終わり
「信忠ごくろう、短期間に見事ぞ」
信長が甲斐に到着をして出迎えた嫡男信忠を誉めており信忠もまんざらでもない、
「和尚ごくろう、信忠を補佐して短期間に」
私は頷き、
「ただ信忠様は高遠での単騎かけはいただけぬかと、大将は部下が功をあげればそれが手柄となりますから今後は」
「わかっておる。今回が最後」
信忠に釘を指しお祝いを述べると茶室に移動した。
「どうであったか」
「立派にはてました」
天目山での事を思い出しながら信長が入れてくれたお茶をいただく、
「もう少し感情が沸き上がるかと思っておりましたが」
「そうか、辛いな」
一礼をして、
「穴山の件は後でむくいを受けさせますので」
「一言言えばよかろうがまあよい、ところで今後どうする」
「京へ上がりしばらくは津田殿に会いに行ったりと考えております」
「そうか」
そう言うとあとは無言で過ごし、信長の心使いに改めて心の中で礼を言った。
帰りは駿河経由で家康の領内を帰ることになり甲斐を出発する。
「もう戻ることはあるまい」
焼け落ちた躑躅ヶ崎を見上げながら京への道を進む、
「霊峰富士か、素晴らしいな天海」
信忠は嬉しそうに富士の麓に到着して見上げる。
「武田が滅びようが何も変わらずそこで見守っていますから」
これから起こることに毎度心を痛め変えられるが歴史が変わる事への恐ろしさと内裏の裏方の部屋で声をかけていただいたあの方の気持ちは裏切れぬと思いながら地元なので色々説明をして西へと向かう、
海に出ると砂浜を馬で走ったりと楽しむ親子に顔が緩みながら家康の元へ顔を出した。
「家康殿の細やかな気配り信長殿も喜んでおられましたぞ」
私の言葉にほっとした顔で頷くが後ろから不平不満が聞こえてきて家康が、
「信長殿が決められた事、我等は従うのみ」
それでも不満な家臣に、
「今慌てて火中の栗を拾わずとも家康殿には耐えれば手に入るそう見える腐れ坊主の戯言ですがな」
「誠か坊主」
愚直な家臣達が聞いてくるので、
「後20年すれば色々と変わる、大陸のことわざに万事さいおうが馬と言うのがある」
古事を説明するとようやく落ち着いたのか通る道をはいて清め通行に邪魔なものは枝1本さえも取り除き、天竜川では仮設の橋をかけたりして信長を喜ばせた。
「信龍殿」
声をかけられ振り向きながら、
「裏切り者め、上手くやったと思っておろうが小山田が待っておるわ」
信君(穴山)が立っており私がいるのを驚いている。
「しかし信龍殿も裏切っているでは」
「大昔からみかぎっておる、その方の妹とその息子は農民に竹槍で串刺しになっておろう」
「何ですと、まがりなりにも妻であったものに言う言葉ですかな」
「わしの所に来た時点で小山田の血を引く息子を身ごもっていたのを知っていたくせによく言う、知らぬと思うたか」
「それは」
信君は顔を青くして震えるので、
「今は手出しはせんが家康殿を裏切り自分だけ身の保身を謀ったときその方の首が飛ぶと覚えておけ」
呆然とした信君をおいて浜松に入った。
「家康殿、ここまでの気遣い感謝する。礼に持ってきている兵糧米を渡そう」
配下の兵も返してしまい最大級の返礼を形にかえてお互い信頼しあう二人、ゆっくりとすごしながら京へ戻った。
堺にそのまま向かい津田のお店に顔を出しお願いをする。
「預けている金の半分を準備をしてほしいと言われますか」
私の坊主頭に驚きながらも承知してくれ小太郎の配下に取りに行かせるまで預かっていてもらう。
「少ししたら大事な事柄が発生する。その時に必要になるからな」
手配をすると信長から呼び出されて安土へと戻った。
「皆ゆっくりしていかれよ」
返礼として信長が家康達を呼び光秀が手配した豪華な宴会が行われ、歴史道理になれ寿司を出して独特の匂いに信長は怒り光秀にそのまま出陣を命じる。
「しかし途中です。終わるまでは」
「うるさいキンカン頭、さっさと準備して秀吉の元に向かうがよい」
口ごたえが嫌いな信長と長年連れ添いストレスを発散出来た唯一の伴侶である妻を亡くして一杯一杯な光秀ここで一言、
「話を聞こう、口外はせぬから話せ」
それだけでストレスが少しは緩和されたろうが歴史を変えるわけにもいかず、失意のうちに丹波へ戻り私も心の準備をして家康の観光に合流をして堺に入った。
「明智謀反にございます」
小太郎に警戒させていたが聞くと力が抜けて座り込む、家康とその配下を呼び出し座ったままで、
「明智謀反にございます。信長殿は本能寺で最後をとられたと」
そう言うと驚き何度も確認をして来るので頷くと、
「もうおしまいじゃ、明智なら関所をもうけて逃げ道をふさいでおろう」
悲鳴をあげる家康に家臣の言葉は届かない、
「家康殿、悲観する事はないと万事さいおうが馬にございます」
そう言うとすがるように見るので、
「これで誰が天下を取るかわからなくなりましたな、あきらめなければ大丈夫」
そう言うと驚くので、
「今から陸路で横断して浜松に送り届けましょう」
「まかせる」
すぐに出発をした。
前と同じ道を進み私は伊賀に入ると先行して金をばらまき道を作る。
「怨みは怨み、わかっておるがこれでどうじゃ」
金を積み顔色が変わるのを見ながら約束させていく、
「例の件の報告に」
あらかた約束させると小太郎が知らせてくれて馬で急ぐ、
「信君め」
家康一行から自分だけ抜け出して助かろうと別の道を抜けているらしく小太郎の配下が農民に変装して竹槍で探すふりをしながら追いたてていき寝かさぬようにさせておき家康を津まで連れていき船にのせ浜松へ送り出した。
「私用ですぐに後を追います」
安堵している家康に言うと急ぎ戻る。
「山を包囲して追いたて寝かさぬようにしております」
私はぼろぼろの僧侶の格好で信君の近くを歩くと私を見つけたのか走りより声をかけてきた。
「そこの坊主、頼む甲斐に戻りたいのだ」
私は聞かなかったように歩き続ける。
「声が聞こえんのか、坊主返事をせい」
肩を掴まれ振り向かされ私とわかるとかたまる。
「この状況わかってもらえたかな、あそこにもそこにも農民が探しておる」
わざと見えるように竹槍を持った農民をうろつかせており信君は辛うじて押し殺した悲鳴をあげ周りを見てあぜ道の横にしゃがむ、
「私は坊主だからな、無事に抜けられれば良いな」
歩き出すと後ろから、
「信龍殿、後生だ頼む置いていかないでくれ頼む何でも言うことを聞くお願いだ」
叫ぶ信君をおいて浜松へ戻った。
後は信照の時と同じように動き納得いかないと言うか人生を終える。
内裏に1度だけ拝謁することができ、
「上手くいかぬものだ、生きていくことに」
それだけ言われて一礼をしてそれからの天海として生きて長い一生を終えた。