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オタクじゃない何かとヤンキーじゃない何かは人生も恋愛も少しずつ歩んでいく

「……なぁ」

「どうした?」


 ある日の放課後、雲母は隣を歩く慎吾に神妙な表情で声をかける。更生した雲母はつるんでいた悪い連中に追われるなんて展開にもならず、徐々にではあるが失った友情を取り戻しつつあり、一方で慎吾はオタク趣味から完全に足を洗ったことで友人を失い、たまにクラスメイトと会話はするけど親しい人はいないポジションとなりつつあった。それでも慎吾は不満だとかを感じることは無かったのだが、雲母はそうはいかないようだ。


「私達、付き合ってるんだよな?」

「……」


 明確にクラスメイトに付き合う事になった、とはお互いに言っていないし、きちんとした告白や、付き合ってくれなんて言葉が飛び交っている訳でも無い。学校では更生はすれど学力が不足している雲母の面倒を見ているし、こうして一緒に登下校もしているが、お互いに付き合っているという感覚は一切無かった。


「私の事が好きだから、ミアと別れたんだよな?」

「まぁ、オタク卒業したのがバレたからフラれたというか……お前こそ、俺を想って泣いてたんだろ?」

「いや、何というか、あの時は好きとかじゃなくて、虚無感というか」


 慎吾がミアと付き合っている時よりも雲母とつるんで馬鹿やっている方が楽しいと感じていたのは事実だが、完全な恋愛感情という訳では無く妹のような友人のような関係も好んでいた。雲母も似たような感情であり、『自分はまぁ恋人になりたいって程じゃないけど向こうが自分を好きみたいだし恋人になるか』という消極的な恋愛感情をお互いが持っているという状況であった。


「まぁ、いいか」

「そうだな」


 きちんとした恋人で無くても、現状の関係でもそれなりに満足していたのでこの話題を終わらせようとしたのだが、


「いいわけ無いでしょう」


 後ろから肩を掴まれ、呆れたような少女の声がする。二人が振り向くとそこには若干苛立っているミアの姿があった。


「ミ、ミアか。久々だな。どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたもありませんよ! 人を当て馬にしておいて何ですかそのしょうもない進展は! 幼馴染の関係性で満足している段階なんてとっくに終わってるんですよ! 真面目に恋愛してください!」


 当初こそ雲母と慎吾のやりとりを微笑ましく眺めており、これ以上二人に介入するつもりも無かったミアではあるが、あまりにも進展が無いので発破を掛けにやってきたのだ。


「これが幼馴染の恋愛なんだよ」

「そんなはずはありません、私が見てきた漫画やアニメでは、互いの好意に気づいた幼馴染はすぐに恋人モードになり毎日いちゃついてました」

「フィクションだろそりゃ……ミアも他人の恋愛ばかり気にしてないでさ、前に進もうぜ? オタク卒業したこいつの肩を持つ訳じゃないが、漫画やアニメに憧れてばかりいると恋愛が出来なくなると思うぜ?」

「心配しなくても私はオタサーの姫です! 今週はちゃんとデートして感想文を提出してください」


 雲母に自分の恋愛を心配され、大きなお世話だと憤慨して早歩きで二人を抜かし去って行く放送部の姫。仕方がないから今週はミアが喜びそうなデートのプランを考えるか、と慎吾の部屋に集まる二人。


「……デート、なぁ。どこか行きたいとこあるか?」

「特には。ヤンキーみたいな趣味は卒業したし、無趣味状態だよ今の私は」

「俺もオタクを卒業して無趣味状態だ」


 最近やっている映画だとか、スポーツの試合だとか、デートの題材になりそうなものを探していくが、慎吾だけでなく雲母も今までの趣味を辞めたことで何を楽しめばいいのかがわからなくなっていたし、かといって一緒に遊んでいた、小学生時代の遊びを今更やる気にもなれない。


「ノリでヤンキーだのオタクだのにハマって、極めることも出来ず、私達って空っぽな人間だったんだな。私は頭も空っぽ。あー進路希望なんて書こう、大学は絶対無理だし」

「空っぽの方が色々詰め込めるって言うだろ。とりあえず色々見て回ろうぜ、一人なら退屈でも二人ならそれなりに楽しいだろ」

「お、それ恋人っぽいセリフだな。まぁ、私としては『そんな事ないよ、一緒に大学行こうぜ』とかが良かったんだけどな」

「俺も自分の受験勉強があるから、お前も必死にならないと無理だぞ」

「生まれ変わった雲母ちゃんの真の力見せてやるよ!」

「んじゃ参考書でも見に行くか」


 人生全体の虚無感を味わいながらも、その表情も口調も朗らかな二人。こうしてオタクでも無いヤンキーでも無い、何者でも無い二人は、足りない人生の経験値や恋愛の経験値を稼ぐために歩み始めたのだった。

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