5、obvious/「戦う」と云うこと(7) 志波多家と春日家
「志波多!? 志波多ってあの」龍一が立ち上がった勢いで、椅子が倒れる。
「ええ。志波多甚左衛門御大の志波多家です。領主様の側近の」鐡草が昨日の晩飯は魚でした、と同じテンションで言う。
「驚いたな。分家、てどういうことだ」嘉内が鐡草の方に身を乗り出す。
龍一は椅子を戻しながら着席し、落ち着きたくてセレブ茶を一口飲む。オレンジの香りが鼻を抜ける。
「どこから説明しましょう。
まず、ここ西園領が元は罪人の流刑地、収容所みたいなどこだったってことはご存知ですか?」
「知っている。嘉内の家に入ってから、歴史の教養で教わった」
「お、俺も、きみ仁に聞いたことある」
「隊長に!? なんで地元のことぉ異邦人の隊長に教わんだよ腹立つなどう教わったか一言一句間違わず吐け」
「カウチーいちいち突っかかって来ないで。鐡草さん、先続けて」
君ら面白い取り合わせですね、と鐡草が笑う。窓から入り込む夏の日差しがセレブ茶を通って、ピッチャーにオレンジ色の影ができる。
「西園領が罪人の流刑地だった頃、戦で負けた秋津の国てのがあってですね。そこの宗主に仕えてた西園ってのがいたんですよ。
西園は秋津の名軍師で、宗主をよく支えてたんですが、おかげで敗戦後は戦犯に仕立てられたんです。で、流された。
さてここ、西園がなんで軍師として抜きん出られたかって話になった時に、ようやく忍者が出てきます」
に、と鐡草が悪戯っぽく笑う。
龍一の目の中で、ピッチャーの中の細切れパインがぷか、と浮く。
「忍者っていうのは諜報の専門集団なんです。情報を得るために敵の中に忍び込み、依頼人に利益をもたらす。そういうことに特化した集団です。結果、特殊な技や道具を生み出して来ました。
西園は秋津の豪族としていくつか領地を持ってたんだけど、土地には黒巾木衆っていう忍者集団の隠れ里があったんですね」
「そいつらに諜報をやらせてたから、西園は軍事判断に長けたわけか」
嘉内が貴族の醜聞を聞いたかのように吐き出す。
「そうそう。つまり情報戦を制してたんですね、西園は」
「鐡草さんの黒刃ば木って姓は、そっから来てるんですか?」
「そうですそうです。アーティストネームってやつですけどね。
西園が流される時に、隠れ里から何人か抜け忍が出て、ついてったんです。
本来忍者は依頼者に忠誠誓ったり情持ったりしないものなんですけどね。西園家はよほどうまくやってたんでしょう。
頭はいいけど武に優れてるとはいえない西園家です、無事流刑地に行けるか案じたシノビーーシノビって忍者のことなんですけどーーが数名、里抜けて護衛兼サポートについてったって話です」
嘉内がセレブ茶を飲み干して、当然の権利のように「おかわり」とマグを差し出す。
龍一は話に聞き入っていて、セレブ茶の存在を忘れていた。
鐡草が柔らかい手つきで、嘉内におかわりを差し出す。
「ここ、日高みの流刑地に着いた西園家は、生馬の目を抜く罪人世界で、情報戦を制してのしあがりました。もちろん、抜け忍たちの助力あってのことです。そうやって何百年かの戦国乱世ののちにできたのが西園領。
西園領ができる頃、西園家は大きく三つの家に分かれていました。直系の西園、情報戦の伝統を継ぐ分家の嘉内、魔法の道に進んだ春日です」
嘉内と龍一の呼吸が止まる。
「嘉内」
「春日!?」
鐡草が、この反応を見たかったとばかり、満面の笑みを浮かべる。




