65 ネックホールダ―男爵の家出(その2)
男爵様は家出をしました
そうすると執事が家出先の宿まで訪ねてきました
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どうやら男爵家当主であるにもかかわらず家出をしたのが悪かったらしい
・・・そういえばオレ御当主様だったっけ
今になって自分の立場を思い出した
いえね、所詮は元子爵家の三男だよ
長男のスペアの次男がいるでしょ
そのさらに予備
小さい頃は死亡率が高いから結構優遇されていた(ような気がする)
でも長男が大きくなるとやっかいものと化した
まあ、格下の男爵といはいえ婿入り先を見つけてくれたくらいは愛されていた、かな?
もっとも婚家でも実家にいるのと大して変わらない
かたや長男が成長したら用なし扱い
かたや子供が生まれたら用なし扱い
・・・オレ、泣いてもいいかな
貴族とは名ばかりで特権なんて全くなかったから気がつかなかったよ
男爵家の当主という重さを、な
腐っても当主様
子供が生まれて大きくなって用なしになった当主様
それが家に帰らない
宿屋暮らし
そりゃ噂ずきの貴族の格好のネタになるというものだ
・・・ちなみに愛人宅とかなら問題がないのは貴族の常識
そこで困ったのが男爵家の妻とその母
お茶会に行くと
「お仕事大変そうね?」
「男爵のおかげで『旅人』の量が増えて皆様喜んでいますわ」
とか笑顔でいたわれたそうだ
ちなみに順番に
家が嫌になって帰ってこなくなったそうね?(ブブッ)
家出の一件で皆が笑っているわよ(クスクスクス)
との意味らしい
・・・言葉だけでなくその場の雰囲気からそうなるらしいんだが男には全く意味がわからん
もちろん妻と娘は笑顔で返事をしてその場を取り繕った(そうだ)
そりゃそうだ
それくらいできなければ貴族はやっていけないからな
そして男爵家に帰ると物やら使用人に当たり散らした(らしい)
「使用人の態度が悪いから夫が家に寄りつかない」
とか?
見事な責任転換だ
母娘が率先して夫を虐げていた
それを見て空気を読んで同様の扱いをした使用人達
・・・長いモノには巻かれろってやつだ
ところが今になって都合が悪くなると責任はすべて使用人に!
そして執事が夫えの説得に送られた
というわけだ
「言いたいことはわかったよ」
男爵がそう言うと笑顔になる執事
しかし
「もう帰っていいよ」
と言うと執事は『何言っているんだ?』って顔をした
夫が男爵家に帰って一件落着、とか思ったみたいだけど帰らないぜ?
『わかった』っていうのは『執事の言ったことを理解した』って言う意味だ
『男爵家に帰る』とは誰も言っていない
勝手に勘違いするのはやめてくれ
そう言うと執事の顔色が面白いように変わった
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まだまだ続きます
虐められっ子は劣っているわけではありません
虐めっ子も虐められっ子もスペックはほぼ同じです
ちょっとしたきっかけの差だけ
それが現実です
ちょっとしたきっかけがあれば報復をされるってもんです




