「ヌラ」Part4
「………」
身体の震えが止まらない。
ヒメカはA35格納庫に続く通路を歩きながら、先頭を歩く青年を警戒していた。
―――ユウキをいつでも守れるようにする。
そんなはずない…‼
そして同時に、この思いが頭を駆け巡っていた。
…似ていたのだ。あの人から感じた怖気が奴等のものと。
『―――呪子 生贄』『生贄』『生贄』『生贄』―――』
「―――っ‼」
過去の凄惨な記憶を思いだし、泣き崩れ逃げ出したくなる。
『一体なぜ』と恐怖を拭えなかった。
私の存在がバレていたのか。ありえるはずない。
自身の事を全てを偽り、呪いを薬で抑えてきた。
それに養成支部に入校するためには適性検査を通過しなくてはいけないのだから。
しかし、もし知られていたら?適性検査を通過していたら?
「―――」
―――けれど、それでもヒメカは恐怖に耐え、前を向いていた。…それは、ユウキの存在があったから。
先輩…
…今度は私が助ける。先輩がかつてそうしてくれたように。
…それに、さっきのユウキを見て、ヒメカはあることに気付いていた。
―――ユウキが記憶喪失になっていること。
そうとしか考えられない。私の名前を呼んだ直後に襲われていた頭痛。部隊員としての記憶があるとは思えない会話。そして再開したときから、絶望に捕らわれていた目…
…何があったか分からない。何故、支部にいるか分からない。
…だが今の先輩は、あの時の私と同じ助けを求めている。だから…
『――――』
A35格納庫に近付くにつれ、何かの駆動音と共に地響きが伝わってきた。
「あーあー、これでお嬢さんの評価相当下がったんじゃないの?」
「……」
「…見て分かるだろ」
…すると、まるで愉悦を含んだような口調で喋る青年にカズトが言った。
「ア?」
「この子は彼が心配で探しに行ってたんだ。逆に称賛に値する行動だよ」
青年の動きが止まる。
その瞬間、またさっきの怖気をーーー
「ーーー美乃ッ!!」
だが、その瞬間後ろから声が聞こえた。
ヒメカは振り返ると、通路の奥から息を切らした兄が走ってくる。
「兄さん…!」
兄の存在に、ヒメカは安堵を覚えた。
恐怖が和らぎ、緊張が緩和する。
「ハァ…ハァ…!勝手にいなくなってりやがって、何をーーー」
だが途中で手を繋がれているユウキの姿を見ると、顔を歪めた。
「ーーーおや、一歩遅れたね」
そう青年が笑顔で言う。
「…ああ。妹が迷惑を掛けちまって悪かったな」
…リュージはヒメカの前に出て鋭い口調で言う。
「まぁ良いさ」
そう言うと青年は一瞬の間の後、通路を先に進んで行った。
「…お前も、悪かったな」
青年の後に続き、先に進もうとしていたカズトにリュージがそう言う。
「……見つかって良かったよ」
優しい笑みを見せ、先に進むカズトを見ると、「行くぞ」とリュージが言った。
「……」
…ヒメカは嫌な予感がしてならなかった。
震える声ですぐにこの事を兄に伝えようとするが、他の人がいるこの状況では伝えられない。先頭のヌラに聞かれるかもしれない。
「美乃?」
「…兄さん、後で話がしたい」
―――だから、2人きりになった時に言う。




