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オタクじゃない何かはヤンキーにフラれる

「風見さんどうしたのその髪? 随分バッサリ行ったね」


 慎吾がミアにフラれ、休日を挟んだ翌週の月曜日。慎吾が学校に行くと、クラスの話題は長かった髪をバッサリと切ってしまったミアで持ち切りだ。


「失恋したんです」

「えーっ! 風見さんを振るなんてあり得なーい」

「私アニメとか漫画とか好きなんです、趣味の合う男の人いないですかね?」

「うーん、クラスのオタク男子は詳しそうだけど、ああいうのを彼氏にするのは勿体ない気がするなぁ」


 一切慎吾の方を見ることなく、少し怒った様子で自分がオタク趣味であることをカミングアウトするミア。慎吾が属しているオタクグループのメンバーがそれを聞いてドギマギする中、オタクを名乗ることも許されなくなった慎吾は雲母の方を見る。


「……」


 雲母は慎吾とミアを交互に見た後、一体どうしたんだよと言わんばかりの目で慎吾を心配そうに見やる。ずっと慎吾を避けて来た雲母であったが、この日の放課後に慎吾が学校を出て行くと、焦りながら追いかけて来る。


「お、おい、喧嘩したのか? 仲直りはするんだよな?」

「いや、別れた。俺がもうオタクじゃないってバレたんだよ」

「それはお前がカッコつけてるだけだろ、ほら、四字熟語にもあるだろ? 雀が100匹揃えば牙を剥くって」

「雀百まで踊り忘れず、な。四字熟語でも無い。それよりお前ずっと男探してたよな、どうなったんだ?」


 サラッと別れたと言う慎吾に対し、折角色々協力してやったのに幸せにならないなんて許さない、と涙目で睨みつけてくる雲母。慎吾はそんな雲母から目を逸らすことなく、最近の雲母の状況について尋ねる。男を作ろうとするがあまり、昔つるんでいた、かなりガラの悪い人達との付き合いも再開したなんて話を聞いており、それが原因で学校でも雲母は孤立し始めていた。


「関係無いだろ。……ああいや、週末にすげーホストやってる先輩とデート行くんだ。彼女も何人もいるんだぜ、やっぱりイケメンっていいよなぁ……だからお前もどうにかしてミアとよりを戻せよ」

「今すぐそんな連中とは縁を切れ」

「私が誰と付き合おうと勝手だろ!」


 ホストの食い物にされていると宣言する雲母を叱りつけ、反発する雲母に対し何度か漫画やアニメで見て来た光景を参考に壁ドンをする慎吾。雲母も読んできた漫画で見たことのあるシチュエーションであり、それが何を意味するかを理解しており顔を赤らめながら混乱する。


「お前と馬鹿やってる方が、ミアと一緒にアニメ見たりゲームしてるより楽しいんだよ。お前が何かと協力してくれて一緒にいる時の方が、心地よさを感じた。だからそんな彼女も何人もいるような人間の女になろうとするな、代わりに俺と……」

「キモオタがキモイこと言ってんじゃねー!」


 女子と会話するのなんて苦手中の苦手な、ミア相手でも余所余所しい喋り方が多かった慎吾だが、妹のような存在だとずっと思っていた雲母相手には男らしく強気に語りかける。しかし突然の告白とも言える状況にパニックに陥った雲母は、思い切り慎吾をビンタして走り去ってしまった。


「……漫画やアニメのようにうまくはいかないか」


 短期間に二人にフラれてビンタされてしまった慎吾。優しくない嘘でミアを悲しませてしまったし、自暴自棄になりつつある雲母を救うことも出来ない。結局俺はキモオタにもなれなかった、ただのキモ男なのだ。そう打ちひしがれながら帰路につき、自室のベッドで色々と過去がフラッシュバックしてすすり泣いていたのだが、夜中に隣の家の方から騒がしい声がすることに気づく。


「ミアー! 開けろー!」


 それが雲母の声であり、どうやらミアの部屋の前まで来ていると悟った慎吾は、赤く腫れた目を拭きながら風見家へ向かう。ミアの部屋に辿り着いた慎吾が見たものは、雲母がミアの肩を揺らしながらよりを戻すように説得している状況だった。


