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□ 奇妙な夜 □

 J−10はそれから自室に戻り、身の回りの整理などして荷物を小さなリュックに纏めると、あとはホバーボードの整備をしていた。

 Jはどうすることも出来ずに、もう空になったコーヒーカップを両手で抱えながらずっとその壁際に座ったままだった。


 やがて夜が深まり、街灯の明かりも落ちると、少年はベランダの窓を大きく開け放った。

 少し湿った風がJの髪を揺らす。

 また雨が降るのかもしれない。


「さぁ、行こうかな」


 少年は進み出す。ただ前方を見据えたまま、振り向くことさえ忘れたように……

 Jにはその後ろ姿を見送る事しか出来なかった。まだ、少年の言った言葉が理解出来ないでいたから。


 ――理解してはいけないような気がしたから


 手にしたホバーボードを器用にくるりと回して、少年はぽつりと呟いた。


「――いつか、会いに来てもいい?」

「そんなこと……あたしに聞くことじゃないじゃない。だいたい、J−10が出て行ったら、あたしどっか別の部屋に移されるかもしれないし……」


 少年は笑って、言ったことは実行するタイプだよ、などとのたまった。


 夜の太陽――月も、今夜は生まれたばかり……月齢0。

 そうして、夜が好きだと言った少年は、その闇に身を溶かす様に軽やかに飛び出した。

 ホバーボードは音も無く空を滑り、誰も越えたことのない(ウォール)へと向かう。途中、ただ1度大きく円を描くようにターンして――


 ▼  ▼  ▼  ▼  ▼  ▼  ▼


「――全く、前代未聞だよ。この時代になって『神隠し』でもあるまいし」

「……神隠し?」


 新居に案内を受けながら、少女は背の高い作業着を着こんだ年配の男性に微笑みかけた。


「昔――もう、ずっと昔に使われていた言葉で、彼のように突然消息が……」

「知ってます。授業でやったもの」

「おや。古典社会かい?」

「ええ……そう」


 くすくすと可笑しそうに笑いながら、少女は鍵が開けられるのを待っている。


「あたし、苦手で――」


 軽やかな金属音が響き、電子ロックのランプが赤から緑へと変わった。

 男性は薄いカードを少女に渡し、つられたような笑顔でどうぞ、と言った。


「ありがとうございました」


 深々と頭を下げて礼を言うと、少女は少々緊張しながらカードを差し込む。

 もう振り返らなくてもあの男性が離れていくのが解る。


「――神隠し……壁隠し(・・・)の方が正しい……かな」


 目の前にひらけた新しい住まいは、いつかきっと訪ねて来るであろう少年の為に空けておくスペースが、少しも困ることなく広がっていた。



 □ FIN □

お付き合い有難う御座いましたm(__)m

出来ればまた別の作品で。

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