え、防具を身につけた柳谷を蹴り飛ばすとは並みの鍛え方では無い長島は慌てて浜崎に説明する。


「えぇっと、ちょっと手違いというか勘違いで柳谷君にちょっと本気の一撃ででも柳谷君にもちょっとだけ非はある、いや無い!やっぱ私が悪い」


「落ち着いて。それと俺はこの世界の事を少しでも知りたいから森を歩いてたんだよ」


 少しパニックだった長島を落ち着け2人に事情を説明する。そのついでに2人はここでなにをしていたのか質問する。


「皆さんは俺たちのいる隊とは別なんですよね。飛行船から降りてないし、なんでここにいるんですか?」


「えっと、ここのあたりの土地はまるっとウェストコット警備と聖典教会の所有地なの。私達もここのあたりからちょっと離れた所に宿舎があってそこを拠点にしてる。宿舎から離れててここに私達がいるのは私達の班の人から離れて訓練したくてね」


「なんで離れてるんだ?」


「……こっちにはこっちなりの事情があってね、私の好みの問題なんたけど、胸糞悪くて頭にくる事があってさ。あんなの見てられないし出来るだけ離れておきたくて」


 長島が眉間に皺を寄せる。どうやらこれ以上踏み込むのは野暮でお節介、詮索するのはよした方がいいのだろう。だがもう一つ、奇妙な疑問がある。


「あと暗殺者って何事?あそこまで警戒するなんて普通じゃないし、なにかあるのか?」


 暗殺というのは敵対勢力の重要人物を殺す事で、敵対勢力に打撃を与えるのが基本的な目的だろう。だがこの世界の戦いは人類と魔獣の戦い、人類の味方である神威継承を人間が殺すのはわざわざ味方勢力の戦力を減らす事になり、メリットは無いように思える。


「人間も一枚岩じゃ無いって事。変な宗教が魔獣を神聖視してて、それを倒す神威継承は悪魔だ!とか、他国の軍隊が魔王を倒した後に敵となるのを防ぐ為に殺そうとしたり」


「そんなこんなで一人狙われちゃってさ。なんとかなったんだけど、その子せいちゃんの友達で、今神経質になってて」


 成る程、暗殺が身近という事か。昼間の戦いでゴリラ以上の巨体をなぎ倒した浜崎や神崎だが、暗殺とはその様な強さとは別種の技術、神威継承を使わなければその経験や知識は一般人と変わらない。


「ところで今日の夕飯は?荒木の奴が張り切ってた?」


「えぇ、確か鹿肉とかなんとか」


「よっしゃぁ!じゃあ今からそっち行くから!ゆっちゃん、頼める?」


「了解、柳谷君も腕に掴まって」


「いや俺は大丈夫ですから」


「いいからいいから!早く早く」


 そう言われて強引に手を握られる。それと同時に浜崎は翼を生やし、鷲のように羽ばたく。それだけで木々を越え、森を一様出来る高度に達する。もうひと羽ばたきすれば柳谷の住むことになっている事務所にたどり着くだろう。

 


 長島は一つ、奇妙な事に気がついた。それは右手に掴まった柳谷だ。浜崎と長島は幼馴染で長い付き合い、一時期疎遠になった事もあるが浜崎についてよく知っている。それこそ、幼少期の思い人や友達との交友関係についてはよく相談も受けていた。そして、柳谷と長島に今日以前の面識はない。

 だからこそ柳谷が引っ掛かる。その引っ掛かる点とは、柳谷の眼だ。柳谷と浜崎も初対面のはずだ。浜崎が入院してから復縁した二人、積もる話もあり友達や恋人についても語り合った。そしてその中に柳谷という少年はいなかった。

 だが先程、一瞬だけ垣間見せた柳谷の表情はとても出会って一日の人間のするものではなかった。それは慈しみと恋慕、そして寂しさを混ぜ合わせた様な奇妙な、恋人を想うような美しさに満ちたものだった。

誤字脱字等ございましたらご報告願います

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