「考え直せよ! あいつはミアの前でカッコつけてるだけなんだって!」

「私にはそうは見えませんでしたよ……あら、慎吾さん」


 泣きながらミアを説得しようとする雲母と、とても冷静な表情で雲母を見つめるミア。慎吾は二人の間に割って入り、慎吾がやってきたことで更に泣き出す雲母の顔をハンカチでごしごしと拭く。


「ひぐっ……なぁ頼むよミア、1年だけでいいんだ、こいつに青春を味わせてやってくれよ。顔は良くないし、ダサいけどさ、いいやつなんだよ……」

「だったら雲母さんが付き合えばいいじゃないですか。どうして雲母さんは自分の気持ちから逃げるんですか?」

「もしかして私に遠慮してるのか? 違うんだよ、私はそんなんじゃ無いんだよ、だから私の事なんて気にしないで二人で仲良くやってくれよ。あれだよ、ケンタッキーなんだよ、一時的なもんなんだよ、そうだ、三人でアニメ見ようぜ、気分転換になるだろ」


 自分の存在自体がミアに勘違いをさせてしまったのだと、必死で弁解しながら、二人の仲を取り持つためにミアの部屋にあるアニメのDVDを手に取ろうとする雲母だが、もういいんだと慎吾に手を掴まれる。手を掴まれただけで顔を赤くしてしまう雲母がいくら弁解をしたところで、ミアの目は冷ややかになるだけだった。


「俺達は倦怠期じゃない。最初から俺とミアは合わなかった。もう俺はオタクには戻れないし、戻るつもりも無い。お前もヤンキーなんて辞めたがってたし、やっとまともになってきたじゃないか。だから昔の連中とつるむのはもう辞めろ、不幸になるだけだ」

「私はお前とは違うんだよ、お前はキモオタのままだけど、それでも昔に比べたらカッコよくなったんだって、可愛い彼女を作る権利があるんだって。私みたいな馬鹿な女とは違うんだって、だから私の分まで幸せになってくれよ」

「虫唾が走るくらい、二人は幼馴染なんですね。泣きながら人の部屋でラブコメするなら出て行ってくれますか?」



 ミアには決して理解できない雲母の言い間違いを瞬時に理解する慎吾と、暗に自分は慎吾と釣り合わないと言い出す雲母。漫画やアニメで何度も見て来たような関係性に最初から自分が立ち入る隙なんて無かったのだと理解したミアは、普段見せないような険しい表情になる。何でこんなことになっちゃったんだよ、と錯乱しながらミアの部屋を出て行く雲母を見送った後、慎吾もミアに申し訳なさそうに会釈をしながらその場を去ろうとするが、その手をミアに掴まれてしまう。


「ミアさん……いや、もう下の名前で呼んだら駄目か。風見さん、ごめん、雲母はああ言ってるけどさ、俺達一緒にいたって楽しくないよ。風見さんがいつも見てるような漫画もアニメも、子供っぽいって思うようになっちゃってさ」

「子供っぽくて悪かったですね。そんなことより、作戦会議です」

「作戦会議?」


 後ろから手を掴まれたまま、ミアの顔を見ることが出来ずにオタク趣味とは決別したことを告げる慎吾。自分の趣味を子供っぽいと言われて少しショックを受けながらも、ミアは自分の部屋の棚をガサゴソと探し、1つのゲームソフトを取り出して慎吾に見せる。それはメインヒロインが幼馴染の、主人公の友人が何かと情報をくれるギャルゲーであった。


「一度やってみたかったんですよ、素直になれないカップルをくっつける主人公の親友の役を。雲母さんばかりずるいです、私と慎吾さんをくっつけるためにどんな楽しい会議をしたんですか?」

「風見さん……俺は君を裏切ったのに、本当にごめん、ありがとう」

「下の名前で呼んでください、私は主人公の親友なんですから」


 申し訳ないと思っているなら私を恋のキューピッドにしてくださいと、先ほどまでの冷たい表情はどこへやら、人の恋路に介入するのはさぞ快感なんでしょうねえと目を輝かせながら漫画やアニメで出て来た作戦を列挙する。慎吾はミアに感謝しながら、かつてミアを落とすために雲母と作戦会議をしてきた経験を、今度は雲母を落とすために使うのだった。

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