2、 glimpse/友達でいるということ(7) 自警団、ブラッドサッカーズ
教会から北西徒歩約10分の距離に、戦勝門という巨大なアーチが二つ並んだ門がある。
その向こうは、戦勝広場という広場だ。
横断に徒歩約5分かかるこの広場は、現領主の内戦勝利を記念して作られた。
中心に勇士の像と広い噴水を据え、噴水の四方に太い針葉樹と芝生を移植して作られた広場は、瀟洒な近代建築に囲まれて、景観法でぎっちり守られた市民の憩いの場だった。
祭の開催期間中は、円形闘技場前広場に次ぐ賑わいを見せる。トーナメントに興味のないひとは、ここで開かれるマーケットや出し物を楽しむのだ。
その戦勝広場の北東にある、列柱が特徴的な三階建ての建物が、自警団の詰所だ。
戦勝広場から見て横に長い長方形の自警団詰所は、その実、いわゆるコの字型をしている。コの字に囲まれたエリアには広い訓練堂が設えられており、全師団の出勤時刻をまわった今、そこでは予備隊員(十代の少年少女が所属できる自警団員の志望部隊のようなもの)を除いた全団員を招集、緊急全体朝礼が開かれていた。
各師団団長・副長と予備隊を統べる隊長・副隊長が壁際に並び、70名余りの団員が律されて堂に並ぶ。
自警団総長・ジノは、全前に立つと、挨拶も抜きに言った。
「ブラッドサッカーズが現れた」
ざぁ、と団員にさざ波がたつ。波の中には、「今年もか」「また来たか…」という小石が混じる。
ジノが、還暦を感じさせない姿勢で立ち、拡声器抜きでもよく通る声で「静粛に」と一喝する。
第一師団副長として壁際に立つ誠慈は、続く言葉にぎゅっと腹を引き締めた。
誠慈は、先ほど行われたばかりの緊急団長会議に出席している。
だからすでに続く内容は知っている。
「被害者は、例年通り全身の血を失った状態で、本日未明、例年通り礼勅川下流で発見された。死因は調査中。被害者は、ネツァク・ブロンズ・ドロレッド・バギー」
わっ、と、波がたち、第一師団付属自警団予備隊隊長として壁際に立つ、開彪きみ仁に当たって砕けた。波には「えっそれって」「犯人ってまさか」「やばくね?」という石ころがごろごろ転がっていた。
誠慈は、年若い友人のきみ仁を案じた。こうなるだろうことは、会議の時点で予想されていた。
きみ仁は沈毅として佇み、話の真偽を確かめるように、ジノを見ただけだった。ジノは再び「静粛に」とだけ放った。
元自警団予備隊員春日龍一がバギーとトーナメント決勝で戦ったこと、龍一の影軍師としてきみ仁がついていたことは、自警団員なら誰でも知っている。